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第3話 説明が欲しい

 手錠が外され、罪人を収容する施設の敷地から出て、俺は長官じじいと別れの挨拶を交わしていた。


「それではさようなら。次に会うのは地獄ですかね」


「何を言うか、俺はまだまだ盛んだ」


「地獄で会うってのは否定しないんですよね~」


「それは数十年後に、な」


「それ地獄行き決定と言ってますよね、少しはフォローしてくださいよ」


「天国行きの奴が監獄なんぞに入れられるものか」


「ごもっともで」


 俺は始終笑っていたけど、じじいは申し訳なさそうに眉を下げたままだった。性格に合わない表情は非常に気持ち悪く、馬鹿にして笑ったら怒られた。

 やっぱこのじじいは怒ってるくらいが丁度良いのだ。俺が監獄に収容される前と変わらないのがじじいらしい。


 収容されていたのは4年間ではなく3年間だったらしい。つまり今は24歳。俺も老けたものだね。


 迎えだと言う馬車の前でにこにこしている学園長のところまで行くと、僅かに顔をしかめられた。


「うーん……1度わしの屋敷に行って、身なりを整えようか」


 俺の格好に文句があるのだとさ。

 確かに、ボロ衣状態の囚人服に薄汚れた肌、ぼさぼさに伸ばしきった髪も衛生上よろしくない。髭は……何故か牢屋の中にあった髭剃りで剃っていたから、ない。

 手首と足首には消えない傷跡もあるが……これは仕方がないだろうな。枷って結構重いんだよなぁ。

 綺麗になるってなら俺も賛成だ。だがしかし、俺には必要なものがある。


「無一文なんですけど」


 只今の俺には金がない! 商会に預けている分が無事ならいいんだが……。

 しかし不安は学園長が砕いてくれた。


「心配要らないよ。それくらいなら金は取らないから」


「それは……ありがとうございます」


 人を死刑囚にしたあげく勇者候補の教官になれと無茶ぶりを言うのだから、それくらい当然かね、と納得。エリートな学園長様ならそこら辺にも太っ腹でいてもらいたい。


 馬車に乗ってみると、中には柔らかい椅子が設置されていた。流石金持ち、外見はそうでもないけど中身が豪華だ。


「ほう……」


 座ってみるとやはりふかふか。馬車に着けるには贅沢すぎやしないか。

 学園長は俺を見ながら、ずっとにこにこしていた。





=============





 それから数時間後。俺は名門・ブランシュ学園の門の前で仁王立ちしていた。

 髪は爽やかに切って、清潔にして、少し着崩したスーツ姿である。


「はぁ……」


 綺麗サッパリになったのは気持ち良いのだが、その経緯が大変だった。

 馬車でどこかの屋敷に入ったかと思うと、いかつい男達により連行されて、数人のメイドに引き渡されると彼女らは不気味な笑みを浮かべながら俺を浴槽に放り込んだ。

 素っ裸にされて、全身を洗われたのだ。勿論、洗ってくれたメイド達はメイド服着用。

 べ、別に、裸を見れなくて残念だったなんて、思ってないぞ……!?

 取り敢えず、凄く恥ずかしかった。何も、あんな入念に洗ってくれなくていいよ……!

 髪の毛はたぶんこの時に切られた……のかな。気付いたら短くなっていたんだが。


 風呂でピカピカにされた後はあれよあれよという間にスーツを着せられ、大きいバッグを渡され外に送り出された。


 俺は、馬車の中でゆったりと珈琲を飲んでいた学園長にねちねちと皮肉を言いたかった……。


 何か説明してからにしろよ、何事も! と。


 連行されたりいきなり剥かれたりと、心臓に優しくないのだ。3年ぶりの外で、そんなのないよ……。


 学園長曰く、


『あの屋敷はわしの別荘だから、情報規制はちゃんとしてるよ?』

『説明なんてしなくても、皆手慣れているから大丈夫かなぁと』

『……綺麗になったんだから、いいじゃないか!』


 と。

 一言目は、俺がここに来たという事実がなくなるということ。皆さん口が固いのだとさ。

 二言目については何か違う。メイドとかの使用人に説明するんじゃない。()()説明するんだよッ!

 三言目は、ねちねちとうるさい俺に対する逆ギレだ。短気だねぇ。




 さて、俺は学園の前で人を待っている。学園長は自分の仕事に戻ってしまった。自分の代わりに他の教官を迎えに来させるらしい。


 どんな人だろう。男かな、女かな。ここは女でお願いしたい。そしてできればボンキュッボンのお姉様で!

 ちなみに今更だが、今は午前7時半だ。学園長に貰った高級そうな腕時計で分かる。

 これからすぐに勇者候補の教育タイムになるのだったら、面倒だ。牢屋を出て数時間で勇者候補なんて奴らを教えるなんて、キツすぎる。体力がもたないよ、体力が。


 早く来ないかなーと思いながら仁王立ちで待っていると、門の向こう───学園の方から誰かさんが走ってきた。

 あれは……女だな。雰囲気からして、結構若いか。俺と同じか、下か。上には見えない。

 水色の髪が鮮やかなもんだ。目の色は群青色ってくらいに深いな。寒色系な外見だけど、笑顔が暖かい。


 女性は俺の近くまで来ると、勢いよく頭を下げた。


「お早うございます! ノア・アーカイヤ教官ですよね?」


「えぇ、そうです」


「私はエイダ・ギレンラです。ノア教官が受け持つ勇者候補クラスの補佐をする教官になりました。よろしくお願いしますね」


「はい」


 笑顔がチャーミングな、可愛らしい女性(ひと)だ。ハキハキとしていて、実に絡みやすい性格の人間。


「ノア教官は学園についてあまり知らないと学園長から伺いました。分からないことがあれば何でも聞いてください」


「では、早速」


「何でしょう?」


「貴女のスリーサイズを!」


「教えるわけないでしょっ!!」


 えー。何でだー。いいじゃんいいじゃん、スーツの上から見てもスタイルいいよ、君。なんだったら直接触って測るのもいい。そのスカートの中を覗きたいとか思っちゃうね。


「今絶対に変なこと考えてますね!? セクハラで訴えますよ!?」


「こほん……セクハラではありません。『分からないこと』があったから聞いただけです!」


 あ、軽蔑した目で見られてる。そんな顔でも可愛いなぁ。これ言ったら流石に叩かれそうだから、言わないけど。

 お読みいただきありがとうございますm(__)m


 付けたしですが……監獄とブランシュ学園はどちらも辺境に位置していて、近いです。馬車で数時間で着くほどには。



 この1話の登場人物

 ノア・アーカイヤ 主人公。教官になった。セクハラ発言有り。


 ゴリアグレ・ブランシュ ダンディ中年。学園長。金持ち。


 長官 じじい。


 エイダ・ギレンラ 美女。青っぽい外見。笑顔がチャーミング。セクハラは嫌い。

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