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第28話 エイダ教官の実家

 遠くから聞こえてくる笑い声で、意識が覚醒した。


「どこ、だ……ここ……?」


 目を開けると知らない天井が目に入って、ここが宿舎の自分の部屋ではないと分かる。

 起き上がり辺りを見回せば、どこかの家のようだと予想がつく。


「あれ……? あれから、確か……」


 気持ち悪さの余り、気を失ったのだったか。

 ったく、何だってあいつらは朝っぱらから俺の部屋に押し掛けてきたんだ……。あと30秒でもタイミングが違えば、あんま酷い目には───、


「ッ!!」


 どこだ!? あいつら、どこにいる!?

 部屋にはいない。なら外? そもそもここはどこだ? 俺は何故ここで寝ていた?

 さっき、笑い声で俺は起きたよな? どんな笑い声だった?


 あいつらは、無事なのか?


「───クソッ!!」


 まだ体は怠いが、それを無視して飛び上がる。

 スーツを着たままで寝たからそれはしわくちゃで目も当てられない状態だ。余裕あるときなら直すが、今はそれどころじゃない。


 耳をすますと聞こえる声に向け、走り出した。

 転移に巻き込まれてきたのも悪いが、あのまま気絶したのは俺だ。あいつらに何かあったら、俺に責任がある。

 無事ならそれでいいから、この目で確かめたい……。


 部屋を飛び出ると、明らかにどこかの家だと分かる。しかもかなり裕福な。……当主は、成金趣味なのかもな。

 声がするのは下からか……1階にいるのか? 俺がいるここは2階っぽい。

 下に続く階段を3段ずつ飛び越えて、声に向かう。声は玄関近くの一室からしていたらしく、そこから声と共に香ばしい匂いが漂ってきた。


 バンッ!


 人がいるだろうドアを思い切り開け、そこに飛び込む。

 するとそこには、キョトンとした顔の我が生徒達が、お菓子を片手に固まっていた。


 生徒、無事。むしろ元気そうにお菓子食ってる。


「~~~~ッ! 心配した俺は馬鹿だったッ!」


 どうしようもない恥ずかしさ、込み上げてくる安堵により、無視していた怠さが蘇ってきた。


 あ……こりゃもう1回気絶するわ……。





 脇の下に手を差し込まれてズルズルと引き摺られると、意識が戻った。気絶したのはたぶんほんの数十秒だろう。

 恐らくソファにでも運ばれたのだろうと思う。下がふかふかだ。

 そして未だにぼんやりした思考の中で、目は開けずに状況を窺う。


「───起きるの早かったわね、意外と」


 ミリフィアの、ツンとした声だ。

 次にエレンの声。


「あんなに体調悪そうにしてたのにな。……起きても、すぐ倒れちゃったし」


「『心配した俺は馬鹿だった』、ねぇ……。心配されてたのかしら?」


 クスクスと笑うミリフィア。笑ってないで、もうちょい俺の心配をしてくれても良いんじゃないかなぁ?


「にしてもエロいわよね、今の格好。鎖骨が見えてるわ」


「どっ、どこ見てるの、ミリフィア!」


「あらリマ、顔真っ赤よ? 鎖骨が見えてるって言っただけじゃない」


「さ、鎖骨……」


 え、誰? 誰の鎖骨? リマじゃないよな? だってまだ12歳なんだから、エロくない……と思う。ロリコンはどう思うのか知らん。


「エロ気もあるし、女受けも良い顔だから、黙ってればモテると思うのよね~」


「黙ってればモテると思うのは、俺もだよ」


「わ、私も……」


 だから誰の話だよ……。ミリフィアとリマとエレンがそう言うってことは、ジルベルトかルツってことで……。ダリウスは無いだろう。

 でもあの2人、そこまで喋る性格じゃないよな。黙ってれば、ってわざわざ言うくらいだから、2人のことじゃないのか?


「まぁ、黙ってたら教官じゃないみたいだけどな」


「エレンの言う通りね」


「うん」


 え、教官? 教官って言った?

 …………………あ、俺のことでしたか。

 確かに今世の俺は、王族の優秀な遺伝子を受け継いでいるので平均よか上だろう。

 だけどな?


 俺の弟と妹は俺以上に素晴らしい顔してるんですッ!


 俺には無い何かが、あの2人にはあるッ! それが何なのかはよく分からんが、俺より良いのは確かだ。

 王子時代の俺は仮面(本物)を被っていたから比較されることはほとんど無かったけど、分かってるから!


 内心で溜め息を吐いていたら、ドアが開く音がした。


「皆さん? 母の手が空いたそうなので、会っていただけますか?」


 エイダ教官の声だ。

 母? 母がいるの? エイダママさん? やっぱここどこですか。


「あれ? ノア教官、いつ起きたのですか?」


「さっき飛び込んできたわ。すぐに気絶したけど」


「そうなのですか。まだ体調悪そうですものね」


 うん、まだ怠い。動けないほどでもないが、動きたくない程度には。

 でもエイダママがいるって言うなら、挨拶くらいした方が良いんだろうな。


 俺はパチッと目を開け、重い頭を上げながらエイダ教官を視界で捉えた。


「………」


「……お早うございます」


 何も言われないので、取り敢えず挨拶しとく。

 エイダ教官は固まっている。生徒達も固まっている。えっと、why!?


「あのー、ここどこですか?」


「はうっ!? あ、ここは私の実家です」


 何故驚く。


「実家? 随分と広いですね?」


「はい。これでも最近、力を伸ばしてきた商家なので」


「ほう、商家の方でしたか!」


 そっかそっか、そうなのか。全然分からなかった。分かりそうな出来事なかったからな。

 商家と言えば、懐かしい奴がいたんだよな……。


 たぶん今は29歳か? 根っからの引き篭り体質のあいつ……。俺が無理矢理引っ張り出したら、外に出てきたけど。


「……ノア教官、具合は良いのですか?」


「まだ怠いですが、大丈夫でしょう。後でしっかり、あんなことした理由を説明してもらいますがね……?」


 クツクツと笑っていると、ドアから気品ある婦人が現れた。

 白髪混じりの茶髪は手入れされているのだろう、艶やかに映る。少し小皺もあるが、それでも若々しく見えるのは雰囲気のせいか。

 普段着であろう簡素なドレスも優美で、美しさに拍車をかけている。

 この人がエイダ教官の母親だろう。顔立ちが似ている。


 目でエイダ教官に訊くと頷かれたので、間違いなくエイダママだ。

 流石エイダママ。親子揃って美人だ。遺伝子がよく働いている。


 さて、挨拶するか……怠いけど。

 しかし立ち上がろうとすると、手で制された。


「そのままでどうぞ、アーカイヤ様。この度は娘が迷惑をかけたようで、誠に申し訳ございません」


 もうエイダ教官から話はされているようだな。

 やはり真っ直ぐな性格のエイダ教官の母親と言うべきか、この人も正義感が強そうだ。


 ここは俺もしっかりと受け答えをすべきだろう。

 そのままで、と言われたが、立ち上がってパパッと軽く身嗜みを整え、エイダママの傍で片膝を着く。

 頭を垂れて右手を胸に当てれば、貴族の礼の取り方のお手本だ。


「謝罪の言葉、しかと受け取りました。今回は母君様に免じて、エイダさんのことは多目に見ることに致します。

 申し遅れましたが、私の名はノア・アーカイヤです。エイダさんと共に、勇者候補を勇者にするべく、教鞭を振るっております。

 更に、倒れたままでした見ず知らずの私を屋敷に迎え入れてくださり、感謝の思いが絶えません。ありがとうございます」


 ここまで一気に述べてみせる。

 極めつけに、貴婦人の手の甲に触れるか触れないか程度のキスを落とし、王子時代によく浮かべていた甘い微笑みを浮かべる。

 エイダママは機嫌良さげに笑いながらエイダ教官を見て、


「婿にしない?」


「むっ、むむむむ婿っ!?」


「何を慌てているのです! こんな礼儀正しい、しかもイケメン、すぐどこかに取られちゃうわよ!」


「お母様、騙されないで下さい! ノア教官はセクハラ発言満載の、ただの変態です!」


「あら、変態というのも味があって良いわね……」


「お母様!?」


 面白いな、この親子。エイダ教官は突っ込みでいい感じだ。

 エイダママはノリがよくて素晴らしい。意外とお茶目なのなー。


 後ろの勇者候補達を見ると、『さっきの誰!?』という表情で固まっているのが5名ほど。ルツはいつもの無表情だ。

 そんなに変貌していたか? ふははははは、これが王子クオリティさ!


 互いに熱の込もった言い合いをしていた親子だが、結局はエイダママが折れたらしく、エイダ教官が勝ち誇った顔をしていた。


「ああ、イケメン婿が遠ざかっていくわ……」


 イケメン好きだね、エイダママン。

 エイダ教官は顔を真っ赤にして、俯いている。お母さんの言動が恥ずかしくて堪らないのだろう。


 何か言ってフォローしようと思い口を開いたその瞬間、


 ドッゴォォォンッ!


 と、何かが爆発したような音が()()()聞こえてきた。

 思わずエイダママを見る。───何か変な実験とか、してないよね?

 エイダママは気まずげな笑みを浮かべて、なんとか誤魔化そうとしている。


 そんなんじゃ、俺の野次馬魂は誤魔化されてくれないぜ?


 2階行こう。


「ア、アーカイヤ様!」


「すみません、日本人は野次馬魂が旺盛なので」


「ニホンジ……? って、あぁっ、アーカイヤ様ぁああッ!」


 サラバだ! 行くぜ2階へ!


 さっき音がした2階へ駆け上がり、こっちかなと思う方向に目を向ける。

 すると、奥のドアの前で倒れている青年がいた。

 ドアの向こうの部屋に何かいるんだろうか?


 近付いて、倒れている青年の顔を確認した時、俺は何があったのかを悟った。

 ニヤつく口許を手で隠しつつ、()()()が潜んでいるであろう部屋のドアのぶを掴んだ。


「懐かしんでいた数分後に出てくるなんてなぁ……」


 ほんと、爆笑ものだ。

 笑い声を抑えながらその扉を少しずつ開けていく。

 部屋の中にいる者に俺の姿が見えた頃、中から巨大な炎が俺を襲ってきた。



 お読みいただきありがとうございますm(__)m


 この1話の登場人物

 ノア・アーカイヤ 主人公。黒髪黒目。死刑囚。王兄。基本不真面目。

 取得属性魔法:闇、水、雷


 エイダ・ギレンラ 水色のロングヘアーと群青色の瞳。商家の娘。

 取得属性魔法:治癒、火


 リマ・ニフェン ピンクゴールドのショートボブに琥珀色の瞳。12歳。


 ミリフィア・メイデン オレンジ色の髪。瞳もオレンジ色。15歳。正義感が強く、勝ち気な性格。


 エレン・オスタリア 明るい茶髪。蒼い瞳。お人好し。17歳。


 エイダママ 名前はまだ出ていない。美しい貴婦人。お茶目なところあり。


 その他 モブモブしていたので割愛。

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