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第26話 酒の席《エレン目線》

 エレン目線。。ぐだぐだしております、すみませんm(__)m

 引き続き、エレン君目線でどうぞ!

 ───革命者様は、本名をアディニス・レイリッジ・レヴェリッジと言う。レヴェリッジ王国の第1王子だ。

 その王子殿下は、3年前のクーデターの際に命を落とされた。

 妃であるエレノア・ジェレマイア様も、御一緒に天に召された。

 後継ぎはおらず、現在の王家直系は国王陛下と王女殿下のみ。

 国王陛下は20歳で、王女殿下は16歳。国王陛下には、妃はいらっしゃらない。

 王女殿下にも婚約者などの存在はない。そもそもこの国の王族は婚約者をつけないことが多いのだが。


 陛下と王女殿下は、革命者様の影響を強く受け、平和的な考えの持ち主だと言う。

 お2人を支えるのは、根の良い貴族ばかりだとか。

 その貴族達も、革命者様が懇意にしていた者が多いらしい。

 だが、国の中枢の真実は中枢にしか知られていないのが本当だ。だから俺達みたいな平民が知る情報が正しいとは限らない。


 ───クーデターの真実も、秘められたままだ。

 革命者様が活躍したことだけが、皆に広められた。


 だが、何がどうなって今の国になったのか、革命者様は何をしたのか、実際の被害の多大さなどは秘匿されている。

 だから、真実は分からないのだ。





=========






 教室に貼ってあった校舎全体の地図を見て、俺は急いでノア教官の部屋に向かった。



 宿舎の廊下を早めに歩き、ノア教官の部屋の前に到着。

 そして、ノックしようと右手を上げた瞬間、ガチャリとドアが開いた。


「っ……」


 思わず、驚いて後ずさる。

 目の前で、ノア教官が真っ青な顔で余裕が無さそうにしていたから。


 動けないでいたらノア教官が小さい声で、


「エレン君? どうしました?」


「え、あ、……っと、落とし物です、教官」


 教官から言ってもらえてよかった。あのままだったら、教官がどっか行っちゃっても呆けて見送っていたと思う。

 そんなことを考えながら、銀色の懐中時計を差し出した。


 するとノア教官の片方の眉がピクッと動き、口許が緩んだ。


「……落ちていましたか。ありがとうございます」


 さっきの余裕ない表情は、これを探していたからだったみたいだ。

 懐中時計を渡すとすぐに穏やかになったから。


 ……これじゃあ、ミリフィアの言っていたことが本当だと思えてきちゃうな。

 この懐中時計の中には、革命者様の妃様の写真が入っている。懐中時計自体じゃなくてその写真を探していた……と、思えるし。


 何より、この人だったら王族と知り合いでも意外じゃない。……なんて、思う。



 ミリフィアの話を信じかけている俺の表情を見た教官は、怪しむように目を細めた。


「……見ましたねぇ?」


「い、いえ……」


 表情で分かっちゃうんだろうか。それとも読心術でも使えるのか。


 懐中時計の中身の写真を見たから怒られるのかな……。それは嫌だ。さっき知ったけど、この教官は怒ると怖い。

 どうやって言い訳しようか考える。嘘を吐くのもありだけど、バレたときが怖い。

 視線ををあっちにこっちに動かして挙動不審な俺に、教官はまだ青白い顔だけど微かに笑った。


「見られたものは仕方ありません。許してあげるので、ちょっと付き合ってください」


「ちょ、教官!?」


「なに、夜には帰しますよ」


 そういうことじゃなくてっ!

 と叫びたかったけど、さっき『許してあげるので』って言ってたから……逃げたら……駄目かな……。


 そんな訳で教官の部屋の中に強制連行された。

 教官の部屋は、必要な家具以外何もない。他の教官の部屋は知らないから分からないけど、俺の部屋よりも簡素なことは確かだ。

 あるのはソファが2つと、その間に長テーブルが1つ、書類を書くための机と椅子、クローゼット、あとベッドだけ。

 長テーブルの上には、中身がワインだろうボトルと、複数のワイングラスがある。


 教官は長テーブルの上に置いてあるボトルを1本開け、グラスに半分程まで注いだ。

 グラスを片手で持ちながら、ソファにどっかりと座り込んだ。


「座ってください。そこのソファにでも」


 場所を明確に示されたので、教官が座るソファの向かいのソファに腰を下ろした。

 そうしている間にも、教官は左手の人差し指の先で氷を作っていた。

 無詠唱で。


 純粋に、これは驚くべきことだ。まず水の派生魔法を使えるだけでも凄いが、そこは『この教官だから』で納得できる。

 だけど無詠唱はなかなか出来るものでないし、そもそもただ単に氷を作るだけの魔法なんてない。

 氷は存在するけど、それは魔法陣を使用した緻密な作業のもとで出来るもので、人の手でやるには氷を作る()()というのは、聞いたことがない。


 教官は四角い氷を作り、ワインの上に浮かべた。

 その様子を俺が呆気に取られて見ていることに気付き、ニヤリと笑う。


「驚きました? これでも優秀なんですよ?」


 強い、強いと思っていたけど、まさか魔法の技術もあるとは思っても……いや、意外ではなかったかも。


 目の前の人は、氷を浮かべたワイングラスを傾けて口に流し込んだ。



「……流石は学園長。持ってる酒も高級で美味い」


「そうですか……」


 ん? さっき聞こえちゃいけない言葉が聞こえてきた気がする。

 学園長の、お酒?


 俺の視線に教官がクスクスと笑う。笑い事じゃないよな……!?


「いいんですよ、別に。気にしない、気にしない。あ、エレン君も飲みます?」


「飲みません!」


「遠慮しなくて良いんですよ? 学園長が君を罰することはないでしょうし」


「そういう問題じゃなくて!」


「年齢ですか? 俺がエレン君くらいの歳には、もう飲んでいましたよ?」


 駄目だこの人! 常識が通じない! 思考回路どうなってるんだ!?


「酒が駄目ならジュース飲みませんか? お菓子もありますよ」


「いえ、いいです」


「いえ、お礼ですから」


 お礼と聞いて俺はきょとんとする。

 何のお礼だか分からない。


 教官はスーツのポケットから、あの懐中時計を取り出した。

 ミリフィアの話が蘇ってくる。


『でも妃様は革命者様と添い遂げることを決められ、自暴自棄になったあの教官……! 自分の想いを受け止めてくれない妃様と、にっくき恋敵の仲の良い方々を殺す……! これなら、図星なのかもしれないわね』


 うーん……どうなんだろう。突拍子もない考えだけど、有り得るような、有り得ないような……。


「エレン君?」


「うおっ、はい!」


 考え事をしていて、呼ばれていることに気付かなかった。

 もう何杯か酒を進めた教官は、青白かった頬をようやく赤くさせ始めていた。


「この時計は大切な物……というのは、中を見て分かったんでしょう?」


「いえ、エイダ教官がそう言っていたので……」


「あれ? じゃあ、肖像画の人のことは?」


「それは、俺とジルベルトしか見てません」


 エイダ教官とミリフィアは、近くにいたけど見ていない。

 エイダ教官は中を見る前に行ってしまったし、ミリフィアは俺がさっさと閉じてしまったので見れなかった。

 ……あれ? これってジルベルト見ちゃったけど、大丈夫なのか……?


 見ると、教官は遠い目をしていた。


「ジルベルト君ですかぁ……」


「はい……。エレノア・ジェレマイアっていう、革命者様の妃様だと教えてくれました……」


「あー、うん、そう……ですけど……」


 どうにも歯切れが悪い。これだと俺本当に、ミリフィアの話を信じそう……。

 教官は頭をガシガシ掻いて、酒を進める。


「……何か飲んだり食ったりしてください。間が持たなくて嫌です」


「あ、はい」


「お菓子は俺の机の上、ジュースはそっちの部屋の冷蔵庫の中です。何でもありますから、好きなのどうぞ。飲むにはこれしかありません」


 ワイングラスでジュースを飲むのか。っつか何でワイングラスが5個もあるんだ。

 あと教官、ペース上げすぎ。さっきまでの速さの倍はある。



 ジュースとお菓子を持ってソファに戻ると、ワインを飲みながら空いてる手で懐中時計を弄っていた。


「エレン君、テストはどうでした?」


 話題変わった! すごい変わった!

 ……話したくないってことかな。じゃあ突っ込まない方がいいか。怒らせたくない。


「テストは……地理と算術が、あまり……」


 今まで使う機会も覚える機会も無かったこの2つは出来なかった。他はそこそこだけど……。


「そんなもんでしょうね。算数はこの世界じゃ、足し引きができれば生きていけますし」


「『算数』? 『この』世界?」


「それと、授業に実戦も取り入れようと思うんですけど、どうでしょう?」


「俺には何とも……」


「あと、怖かったですか?」


「え」


 何が、とは聞かない。分かっているから。

 怖かったかと聞かれれば、怖かった。教官が怒って。


 でも、この人はそういうことは気にしないと思っていたから、意外だ。

 今はほろ酔いでニヤニヤ笑っているけど、怒ると凄く───


「実はあれ、本来より怖く感じるように闇魔法をかけていたんです」


「闇魔法?」


 どういうことだろう。俺は首を傾げる。

 教官は嬉しそうに笑い、ぐいっとワインを煽る。


「えぇ。俺の取得属性魔法は闇、水、雷の3つでして、特に闇が得意なんです。

 闇は呪いの類いに特化している属性ですね。それを俺は呪いだけでなく、精神に負荷をかけられるようにしたんですよ。

 相手にそういう感情を植え付けたければ、植え付けられる。精神操作もお手の物。

 それを使って、あの時は『恐怖』を与えました。……まぁ、実際にキレかかっていましたが」


 教官は、熱くなってきたー、と言いながらスーツを脱ぎ、ワイシャツを第2ボタンまで開けた。

 そして懐中時計の中───肖像画を見ながら、眼差しを甘くさせる。


「君が……君達があの阿呆の言葉を信じたか知りませんが、俺は王子と恋敵などではありませんでした」


 あ、よかった。

 教官の言葉が嘘かもしれないって? そんなこと思いません。


「敢えて言うなら、王子の部下……? 友人……?」


「うわ、すごい……」


「凄くありません。面倒でした」


「うわ、色んな意味ですごい……」


「エレン君、君もっと人を疑った方がいいですよ」


 え、疑うって? 今の話を? じゃあやっぱり嘘なのか!?

 顔をしかめさせて悩んでいると、教官は立ち上がり、俺の隣に座って俺の頭をわしゃわしゃと撫で始めた。


「わっ!? 何ですか!」


 暴れても放してくれなくて、それどころか手の動きは更に激しくなった。


「いやぁ、君のことを見てたら弟を思い出しまして。君みたいに、人を疑うのが苦手な子で、お人好しの弟です」


 そう言う教官は、少し寂しそうにしていた。

 教官の弟かぁ……。聞いた限りだと、けっこう純粋そうな人だなぁ……。


「今じゃあ一人立ちしていて、立派になっているようですが……昔はちんまりしてて、可愛かったんですよ……」


 ふぅ、と教官は溜め息を吐く。

 ……こんなしんみりした空気になっているのに、何でまだ俺の頭を撫でているんだ。


「教官、放してください!」


「んー……じゃあそろそろ解放します。もう充分にジュースとお菓子あげましたし」


 あ、そっちの『放す』と思ったんだ。俺を帰す方だと。もういいんだ。

 教官はクツクツと喉を鳴らしながら腰を上げた。俺も立ち上がる。

 廊下に出たとき、部屋の中の教官に向き直る。


「ではエレン君、勇者になれるよう頑張って下さい」


「……はい」


「じゃ、また月曜日に」


「はい……さよなら」


「はい、さようなら」


 優しい微笑を浮かべながら、教官は部屋のドアを閉めた。





 ────やっぱり教官は、革命者様の敵とかじゃなかった、んだよな。

 うん、よかった。

 てか教官、婚約者いたって言ってたもんな……。


 お読みいただきありがとうございますm(__)m

 ストックが切れましたので、ここから不定期更新になりますが、ご了承下さいm(__)m


 この1話の登場人物

 エレン・オスタリア お人好し。なかなか思うようにふざけてくれないキャラで作者は困ってます。良い子……です!


 ノア・アーカイヤ 主人公。学園長から何かをパクるのには躊躇わない。ワイングラスも学園長の私物。王兄。妹(王女)もいる。ワインが好物。

 取得属性魔法:闇、水、雷

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