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第19話 ボイコットした生徒達は。


 ───時は1時過ぎ。

 ある、生徒用の宿舎の一室に、勇者候補である2人の少女は居た。

 少女であるから、いわずもがな、リマ・ニフェンとミリフィア・メイデンである。

 リマという12歳の少女は琥珀色の瞳で不安そうにミリフィアを見つめる。それをミリフィアはオレンジ色の瞳で、強気に見つめ返した。


「ミリフィア……本当に、いいのかなぁ……。サボるなんて……」


「何回も言ったでしょ。いいのよ、リマ。死刑囚なんていう、しかもあんな変な奴の授業なんか、こっちから願い下げだわ!」


「悪い人には見えなかったけど……」


「確かにあなたのこと助けてくれたけど、死刑囚なのよ? しかも()()監獄に入れられていたなんて、絶対に極悪人だわ」


 ノアのことを好意的に受け止めているリマに対して、ミリフィアはよく思っていない。むしろ、悪く思っている。嫌いと思っていると言っていい。


 リマはあの時───ジルベルトに突っ掛かられている時に、ノアに助けられたことを感謝している。

 リマもノアも知らないことだが、貴族であるジルベルトはこれまで厳しい鍛練を積んできたので、単純な実力ならば現在の勇者候補の中では最も強い。

 止められるのはノアだけだったとも言えるので、リマは彼に感謝して当然だった。


 反するミリフィアはノアに助けられた訳でもなく、もし自分が助けられたのだとしても、ノアが死刑囚と知った途端に嫌悪感を露にしていただろう。

 それは過去にあった1件が起因しているのだが、今は置いておく。

 勝ち気で正義感の強いミリフィアは、『罪人』という立場にある人間を蔑んでいる。

 ノアが罪人であるからには、素直に彼の言うことは聞かない。授業も聞くことはない。


 今回のボイコットの半分は、ミリフィアがリマを引き止めたことによるものだったのだ。

 ボイコットした4人が協力して、授業をサボったのではないのだった。


「でも、ミリフィア……」


「なに?」


「お腹空いたから、食堂には行こうよ……」


 リマがそう言うのと同時に、ミリフィアの腹から『ぐううう』という豪快な音が響いた。

 朝食は7時過ぎに食べたので、もう腹が減っても仕方ない時間帯だった。

 ミリフィアは顔を赤くさせながら立ち上がり、


「そ、それもそうね! 食べないと動けないものね! 行くわよ、リマ!」


「うん!」


 少女達は手を繋いで、仲良く食堂に向かっていった。





 ───同じ頃。

 食堂には、通常の生徒に紛れ、常人の倍以上は食べ続けている少年と、そこから少し離れたところに本を読みながら食事をする少年が居た。

 本を読みながら食事をしているのがルツ・ディルス。新緑色の瞳と、深い緑の髪を持つ少年だ。18歳と、勇者候補の中では最年長になる。

 常人の倍以上を食べる少年がジルベルト・ド・ワーシレリア。くすんだ緑の瞳に、濃い灰色の髪の17歳。現在の勇者候補の中で、唯一の貴族だ。


 彼らがボイコットした理由は、それぞれによるもので、2人が手を組んだわけではない。

 結果的に、1人しか教室に残らなくなってしまったのだが、これは全く不運なこと……とも言い切れない。

 そもそも、ノアが自分のことを死刑囚だと言わなければ、少女2人はボイコットなどしなかったのだから。


 ジルベルトはただ単に『あいつ嫌だ。気に入らない。授業なんかサボって大丈夫だろ』と思い、ボイコットをした。

 それもそうだろう、会ってすぐに叩きのめされ、椅子に縛り付けられ、父親を侮蔑されたのだから。

 結局、ノアの自業自得だった。


 ルツの場合は、ノアはあまり関係ない。授業を受けずに本を読んでいたい、と思ったから教室にいないのだ。

 こちらはボイコットというか、自分本意に動いているだけであった。



 ガヤガヤと賑わいを見せる食堂に勇者候補の少女達が入ってきたその時のことだった。


『ぴんぽんぱんぽーん、ぴんぽんぱんぽーん』


 機械のチャイムではなく、人が直接言っているとしか思えない声が、放送に入った。

 何事だ、と食堂に居る者達の動きが止まった。


『ぴんぴんぽんぽんぱんぱんぽんぽん、ぴんぱんぽんぺんぺんぽんぴぱん~』


「「「「「…………」」」」」


『ぱ~んぴ~んぷ~んぺ~んぽ……『長いですって! 後で怒られますよ!?』……エレン君よ、君って突っ込み気質?』


 何だこのふざけた放送は……。

 誰もがそう思ったのであった。


 一般の生徒はこの放送の声が誰のものなのか分からないが、勇者候補の4人は流石に分かった。分かってしまった。


「あいつ……何をしようって言うの!?」


(ミリフィアが怖いよ……)


「うるっせぇなぁ……」


「……読書の妨害」


 自分達の担当教官で間違いはない。あんなふざけた調子の教官は、自分達の担当教官しかいないだろうから。

 こんな放送を流して何をするつもりなのか、勇者候補には分からない。妙なことでもやらかすつもりか。


『はい、じゃあエレン君が怒っているので本題を言います。

 今から10分以内に、中庭に来なさい。誰に言っているのか、分かりますよね、本人達? 集まってくれなかったら個人情報バラ撒きます。ついでに本人の秘密や恥ずかしい過去、スリーサイズまで!

 1人でも来なかったら、全員のそれらをバラ撒くので、そこんとこよろしくお願いしますね~。ではっ!

 ───エレン君、中庭ってどこでし───プツッ』


((((最後の声、マイクに入っちゃってるから!))))


 食堂にいる勇者候補の思いが1つになった瞬間だった。ただの突っ込みであるが。


 騒がしかった食堂は、いつの間にか静まり返っていた。微かに、厨房からおばちゃんの声が聞こえる程度だ。

 厨房のおばちゃん以外の皆、野次馬魂満載で聞き耳を立てている。特に目的は無いが、好奇心が強いので聞こうとしているまでだ。


 このような空気の中で動くことは、注目を浴びる。動けば、その者が先程の放送で呼び出されていたのだと思われるのだから。

 だが、


「……チッ」


「……行ってみるだけ行くかぁー!」


「ミリフィア、わ、私も……」


「読書の妨害されたら堪らない……」


 彼らは動くしかなかった。

 秘密をバラすと脅されたのだ、行くしかないのだ。

 相手は教官と言えど死刑囚。罪人だ。どのようにして自分等の恥ずかしい過去やら何やらの情報を得るのか分からないが、あのノアという男ならポーズではないこともない。


 特にジルベルトは自分の父親のこともあり、妙な気分になりながらも

『何をする気か知らないが、ギャフンと言わせようじゃねぇの』

 と思い、立ち上がったのだ。







 ボイコットした勇者候補4人が中庭に到着した。

 放送を聞いたエイダもこめかみをピクピクさせながらやって来た、その10分後。ノアはエレンと共に登場した。

 大きな声で口喧嘩をしながら。


「呼び出した本人がトイレなんか行かないでくださいよ! しかも大便ですか!!」


「俺だって人間なんです、大きい方もするんですよ! いいじゃないですかちょっとくらい! あいつら、ボイコットして俺がどんだけ寂しい思いをしたか分かってな───」


「寂しくなかったですよね! 絶対、『寝れてラッキー!』くらいには思ってましたよね!?」


 この数時間でノアの人柄に慣れてしまったエレンは、普通に会話していた。

 その光景は他の勇者候補にノアを、多少なりとも危険視させない役割を果たした。が、警戒心は消えない。

 何をするつもりなのか、それが気掛かりなのだ。


 身構える4人を前に、エイダがノアを怒鳴り付け始めた。


「ノア教官! 5分前行動が大事なのに、遅れて来るとは何事ですか! 用はさっさと済ませるものなのですよ!」


「いや、だからトイレだって……」


 これまたノアに威厳が見られないが、警戒心は解かれない。解くはずもない。───死刑囚に対して、解くはずないのだ。


 エイダを宥めた後、ノアは勇者候補4人に完璧な笑みを───完璧過ぎて、笑っているようには見えないような笑みを向けた。


「集まってくれて何よりです、生徒諸君。4人だけですけど」


 どこか気に障る言い方だ。これを自覚して言っているのだろうか、無自覚なのだろうか。

 自覚していたとしたら腹の立つ相手だが、無自覚だとしたら───ある種の、才能だろうか?

 もっとも、この人物ならば計算しての言い方だと思えるが。そういう人間だと、思われている。


「ここに来てもらった理由は他でもありません。えー、まず俺が思ったこと言うなら、

『なに授業サボってくれてんですか、不良を受け持つなんて俺は聞いてません』

 ってとこですね。おっと、授業サボる奴は不良ですから! 誰がなんと言おうと、俺の中では不良ですから!」


 ミリフィアが、『不良』と言われて目付きを悪くさせたが、ノアは少し語尾を強くさせて言い放った。

 ノアの話は続く。


「どうせ俺が死刑囚だから受けないんでしょう? そうじゃない人もいるんでしょうけど、女子2人なんてそんなもんじゃないんですか? 授業サボった理由。

 そうしたら永遠に、俺の授業なんか受けてくれませんよね? 俺が罪人ってことは変わらないんですから」


 これらの言葉を悲しげでも、ただ完璧の笑顔のまま述べていった。その姿は、貴族として腹の探り合いが多かったジルベルトから見ても、不気味であった。

 平民であり、感情と顔の表情はほぼ同じであった他の勇者候補から見れば───言うまでもなく。

 同じく不気味に思ったエレンが、ノアの耳元に口を寄せた。


「教官、その笑顔怖いですよ」


「え……前にもそれ、言われたことあります……。そんなに怖いですか?」


 その笑顔はノアが王子として仮面を被っていた時に身に付けたものであり、もう顔に染み付いてしまっている。

 直そうと思っても直せないのだ。ノアはもう直すことを諦めている。


「うーむ、まぁいいじゃないですか。

 で、話の続きですよ。今は俺の顔のことはどうでもいいんです」


 どうでもいい、と言いつつも笑顔を消したノア。今度は少し不機嫌そうな表情になった。


「一言で言うとですね、授業を受けて欲しいんです。でも一筋縄では行かないようなので、1つゲームをしましょう」


 お読みいただきありがとうございますm(__)m


 この1話の登場人物

 ノア・アーカイヤ 主人公。黒髪黒目。死刑囚。

 取得属性魔法:闇、水、雷


 エイダ・ギレンラ 水色のロングヘアー(ロングなの書き忘れてました。。)と群青色の瞳。時間は大事。

 取得属性魔法は火と治癒。


 リマ・ニフェン ピンクゴールドのショートボブに琥珀色の瞳。12歳。


 ミリフィア・メイデン オレンジ色の髪をポニーテールしている。瞳もオレンジ色。15歳。正義感が強く、勝ち気な性格。


 ルツ・ディルス 新緑色の髪を長い1本の三つ編みにしている。瞳は深緑色。細身。18歳。常に読書している。


 エレン・オスタリア 明るい茶髪。蒼い瞳。お人好し。17歳。


 ジルベルト・ド・ワーシレリア 濃い灰色の髪。くすんだ緑色の瞳。17歳。ワーシレリア公爵家の長男。

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