第15話 寝言の多い同僚《エイダ目線》
生徒大好き、エイダちゃん目線っ☆←
「んん……神様がぁ、神様がぁあ……学園長を食べたッ! ……………え?」
あれ? 何だか凄く変な夢を見ていたような気がします。学園長が神様とか、なんとか。そんな訳ありませんよね!
いつの間にか眠ってしまっていたようで、私は見覚えのある天井を見ました。とても見覚えがあります。だってこの天井は宿舎の天井なのですから。
ということは、ここは宿舎の私の部屋なのでしょうか……?
辺りを見回すと、私の部屋でないことはすぐに分かりました。ここまで殺風景ではありません。それに、私が教科書を散らばったままにしておくことなんて、まずありませんので!
窓から入ってくる太陽の光からして、もう夕方でしょうか……。その窓の下にある机に、黒髪の誰かさんが突っ伏して寝ているのは、幻覚なのでしょうか……。
「すぅ……ステーキ………」
……幻覚では、ありませんね。
黒髪の誰かさんはノア教官です。黒髪なんてあまりいませんし、寝言で『ステーキ』なんて呟く人、そんなにいないでしょうから。
ここが私の部屋ではなくて、ノア教官がいる……。では、ここはノア教官の部屋なのでしょうか。ここまで殺風景なのも、今日来たばかりのノア教官の部屋であるからなら、納得がいきます。
「ステーキ……ポテチ………じゃがり◯ぉ……!」
では何故私はここにいるのでしょう。確か、眠ってしまう前は……学園長に呼ばれたのでしたね。
「テレビ見たい……ゲーム………ラノベぉぉ………!」
幻聴が聞こえてきますね。私はまだ若いはずなのですが……。
学園長に呼ばれて、学園長室に入って、えぇと……。
「アニメ見さして……」
……………。
「あぁもうっ! さっきから何言っているのですかッ! 意味の分からない言葉ばかりッ!!」
『テレビ』やら『ポテチ』やら、訳の分からない単語ばかりです!
私はベッドから降りると寝言の激しいノア教官にずんずんと近付き、その隣で仁王立ちしました。あぁ、今も何かぶつぶつと呟いていますね!
「ノア教官、あの後どうなったのですか! 聞かせてください!」
「……エ……ア…………ふぃー……」
「教官んんん!」
起きてほしいのですが、揺さぶってまで起こそうという気がしません。起きるまで待つことにしましょうか……。でもいつまで待てばいいのか……。
今日はもう部屋に戻って、明日聞けばいいのでしょうか。しかしそれだと少し薄情者のような……いえ、そんなことありません! よね?
改めて、ノア教官の眠る横顔を見ます。黒髪がさらふわです、理想の髪質ですッ。睫毛は長いし、それぞれのパーツも良いし、バランスも良いし……。
「妬ましいほど美形じゃないですかぁ……!」
女装させてみたくなるほど美形でした。今は眠っているので可愛いとも思えてしまいます。
『元が良い』と言っていましたね……? ご両親も、さぞかし美形なのでしょう……羨ましいです。
外見(主に顔)のことは大体分かりました。ですがこの人は謎がいっぱいです。だって、死刑囚ですから。
3年前から囚人になったと言っていましたが、どんな罪を犯したかは、私は知りません。聞かれたくないことでしょうし、何より、詳しく聞いたら私自身が怖がってしまいそうなので……。
今だって充分怖いですよ? ですが『囚人!』という表情や雰囲気が今まで全く無かったので……実感できないのです。もっと顔が悪くて、口調も行いも乱暴なら……。今までのが演技なのかもしれませんが。
ですが学園長が推薦してしまうほどの人物なのです。私がこの人を認めないのは、学園長も認めないのと同じような気がします……。
でも、まだ1日目ですからね! これからもっともっと時間があるのですし、大丈夫ですよね! ノア教官のこと、ちゃんと同僚として見れますよね!
「むにゃ……」
ノア教官、まだ寝ています。隣で私が立っているのに、随分と眠りが深い……。ハッ……! では、イケるでしょうか……!
この、さらふわの髪を、触れるチャンス……!?
手触りを確かめたい……! ので、私は早速ノア教官の髪に手を伸ばしました。
「あぁっ、予想以上に……!」
素晴らしい!! こんな髪の毛触ったことありません!
そのまま数分間髪をいじっていると、触っている方の手首をガシッと掴まれました。
お、起こしてしまったでしょうか……? さっきまでは起きてほしいと思っていたのに、もう髪を触れられないのかと思うと、起きてほしくありません。
恐る恐る顔を見ると、目は閉じられたままです。ノア教官の左手が私の右手首を捉えているだけです。ま、まだ起きていないのでしょうか……?
起きていないのなら、手を放してほしいです。ここから左手で触るのは大変なのです。
「……エル───」
え、ノア教官、また寝言ですか? しかも今度は女性の名前ですか? 男性なのか、『エル』だけだと分かりませんが、私の勘が『女だ』と言っています! やはり3年前まで女誑しだったのですね!? きっと今から何人もの女性の名前を───
「エル……むにゃ………」
───言いませんでした。1人だけです、呼んでいるのは。
ちょ、痛い痛い痛いです! 強く握らないで下さい! 潰れますぅうううっ!
ノア教官の寝相、悪すぎですよ!!
……あ、痛くなくなりました。握る力が弱まったようです。
ノア教官の顔を見てみると、辛そうに歪められています。……何故でしょう? その『エル』という人が関係しているのでしょうか?
私の右手はいつの間にかノア教官の左手に乗せられていて、ノア教官の口許に寄せられていました。
うーん……夢の中で『エル』さんにプロポーズでもしているのでしょうかね?
そう思っていたら、色気駄々漏れの声が私の耳に入ってきました。
「君がいなくなったら、私はまた独りになってしまう───」
色気がッ! 色気が凄いですッ! プロポーズですか!? これってプロポーズなのですかッ!? ついでに、ノア教官、1人称が変わっていますよ!?
本当、よく分からない人ですね……。キャラが定まっていませんよ? 謎キャラ設定ですか、そうですよね。
……今、私がやるべきことは1つです。決まっています、たったの1つです。
それは辛そうな表情をしているノア教官を優しく起こすのではありません。そんなの論外です。
そうっ、ここは1発───
「エイヤァァァァッ!!」
バッッシィィィィンッッッ!!
「いったぁああああああッ! いだいッ、いだいッ、ぐぉぉぉぉぉぉぉ……ッ!」
───平手打ちすることです!
寝言でも、いくら寝言でも、女性に人違いでプロポーズするなんて、許せませんものねっ!
お読みいただきありがとうございますm(__)m
この1話の登場人物
エイダ・ギレンラ 水色の髪と群青色の瞳。何だかんだで優しい人((だと作者は思っている。ドジっ子にしたいという願望があるが、キャラ作りがどうにも上手くいかない。
取得属性魔法:治癒、火
ノア・アーカイヤ 主人公。黒髪黒目。今回は寝言を吐かせた。最終的にエイダに平手打ちされる。
取得属性魔法:闇、水、雷




