第14話 歴史の教科書
さてと、今、俺は困った状況に置かれてしまっている。
あの後───クソ神の部屋(学園長室だって所詮は部屋だ)からエイダ教官をお姫様抱っこして出てきた後だ。
俺は数時間前に案内された教官専用の宿舎まで来たのはいいが、エイダ教官をどうすればいいのか分からない。まだ起きないからって放置する訳にもいかんからな。
エイダ教官が泊まっている部屋に運び入れることも出来ない。女性専用の宿舎に男は入れないからだ。
反対に、女性は男専用の宿舎に立ち入り禁止されていない。理不尽だ!
だが反対が禁止されていないので、ある1つのことが出来る───。
もう、俺の部屋に連れてきちゃえっ!
そんな訳で俺は今自分の部屋にいる。エイダ教官と一緒に、である。
エイダ教官はベッドに寝かせておく。その内起きるだろうけど、一応毛布でも掛けておいた。
俺は改めて自分の部屋となった空間を見渡した。何とも、実に殺風景だ。
必要最小限の家具はある。椅子やベッド、机は言うまでもない。金持ちの名門校だからか、風呂とトイレは設置されている。服もクソ神の邸のメイドさん達に持たされたものがある。
そして───他には何もない。
このだだっ広い部屋に! 他に何もない! 重要なことなので2回言いました!
こんなに広くしたって何にもなんないよ……。ここ作った奴誰だ。どうせ金持ちなんだろ!
……文句言ってもしょうがないな。金は休みにでも預けている商会に取りに行こう。3年前のだけど……無くなってなんかいないよね?
「……金がなかったらクソ神に貰おう。どうせ腐るほど持ってるだろう」
おっと、独り言が。監獄に1人で居た期間が長かったから癖が抜けない。直さないといけないなぁ。
……………暇だ。何もすることがない……のは、この3年間と変わらない。
だが見つけようと思えばやるべきことが出てくるのが、監獄の外の生活だ。
折角だし、荷物の中を漁ろう。メイドさんに渡されて、中身を確認していないのだから。
キャリーバックのような形の鞄を開けると、中身が溢れ出てきた。……どんだけ入れたんだよ。逆に凄いぞ、どうやって入れたんだ。
なになに~? 中身は服と筆記用具(ノートや色付きペン等々)と少しのお金(ここから王都までの馬車賃程度)、それに教科書(学園で使うのであろう、魔法の本から基本的な座学まで計10冊あった。どれも分厚い)が入っていた。
多いわ! ってかこんなに入っていたのに何で重く感じなかったんだ? あのメイドさん達、謎だ……! いや、この鞄が謎なのか……?
教科書の中にはこの国の歴史を書いてあるもの、つまり歴史の教科書があった。
ここ3年間のこと、何か書かれていないかなぁー。情報不足で困るんだよ。
部屋に置いてあった椅子に座って、重い教科書を机に置いた。ぺらっ、と教科書を捲る。そこには年表が2ページ分使って『ここが~時代』というのが詳しく図に示されていた。
「ここじゃないんだよな……。3年前、3年間……っと、ここか」
近年のことなのによく載っていたな。まぁ、納得はいくけど。3年前は大規模なクーデターが起こったから。
「ふむ、クーデターの中心人物は第1王子殿下。当時までの腐った貴族達による政治に憤り、クーデターを起こす。クーデター後は多くの貴族、並びに当時の国王陛下と第1王子殿下も亡くなられた……。しかしこの勇気ある行動から、殿下は『革命者』と呼ばれるように……うわっ、厨二臭い」
その殿下のことは他国でも有名だったと聞いていた。良くも悪くも、有名だった。
良い面では、社交術がとても優れていたことや、王族として相応しい人間───国のためならどんな残酷なことも行う───として。
悪い面では、得体が知れないということで。
彼は小さい頃、何者かによって襲われたのだ。夜中に、彼の眠る寝室に火を投げ込まれた。命は助かったものの、それによって顔の上半分が熔けてしまったのだとか。治療しようにも、協力な精霊による魔法だったらしく、不可能に終わったそうだ。
だから彼はそれ以来、ずっと顔の上半分を隠せる仕様の仮面を着けた。装飾などは無く、真っ白な仮面だった。それが不気味さを煽ったのだ。
これは余談だが、王子の仮面は変声を出来たらしく、色気のある声で女性に囁いては腰砕けにさせ、夜を共にしたと言う───。
「……おい、学校の教科書にこんな注釈入れるなよ。誰だ作者。これじゃ革命者どころかエロ王子じゃねぇか」
さっきの地の文は俺の言葉じゃない。俺じゃない! 断じて! ………続き読もう。
「なお、当時の状況を知る者はほぼいない。いることにはいるが、口を堅く閉ざしている……。クーデター後は第1王子殿下の意思を継いだ第2王子殿下が即位され、改革が続いている……か」
ふぅん。これだと国の状態は改善されていると思われる。良いことだ、うん。
「あ、王子の肖像画だ」
まるで写真のような絵だ。その絵は王子の外見をよく伝えてくれる。
白銀の髪に、仮面の奥に見える真っ赤な瞳。そして見る者全てを魅了させるような、甘い笑顔。
「これじゃあエロ王子なんて言われても否定できんか……」
甘ったるい笑顔だ。実に甘い。これを見た女性が一夜を望むのも納得いく。例えその仮面の下が焼けただれているのだと分かっていても。
「いやいや、王子のことはどうでもいいんだ。他に情報は……ないか。教科書だから詳しく載っていない……」
ページを進めると、違うことばかり載っていて、ここ3年間のことは無かった。
図書室とかは無いだろうか。案内してもらった時に図書室は……あれ?
図書室、案内されてない!
どういうことだ。ここには無いのか! それともエイダ教官が案内し忘れただけなのか! いやこの子に限ってそんなことは……!
仕方がない。エイダ教官の目が覚めたら聞くとしよう。探すと言っても、1人であの校舎を歩いてると迷子になりそうだから、行かない。
と、そんなことを思っていたら、
「ふぁぁ……。ねみぃ……」
欠伸が出た。3年ぶりに歩き回って疲れたのか。
ちょっとだけ寝ようかなぁ……。え、まだ昼の1時? まぁまぁ、いいじゃん。今日はもうやることがないんだから。あったとしても明日、やれば───。
「すぅ………」
お読みいただきありがとうございますm(__)m
この1話の登場人物
ノア・アーカイヤ 主人公。黒髪黒目。
取得属性魔法:闇、水、雷
エイダ・ギレンラ 今回はほぼ寝ていた。
取得属性魔法:治癒、火




