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第13話 学園長の正体


「さて、と。君達だけ立って話すのもなんだし、座ってよ」


 学園長室に置かれている、向かい合ったソファの片側に座った学園長は、俺達を向かいのソファに勧めた。

 エイダ教官は少し躊躇したが、俺にはこいつを敬う心など皆無なのですぐに座ってやった。

 俺が座ると学園長がエイダ教官に無言で強制して、2人共ふかふかのソファに腰を下ろした。


「で、何の用ですか。俺はこれから新しい部屋でゴロゴロするっていう予定があるんですけど」


「ノア教官!」


「あはは、いいんだよ、ギレンラ君。アーカイヤ君がわしをよく思っていないことは分かっている」


「ならさっさと話を進めてください。俺は学園長に聞きたいことがあるんです」


 俺はこの人物のことは何とも思っちゃいないんだが……。良くも悪くも思っていない。ぶっちゃけ、俺の敵かどうかが分かればいい。面倒だから訂正しないけど。

 学園長はにこやかに笑ったまま、俺ではなくエイダ教官を見た。


「いや、なに。同じクラスを担当する教官同士、相手のことを知ってもらおうと思ってね」


 俺は思わず眉を寄せた。『相手のことを知ってもらおう』という言葉は問題ない。むしろ素晴らしい。これでエイダ教官のスリーサイズを聞けるかもしれない。

 だがこれは『相手に自分のことを知ってもらう』ということでもある。つまり俺の素性を話すのだ、と。

 いや、教室のと同じ自己紹介だったら大丈夫だな。まさか『どこどこ生まれでこういう育ち方をしました~』なんて言わなくていいだろう。


「自己紹介なら既にしました」


 よし、これで乗り切───


「アーカイヤ君はやる気がないみたいだから、わしがギレンラ君に君の分の言おうか」


「はぁっ!?」


 何だろう、やっぱりこいつ危険だ! 俺の素性なんて知ってる奴が何人いると思っているんだよ!

 エイダ教官も不審に思うはず───って、何か納得した表情。何で!?


「ノア教官と昔から知り合いなのですねっ? だから推薦までして教官にしたのですか!」


 そういう解釈!? 全く違うから! 俺この人のことなんて明け方初めて知ったから!

 学園長め……! ちょっとマジで苛ついてきた。


「ゴリアグレ・ブランシュ! 何故俺の過去を知っているような素振りをするんですか! 俺は貴方と1度も会ったことが無いんですが!?」


「うん、わしも今日が初めてだったよ」


「じゃあ何なんですか……」


 間の抜けた返事の声に、ちと脱力した。

 しかし力が抜けたのも束の間で、俺は本能のままに隣のエイダ教官を押し倒し、ソファから転がり落ちる。

 次の瞬間には頭上を光線が通って、俺とエイダ教官が座っていた部分だけソファはどろどろに熔けていた。


「えっ……んっ……? あれぇ? ど、どうなったのです……?」


 戸惑うばかりで辺りをきょろきょろするエイダ教官は放置する。今は、攻撃してきた奴をしばくことにする。

 攻撃してきたのは勿論、俺達の真ん前にいた学園長だ。


「どういうつも───」


「流石だね。実力は衰えていなかったか。君は勇者候補の担当に適任だよ。いや、勿体ないくらいに」


「だからッ───」


 何度も何度も言葉を遮られても許せるほど、俺は優しくない。ついでに、いきなり攻撃してくる奴に容赦できるほど、俺は生半可な人間じゃない。

 立ち上がって、今も笑顔の学園長に人差し指で指す。


「なんっなんですか貴方はッ! じじいに賄賂送って俺を死刑囚にしたと思えば教官にさせて! まぁそれはいいですけど、相手を殺しちゃうような魔法をいきなりぶっ放してまで俺の実力を測ってきて! しかも会ったことないくせに『君の分を言おうか』とか、ふざけるにも程があるでしょうがぁああっ!!」


 ここまでを息継ぎしないで一気に叫んだので息が切れた。


「何なんですか、か。わしの正体は神様だよ。だから君のことも知っているんだ」


 息を整えていると、中年学園長はぽんと自分の『正体』を吐いた。

 未だに倒れたままのエイダ教官は最早目を回していた。あ、意識飛ばしたな。白目剥いちゃったよ。

 でもエイダ教官が聞いていないなら思うことをハッキリ言えるか。


「そうですか、神様ですか。───ふざけるなよ……」


「えっ、ふざけてないよ!? だからその不気味な笑顔は止めようか!」


「じゃあ何ですか、俺のことそんなに知ってるって言うなら細かくい言ってみてくださいよ。()()なんでしょう?」


 これで言えなかったマジでしばくぞ?


「えーっと、まず君は前世が地球の日本人で、小さい子供がトラックに轢かれそうになったところを助けたね。御年15歳で臨終、と」


「……」


「その時にわしの気まぐれでこの世界に転生させられて、この世界の在り方に疑問を持った君は───」


「もういいです」


 これはもう信じるしかない。俺が前世のこと話したのって、2人しかいないからな。しかもその内の1人はもう死んでいる。

 第一、神の気まぐれで転生させられたとか知るかよ。本人にしか分からないことじゃん。

 と、まぁ俺の頭の中には『コイツは神様!』という情報があっさりとインプットされた。

 今更神様出てきても驚かないぞ! こちとらアニメ大国の日本育ちな上にラノベ読みまくってた少年だったんだからな! しかも転生したのは分かってるから、信じざるを得ない!

 でももうちょっと早く出てきてほしかったとか思う。そうすれば……もう少し、この世界での人生も上手くやっていけていたと思うんだ。


 それにしても……神様がこんな中年の体に入って、何をやっているんだか。


「この人間とわしの波動が合っちゃって、気付いたら同化してたんだよ」


「へぇ……ん? 今俺の考え読みました?」


「うん、だってわし、神様だからね!」


 やめろよー、プライバシーの侵害だぁ。あ、この世界にはそういう概念は無いんだった。

 考えを読めるってことは、俺の計画(仮)を邪魔するかもしれないのか。そこのところ、どうなんだろうか。


「安心してよ、わしは君の邪魔なんてしないから。それに君の()()はこの世界にとって悪いことじゃない」


「はぁ、どうも……って、だから考えを読むなよッ!!」


 やりづらくてしょうがない。

 にしても、神様と波長が合っちゃった中年親父……災難だな。いつから入られたのか知らないけど、人生を乗っ取られたも同然だしな。


「いや、10歳の時にはもう自分に才能がないことを嘆いていたから、わしが入って喜んでいるよ? 入って5年もすれば、もう気兼ねなく話せる大切な友人になってくれたよ」


「……………………。そっか。もう俺は何も言わない。言いません。それで結局、あなたは何がしたかったんですか。ちっとも話が進んでませんよ」


「うん、だから教官同士、相手のことを知り合ってもらおうかと……」


「却下です、却下ッ! あんたもしかして神じゃなくて鬼でしょう! どぉーせ俺のこの24年間のこともよく知っているんでしょうが、神様ですからねぇ!!」


「それはもう、何から何まで」


 ほらこいつ鬼畜だよ! 最初は俺の過去のことなんか知らない振りしていた癖に!

 にこにこしながら頷くなよ! ムカつくなぁ!


 エイダ教官に話すのは、絶対に嫌だッ! 誰に言うのだって嫌だ! これは、俺が自分1人で抱えたいんだよ!

 偽善じゃない、格好つけたい訳でもない、ただ俺はこの感情を、3年前から収まりようのないこの()()を、向けられるべき人間に向けたいんだッ!


「絶対、誰にも話さないで下さいよ? いくら神とは言え、今は肉体に入っている身です、殺すことも出来る」


 こいつの魔力は、さっきの攻撃で大体分かった。性格には、魔力の()()が。

 あの純度は素晴らしいものだった。でも、今の俺が全力を出せば御せる程だ。

 俺の本来の復讐が完璧に行えたなら、相討ちでも何でもいい。転生させてくれやがったこのふざけた神とやらを殺してやろうじゃないか。……必要に迫られたなら、だけど。

 用もないのに攻撃したって、体力使うだろうし。何より面倒臭い。


 脅しの意味を込めた言葉に、学園長は強張った笑みを向けた。


「うん……。君が全力なのは分かったから、魔力を抑えてくれないかな?」


 魔力? ああ、いつの間にか学園長室が暗くなっているな。闇魔法の暴走か。

 俺は魔力を体内に戻した。うんうん、3年前より劣っているなんてことはない。


 魔力を完全に抑え込んでもまだ笑顔が固まっている中年を尻目に、俺はエイダ教官の背中と膝の裏に腕を回して抱き上げた。俗に言うお姫様抱っこだ。

 学園長室の重い扉を足で蹴り開けて、俺はエイダ教官をお姫様抱っこしたまま廊下を歩いていった。あそこにいても良いことはないように感じたから。


「はぁ……。結局、あいつが神だってことしか分からなかったな。もう関わりたくねぇわ……」


 お読みいただきありがとうございますm(__)m


 この1話の登場人物

 ノア・アーカイヤ 主人公。黒髪黒目。転生者。15歳でご臨終。小さい子を助けようとして車に轢かれた。

 取得属性魔法:闇、水、雷


 エイダ・ギレンラ 水色の髪と群青色の瞳。元気。

 取得属性魔法:治癒、火


 ゴリアグレ・ブランシュ 学園長。実は神様。神様だから何でも知ってる。

 取得属性魔法:?

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