表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/60

第33話 遊撃、死地へ――投石器破壊作戦

■■■■■■■

【黒帝軍前線】

■■■■■■■


頭上を二つの巨大な石弾が唸りを上げて飛んでいく。

大地が、遅れて低く震えた。


「……投石器は、生きていたようだな」


前線へ歩み出てきたレッドバルムに、

破砕の巨鎚・《ドルグ=ハルザード》が低く声を掛けた。


レッドバルムは荒い息を整え、頷く。


「はい。

 襲撃の痕跡は確認しましたが、

 機構そのものに損傷はありません」


そこへ――


暗紅(あんこう)の瞳を光らせた、細身の影が歩み出る。


魔翼の処刑者――

《ヴァルザーク》。


「……そろそろ、俺の出番か」


首を傾け、骨を鳴らす。


「玉座の裏に縮こまってる王の首。

 俺が取ってきてやる」


その言葉に、ヴァルザーク自身の熱はない。

まるで――退屈な遊び場を見回すような口調だった。


「ただし――」


赤い瞳が、城壁へ向かう黒帝兵の列へと流れる。


「最初に突っ込む連中。

 ちゃんと“壊れる音”を聞かせろ」


「じゃねぇと、つまらねぇ」


レッドバルムは、

その視線を正面から受け止め、口角を上げた。


「ご心配なく、ヴァルザーク将軍。

 城壁突撃隊には、選りすぐりを持たせています」


一歩、前に出る。


「刃は軽く、振りは速い。

 我が軍の剣のほうが勝つ――

 伝説の鍛冶士が仕上げた“作品”です」


ヴァルザークの眉が、わずかに跳ねた。


「ほぉ……」


口元が歪む。


「で、それは――折れねぇのか?」


「折れません」


即答だった。


「少なくとも――

 店で流通している凡庸(ぼんよう)な剣の方が、

 先に折れます」


一瞬の沈黙。


ヴァルザークは、喉の奥で低く笑った。


「いいじゃねぇか」


「剣が負ける戦場――」


「……やっと、俺の遊び場になる」


背中の赤褐色の魔翼が、ばさりと広がる。


「じゃあ俺は――

 “一番いいところ”を、取ってくるか」


――今、分かった。

砦側が必死に耐えている“理屈”は、

こちら側にとっては“娯楽条件”でしかないことを。


だがドルグは、

その軽口には視線を動かさず、淡々と問いを重ねる。


「……それで、グラはどうした」


一瞬。

余裕の笑みを浮かべていたレッドバルムの表情が、

わずかに硬くなる。


「それが……

 投石器周辺に、

 グラ将軍の姿はありませんでした」


「――なに?」


ドルグの眉が、ほんの僅かに寄った。


「……グラが、いない?」


「チッ……」


ヴァルザークが舌打ちをする。


「どこ行きやがった、あの野郎」


魔翼が、再び揺れた。


「まぁいい。

 俺が終わらせりゃ、問題ねぇ」


次の瞬間――


「はぁぁッ!!」


ヴァルザークの身体が、真上へ跳ね上がる。


矢が飛ぶ。

投石が唸る。


だが魔翼は、それらを嘲笑うかのように躱し、

反転して砦の方角へ滑空した。


ドルグは、その背を一瞥するだけで、

視線を前線へ戻す。

その空を舞う処刑者もまた――

彼にとっては、ただの戦力の一部でしかなかった。


「……右を潰せ」


低く、確定した声。


「梯子が掛かったら、

 次は――砦内へ投石だ」


「承知しました!!」


レッドバルムが応える。


「俺も前へ出る」


ドルグもまた、

大鎚を肩に担ぎ、歩き出した。


災害の歯車は――

もう、止まらない。


◆◆◆


一方――

ルドグラッド砦。


「……マズい!!」


右城壁にいたニコルが、叫んだ。


投石は止まらない。

反対側の左城壁が砕け、内側へと崩れ始めている。


その崩れかけた城壁の上では、

ガルデンが――

中広場へ降りる石階段の手前で、

押し寄せる敵を必死に食い止めていた。


だが――

数が、違う。


(このままじゃ……持たねぇ)


バリスタは、投石器に届かない。

さらに石弾は、城壁だけでなく、

壁下で待機する民兵の頭上にも降り注ぎ始めていた。

――馬が暴れ、叫び声が混線する。


守りが、

遠距離攻撃によって、

戦う前に――内側から削られていく。


ニコルは、強く舌打ちする。


「……やるしかねぇ」


迷いはない。

選択肢が、もう残っていなかった。


城壁から駆け降り、怒鳴る。


「マクレブ!!

 馬を出せ! 遊撃出るぞ!!

 ――投石器を潰す!!」


「了解!!」


遊撃隊中隊長・マクレブが、即座に応じる。


その時だった。


「私も行く!」


声を上げたのは――アズ。


ニコルは、一瞬だけ言葉を失う。


城壁上で戦うガルデンへ、視線を送る。

横にいるベニバラはいない。

――一人でも多く、戦力が欲しかった。


(投石が止まらなければ……終わる)


ニコルは、アズをまっすぐに見た。

そして――理解してしまった。


止めても、この子は引かない。


「俺の後ろから、

 絶対に出るな」


低く、強く。


「いいな」


「……うん」


アズは、迷いなく頷いた。


その覚悟が、

軽い勢いではないことを、ニコルは理解した。


「マクレブと、馬を連れてこい」


「任せて!」


アズは踵を返し、走り出す。


ニコルは振り返り、叫んだ。


「クレセント!!」


「は、はい!」


「左城壁が破られたら、

 敵は城門を開けに来る!

 俺たちが投石を止めるまで、

 民兵と一緒に、ここで踏ん張れ!!」


「……ぜ、絶対に、門には近づけません!」


クレセントの手は震えていた。

だが、その足は下がらない。


その背後から――


「ぼ、僕もやります!!」


ポコランが、顔を出す。


「……大丈夫かい?」


ニコルが問う。


「アズもやってるし……

 僕、役に立つかは分からないけど、

 でも……それでも、逃げる気はありません!」


ニコルは、黙って頷いた。


笑顔はない。

軽口もない。


それが――

今の状況を、何より雄弁に物語っていた。


◆◆◆


城門内。


中隊長マクレブを先頭に、

三十の遊撃兵が馬に跨がっている。


アズから手綱を受け取り、

ニコルは白い隊長馬に飛び乗った。


「――全矢を門前へ集中!」


右城壁から城門前へ、矢が降り注ぐ。

重い音を立てて、門が動いた。


「城門、開けろ!

 遊撃――

 出るぞ!!」


一瞬、音が消えた。


ブオォォォォ――ッ!!


ボッ、ボッ!!


角笛が鳴り響き、

遊撃旗が大きく振られる。


門前の黒帝兵を斬り伏せながら、

ニコルを先頭に、遊撃隊が飛び出した。


「止まるな! 速度を武器にしろ!」


白馬が、疾走する。


黒一色の戦場を裂き、

黒帝軍本陣の横――

投石器へ向かって。


それは、

崩れゆく戦局に対する、

**最後の“噛みつき”**だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ