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プロローグ 滅びの時

〈――五年前〉


「兄さんっ……!」


王都は、炎と血に染まっていた。


魔獣の群れが押し寄せ、王都軍は崩壊寸前。

燃え落ちる塔、崩れゆく城壁――


その最前線に、幾多の戦いで王都を救ってきた英雄兄妹がいた。

二人は、王家の血を引く、王弟の子らである。


炎に覆われた城門前の広場。

兄妹の四方を囲むのは、百を超える魔獣の咆哮だった。


四つ足の巨獣。

骨角が乱立した獣面。

全身を黒い棘で覆う異形の影――。

どれも人の軍勢では押し返せない“魔の獣”。


魔王ザイラスの命令を受けた魔獣は統率され、

兄妹が一歩動けば、外周の獣たちが牙を鳴らした。


「下がるな、ロザリーナ! 

 今崩れたら、すべて終わる……っ!」


身の丈を優に超える巨大な王剣(ロードブレード)を構えた兄の背。


「数が……! これではキリがない……!」


その後方で双剣を握る妹。

(すす)けた風が、二人の間を吹き抜ける。


前に立つ兄――

ライザリオンは、その剣の如く、王国最強の戦士。


その背をロザリーナは何度も追い続けてきた。

しかし今、その兄の眼差しには――

もはや勝利の光はなかった。


圧倒的な数。

押し寄せ続ける獣の波。

どれほど斬り伏せても、魔獣の影は地平線から溢れ続ける。


そのとき。

崩れかけた塔の上に、王都最高位の大魔導士が立っていた。


絶望と、それでも消えぬ希望――

二つの感情が、その瞳に宿っていた。


「……時は、尽きた」


魔獣が溢れ出る獣界ごと、この世界から切り離す。

その代償は、自らの命。

そして未来に刻まれる、計り知れぬ“喪失”。


だが、他に道はなかった。

王都も、人々の叫びも、すでに限界を越えていた。


「王の血よ、英霊の魂よ――

 我が命を代価に、世界の境を断ち切れッ!!」


詠唱が響く。

風が止み――戦場が静止した。


次の瞬間。

塔の頂に、天を焦がす魔光が凝集する。

世界そのものが軋むような、重く深い震動。


魔獣たちが一瞬だけ怯み、牙を引いた。

その光は、彼らの世界そのものを切り裂こうとしていた。


「兄さん、あれは……!」


「くっ……絶界封印の術だ!」


ロザリーナの声が震える。

その術が何を奪い、何を生むのか――まだ知らないまま。


光が塔を貫き、空を裂いた。

夜の闇が昼を飲み込み、

大地が断末魔の声を上げるように震えた。


――そして。


ロザリーナの目前で、世界が割れた。



――ズババババァァァァァァァン!!!


天と地の狭間に、稲妻のような巨大な光の亀裂が走る。

轟音が大地を揺らし、亀裂は空間そのものを引き裂いていった。


裂け目の向こう。

そこは獣界へと通じる“深淵の縁”。


その亀裂へ向かって――

兄妹を包囲していた魔獣たちが、次々と吸い込まれていく。


「があああッ!!」

「ギャアアア!!」


獣たちの咆哮が、渦に引きずられるように伸びていく。

牙も、棘も、巨躯も――光の裂け目へ落ちていった。


だが。


魔獣の群れとともに。

ライザリオンが、光の向こうへ呑み込まれようとしていた。


「兄さん!!」


ロザリーナが叫ぶ。

恐怖で震える指先が、必死に兄へ伸びる。


「ロザリーナ、来るな! 

 お前は……生きろっ!!」


次の瞬間――

光の奔流が跳ねて、世界の音をすべて奪い去った。


空気が悲鳴を上げ、

耳鳴りだけが世界になる。


轟音にかき消される声。

視界は真白に塗り潰され、大地の破砕音が胸を貫いた。


そして。


世界は、――二つに分かたれた。


兄の姿は、光の彼方へ消えていく。


(……その手も、その声も――兄の背には、届かなかった)


静寂の中、炎の灰が降り注ぐ。

彼女はただ、燃え尽きた空を見上げていた。


世界が砕かれようとも。

大地が裂け、未来が失われようとも。

――彼女の願いだけは折れない。


「兄さんを……必ず、取り戻す」


その言葉は、血より深く、魂より強く刻まれた。


それが、ロザリーナの“生きる理由”となった。


そしてこの瞬間――

《蒼の剣姫》の物語は、静かに動き始める。


――◇―― ――◇―― ――◇―― ――◇――


✦✦✦ 【登場人物】Characters ✦✦✦

──絶望世界を駆ける者たち──


【◆ 主人公サイド ◆】────────


✦ ロザリーナ・エルデンハート(26) ✦

《戦場の双剣姫》

五年前の戦で兄を失い、絶望世界を旅する流浪の剣士。

蒼の旅装束、栗色の髪、青銀の瞳。寡黙だが、心には燃える執念が灯っている。


「兄さんを――見つけ出す」

希望の象徴たる双剣を携え、ただひとつの想いで歩き続ける。


✦ ライザリオン・エルデンハート(31) ✦

《戦場のライオン》

かつて王国最強と称えられた英雄。

妹ロザリーナにとって絶対的な支えであったが――

滅びの封印により獣界へ堕ち、魔獣を喰らいながら生き延びた末、

いまは“人ならざる異形”と化す。


妹との再会は、救いか惨劇か――。



【◆ ルドグラッド砦の同志たち ◆】────────


✧ ヴァレンティス(30) ✧

《ルドグラッド砦の若き王》

滅びた王国の末裔にして、抵抗軍の象徴。

誠実で民思いだが、砦の物資不足と理想の狭間で苦悩している。

彼の背にあるのは「王族としての誇り」ではない。


「もう誰の涙も流させない」という祈りだ。


✧ ニコ・ニコル(27) ✧

《戦場の道化》

金色の眼、童顔、そして愛らしい猫耳を持つ銀髪の半獣。

軽口と神速の湾曲剣を使い、戦場に笑いと死を同時にもたらす異才。


「冗談は、死なないための呪文さ」と笑う。


✧ シャーロット・ベニバラード(29) ✧

《紅の軍神》

紅の髪と瞳を持つ、抵抗軍最強の将。

容姿端麗・頭脳明晰・剣技に秀でる完璧超人。

完璧な実力の裏には、救えなかった者への深い傷が眠る。


「強くなければ、何も守れない」

砦を守る責務を最優先しつつも、

弱き者を守りたいという不器用な優しさを秘めている。

ニコルとの“戦場漫才”は砦の名物。


✧ ガルデン・アルバレス(60代) ✧

《鉄壁のガルデン》

王国最古参の将軍にして、鉄壁の盾を誇る防御戦の名手。

若き王ヴァレンティスを「若造」と呼びつつも、

内心では深い忠誠を抱いている。

屈強な肉体と立派な顎髭が特徴。


──「鉄壁のガルデン」

兵士たちからは敬意をこめて、こう呼ばれる。


✧ アズ・アルバレス(15) ✧

《灰の砦の小さき刃》

ガルデンの孫娘で、王国最年少の正式兵士。

群青の髪と灰青の瞳を持ち、短剣二刀を軽快に操る天才少女。

気が強く、負けず嫌いで、言いたいことは言うタイプ。


ニコルのことは尊敬しているが――

「ふざけてる時は本気で蹴る」という絶妙すぎる距離感。


✧ ポコーレ・ポコラン(16) ✧

《正義感の少年兵》

辺境出身の元民兵。剣の腕は平凡だが、

少女を救うため、たった一人で敵軍へ飛び込む勇気を持つ。


純粋で真面目。時にドジだが、

仲間を救うためなら迷わず命を張れる“折れない心”を持つ。


『見て見ぬふりは、死ぬより嫌だ!』



【◆ 黒帝断罪軍(敵勢力) ◆】────────


✦ ザイラス・オズグリア ✦

《帝王》

五年前、世界を絶望に沈めた破壊の覇王。

魔獣と意思疎通(会話)できる希少な能力を持ち、

竜骨の玉座と骸獣の彫像が並ぶ「黒き玉座の間」から、

世界そのものをねじ曲げるように支配する。


黒帝断罪軍と八将を従え、冷酷かつ傲慢。

望むのはただひとつ――世界の“獣界化”。


✦ ネメシス=オルティガ ✦

《黒帝の影》

ザイラス直属の“影”にして、黒帝八将の上位に立つ唯一の存在。

全身を漆黒の甲冑に包み、腰にはロングソード。

顔を隠す兜は王冠のような棘に覆われ、その隙間から覗くのは光なき深淵。

その素顔を見た者はおらず、正体は不明。


戦場で彼が動くことはほとんどない。

だが――“影が一度揺れただけで戦が終わる”。

その恐怖は、すでに伝説となっている。


✦ ドルグ=ハルザード ✦

《黒帝八将:破砕の巨鎚》

巨大鎚を振い、身の丈が三メートル以上の怪物戦将。

砦も門も“一撃”。寡黙にして圧倒的破壊者。


・魔獣化異能術:《破城轟砕バスティオン・ブレイカー


✦ ヴァルザーク ✦

《黒帝八将:魔翼の処刑者》

赤褐色の魔翼を持つ狩人。

双剣を手に空を翔け、戦場を紅に染める嗜虐の剣士。


・魔獣化異能術:《紅翼旋刃クリムゾン・リッパー


✦ グラ=シャルン ✦

《黒帝八将:三眼の暴君》

獣肢へと変異した右腕、左手には大斧を握る恐怖の巨漢。

《第三の眼》に見つめられた村は、例外なく絶望へ沈む。


・魔獣化異能術:《恐怖視ドレッド・サイト


✦✦✦ ── End of Characters ── ✦✦✦


魔獣化異能術デモンビースト・アーツとは、

魔獣融合の種族=半獣ハーフビーストのみが行使できる特権的異能である。

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― 新着の感想 ―
お兄ちゃんがー!!(ToT) これは再び会えたとしても、キツイ再会になりそうですね…。 ライザリオンは再び人間に戻れるのか、それとも…
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