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二番目な僕と一番の彼女 後日譚 ~とある青春群像劇 - クインテット~  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
第2楽章 約束は夏の日々と共に巡る 後編

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第2楽章 47節目


 駅前のショッピングモールの三階には、少し大き目の、休日は特に家族連れで賑わうゲームセンターがある。その場所で、早紀はクレーンゲームの中の癒し系の大きめのぬいぐるみを眺めながら、先を歩く二人を視界に入れていた。


「……やっぱり、平気」


 そして、早紀はそう口の中で呟くようにして、少しだけ息を吐く。

 胸の微かな痛みすら感じなくなったのは、いつからだろう。少なくともまだ、GWの前後では平気な()()が必要だった。


 でも今は――――。


「どした?」


 少し先を、クレーンゲームを見ながら歩く二人を見ていると、両替してくると言って離れていた和樹が戻ってきてそう尋ねてくる。


「ううん、何でもないわ……ってか悪かったわね、急に付き合わせる感じになって」


 和樹に振り向きそう言って、早紀は改めて優子達に目を向けた。


 元々、和樹とイッチーは用事を終えて、帰る前にぶらついていただけだったらしい。

 そこに、優子の推しのフィギュアが、ゲームセンターのクレーンゲームが入れ替えによって入荷しているとかで、早めに部活も上がった早紀も付き合うことにしていたのだ。


 ちなみに千夏はハジメの家に。そして玲奈は玲奈で、再び婚約者となった人と会うのだと聞いている。

 どこか、少しだけ玲奈には珍しく何かに悩んでる様子だったのも気にはなっているが、いずれ必要になれば話してくれることだろうし、もしも話せない何かで様子が変になりそうであれば、話を無理にでも聞いてみようとは思っていた。


 そんなわけで二人でいたのだが、偶然イッチーと和樹に会ったことで、じゃあまた、となるのもなと四人で行動することになり今に至る。


「いや、そりゃお互い様だろうがよ。まぁイッチーが一緒にいたそうだったしな。それに無理やりつきあわされてるとかそういうのでもねぇし…………あー、少なくとも俺は嫌じゃないぞ?」


「……あんたねぇ、最後のその言い方だと私が嫌々みたいになんでしょうが。違うわよ」


 和樹が最後、少しだけ目を泳がせるように言うと、早紀はくすりと笑って答えた。

 全く、あれだけ学校でも話しておいて、メッセージもやり取りして。それでも外で会って嫌と感じるかもしれないと思うものだろうか。

 早紀が内心でそう思っていると。


「…………それにしてもあいつら、完全にデート気分だな。ってかイッチーだけかとも思ったけど、そこそこ優子もか?」


 和樹が、少し身を寄せ合いつつ手を繋いで、クレーンゲームの前で話している二人を見ながらそう言った。


「まぁ、そりゃあね……念願? っていうのも違うかもだけど、すれ違いみたいなのも解消できたわけだし、好きな人と彼氏とか彼女になった状態は、誰でもそれなりに浮かれるものなんじゃない?」


 優子からしても、色々と気を遣って、気を回して、そこからの今な訳で。落ち着いてはいる子だとは思うが、浮かれもするだろうなと早紀は思う。そう思えていた。


 そして、早紀の言葉に、和樹がしまったという顔を隠せずにいるものだから、その背中を「気にしないでいい」という意味で軽く叩いて、話題を変えるようにして言った。


「まぁあの二人は置いておくとして……せっかくだから何か。あんたって、クレーンゲーム得意だったりする? 私、正直こういうとこで取れたこと一度も無いんだけど、掴んで持ち上がるのにすぐ落ちちゃうし」


「え? 俺か? まぁ、時々こういうとこ限定のグッズもあるからそれなりには……でもアームの設定次第じゃ無理だぜ?」


「へぇ、そういうもんなの? 例えばこれとかは取れるわけ? 大きいから無理か」


 入り口にあるそのぬいぐるみは、物凄く好きというわけではないのだが、手触りが良さそうだった。

 流石にこんなに大きいのは高そうだから取れる気はしないので何気なくだったが、早紀の言葉に、和樹がちょっと位置とアームを見始めて、財布を取り出したので早紀は慌てる。


「ちょっと待って、ごめん私が言ったんだけど、本当にやるの?」


「いや、言われて確認したらちょっといい場所にあるから、運が良ければ三回位でいけるかも」


「え? ほんとに?」


 ただ、それに和樹は良いからと500円玉を取り出して投入した。一回が200円だが、500円で三回プレイできるタイプの筐体だ。


 そして――。


「これってさ、何で狙い真ん中にしないの? ズレてるじゃん」


「いいんだよこれで。片方に寄せて、アーム次第じゃずらして重い方をアクリル板にのせられたら……ほら、意外といけんじゃね? 重い方が載った、ラッキーだな」


「うわ、すご! 落ちそう! ねぇ和樹落ちそう!」


「いや、わかってっから急にテンション上がるなって…………ってか、はは! お前そんなテンションになることもあんのな」


「え? だって凄いじゃん!?」


 そう騒ぐ早紀の前で、和樹は早紀にとってはアームをよくわからないところに調整して、ゆっくりとアームが降りる時の回転とズレによって、バランスを崩したその大きなぬいぐるみはドサリと落ちた。

 そして、和樹がしゃがんで、はいよ、と早紀にそれを渡す。


「……へ? だってあんたが取ったんだからあんたのでしょ?」


 早紀がぽかんとして和樹の顔を見ると、和樹が少し照れくさそうにして言った。


「いやいや、流石に俺の部屋に置くには可愛い過ぎるというか……それにさ、ちょっと憧れじゃね? 女子にクレーンゲームで取ったぬいぐるみをあげる的なシチュエーションって」


「あははは、その最後のセリフがなかったらちょっとくらいはかっこいいのに。でも確かに借りたラブコメにもあったわね……じゃあ有り難くもらいつつ、今度はなんか私からも奢るわよ」


 そう言って、貰ったぬいぐるみを抱きつつ、早紀は笑う。


「うわ、早紀、それ取ったの?」


「凄いじゃん、え、俺も取りたいんだけど。もう一回崩してくるか……」


「いや、いっくんもう止めときなよ、さっき500円で何も取れなかったばかりじゃん」


 別の場所にいた二人も合流してそんなやり取りをしているのに、「凄いっしょ、取ってもらった」というとそちらに二人の視線がいって、少し照れたように「中々うまい位置にあったからな」と和樹が言い訳のように言っていた。


 少しだけきゅっと力を込めた早紀の腕の中で、ぬいぐるみが少し柔らかく潰れて、緩い顔がさらに緩くなっている。

 今までは下心が見え見えなものは受け取ることは無かったから特に、男子に、こういう物を何かもらうなんてのは初めてかもしれなかった。それに感謝をするのも。

 

 なるほど、物語の中の女の子の気持ちが少しだけわかったかもしれない。

 確かに、悪い気は全くしなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] おや、語られていないところで玲奈さんも良い方向に。5つ目の楽器が音を奏で始めるのも遠くはないですか。 早紀さんはすっかり前を向けたということですね。今今の状況だと、和樹よりも早紀さんのほう…
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