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二番目な僕と一番の彼女 後日譚 ~とある青春群像劇 - クインテット~  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
第2楽章 約束は夏の日々と共に巡る 前編

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第2楽章 21節目


 真司にとっても、元々、分かっていたことではあったはずだった。


 後継となることが決まった日から、生活は変わらないが少しばかり扱いが変わった。

 曽祖父と似ているとか、視座だとか、祖父も父も言葉を弄すが、結局のところ駒でしかないのだ。


 相澤の家に関わる人間達の数は多い。

 そのシステムを上手く回すための仕組みとしての駒。

 上も下も無い、結局のところ、全体の流れを合理的に判断して回す。

 そのうちAIにでも取って代わられるであろう役割を、まだ必要であるから最も効率のより部品を当てはめる必要があるというだけのこと。


 効率の良い部品を、効率の良い組み合わせで。

 なるほどわかりやすくシンプルなことだ。


 だからこそ、去る者は追わず、来るものは拒まずのような揶揄を受けながらも、それなりに楽しんで、それなりに割り切っていた。

 だからこそ今も、少しばかり長く続いた関係が途切れて、元に戻っただけ。


 そう、その筈だった。



 ◇◆



 先日の雨が嘘のように晴れた中で、いつもと変わらず喧騒に包まれている高校の昼休み。


「真司、もしかして何か体調悪かったりするのか?」


 二年になって同じクラスになってからというものよく一緒にいる事になったイッチーにそう言われて、真司は首を傾げた。


 複数クラス合同の移動教室で同じだったこともあり、理系のハジメと石澤も含めて、そのままの流れで食堂で普通に食べているところだった。

 まぁ食堂とは言っても、ハジメは自作、真司は家の使用人に持たされている弁当で、それを見て、イッチーが等価交換では無さそうな食堂の一品とでトレードを持ちかけてくるのも目新しい事ではなかった。


 そんなやり取りの後に声をかけられて、首を傾げたままに真司は答える。


「いや、そんな事は無いが、何でだ?」


「…………何でだっつーか。自覚ないのな。さっきから何回か話スルーしてるし、顔色もよく見たらあんまり良くないような」


「うん、覇気が無いよね」


 イッチーがそんな事を言うのに対して否定しようとして、ハジメにまでそう言われ、隣の石澤までが頷いているのを見て真司は言葉を止めた。

 正直鋭いというわけでもないイッチーに加えて、ハジメ、石澤にまでそう思われているということは、真司は今他人に対してそう思われる雰囲気を出しているのだろう。


 この連中に弱味を見せるのは問題にはならないが、それを制御できていないのは真司にとっても良い状態ではないことは確かだった。

 そして、その原因について頭に浮かび、意識して消す。


 ただ、一人に戻っただけ。なのにこんなにも。

 消そうとして逆に、その思考に飲み込まれていく。


「――じ……真司?」


 はっと気づくと、ハジメが真司の顔を覗き込むようにしていた。

 その顔には心配の色が見える。

 そして、それに再び首を振って、「何でも無い」と言った真司を見て、そしてイッチー達に声をかけた。


「ねぇ皆さ。昼休みはもう終わりそうだから無理だけど、放課後、ちょっとばかり真司を吐かせようかと思うんだけど、どう思う?」


「今週末試合で、軽く流すだけだからいいよ。っていうか、お前らも簡単な試合形式でさ今日だけ参加しねぇ? 一年が何人か入っては来て、一人だけ経験者いるんだけど、他にいない上に俺等も手が回って無くてさ」


「いいじゃん、特に佐藤とか相澤に揉まれたらいい経験になると思うし…………ってかお前ら二人共俺なんかより上手いんだよなぁ」


「お前らなぁ、勝手なこと言ってんじゃねぇよ」


 そう面々が答えるのに対して、真司は顔をしかめて言った。

 確かに少し調子が狂っているのも、そしてそれを他人に見せてしまっているのも事実だ。こればかりは認めるしかない。

 だが、誰かに話してどうなるというものでも無い。あれは、自らで決めて、自ら去っていったのだから。


「真司」


 しかし、真司の内面を見透かすようにして、ハジメがただ名前を呼んだ。


「……何だよ」


「僕の時は意外なお節介焼いてきたんだからさ、偶には返させなよ。真司が()()なるってことは、佳奈さん絡みなんじゃないの? まぁ、家のこととかさ、そっちで力になれる気はしないし、本当に佳奈さん絡みだったとしても力になれるかどうかというと自信はないんだけど」


 そう言葉を切って、ハジメは真司を見つめる。

 この目だった。


 一見何の特徴も無さそうに見える目の前の友人が時折見せる、妙に深い目。

 今の状況と重なってか、佳奈のあの時の目と少し被って見えて、真司は目を逸らした。


「ほらね……いつもの真司なら、鼻で笑うか、それとも意外と素直に礼を言うかだけど。まぁ無理にとは言わないけどさ」


「いやぁ、珍しいよな、弱ってる真司って初めて見たかも」


「確かに…………まぁ佐藤とイッチー以上に、どんなジャンルでも何か出来る気はしないんだけど、愚痴くらいなら聞けるかも」


「…………お節介な奴らだな」


 次々とそう言ってくる男共に、真司はそう言った。

 感謝の言葉は、口から出てくる様子は無い。でも、それが肯定と読み取る程度には、相手は善人で、そして言葉通りお節介だった。


 何を話すか、話してどうなるかは分からないが、現に今、制御できていない自分自身について、話してみるのもいいかと思った。


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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり、ハジメのほうが、腰が座っている感じだなあ。 そして、同じく駒であろうとする当事者の一人の少女の内心は、誰にも語られることはないのですねえ。少なくとも、まだ。
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