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二番目な僕と一番の彼女 後日譚 ~とある青春群像劇 - クインテット~  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
第2楽章 約束は夏の日々と共に巡る 後編

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第2楽章 73節目


「どした? ……成り行きとはいえ俺と祭り回んの、やっぱ気が乗らなかったか?」


「ばか、変なとこで弱気になんないでよ。今更そんなわけ無いでしょうが……ちょっとだけ考え事してただけ」


 和樹に声をかけられて、早紀はそう答えた。勿論、嫌なはずはない。

 ただ少しだけ、あまりにも自然に、千夏や優子が手を繋いだり腕を絡めるようにしてそれぞれ歩いていくから、目が行ってしまっただけで。 


「はは、つっても俺はこんな風に祭りデートなんざしたことないからな……とりあえず何か食べたい物でも買うか? 花火は結構凄いらしいけどよ」


 そう言って少しだけ歩き出す和樹について、早紀も進もうとした。

 だがふと気づいて和樹に咄嗟に声をかける。


「ごめん、もう少しゆっくり……靴じゃないから慣れてないのよ」


「っと、わりぃ、気が利かなかった。こんくらいで良いか?」


 それに慌てたように言って、ゆっくりとこちらの足元を見ながら歩き始めた和樹に頷いて。だからあっさりと手を繋いだり絡めたりして歩くのね、と変な納得をして早紀は和樹の手を見た。


(……って何を考えてるんだか、付き合えてるわけでもないのに)


 というか、こいつは少しくらいは意識とかしてるんだろうか。早紀は少しだけむむ、と思いながら、足元に集中しながら歩を進める。

 二人ずつ回るという話になった時も、こっちに「良いのか?」って聞いてきて、後は普通だった。

 とは言え、気が利かないというよりは、お互い慣れていないからだとわかるので、その慌てた口ぶりになんだかほっとして、早紀は言う。

 

「ううん、私も思ったより歩きにくいなって……あんまりこういう格好しないからさ」


 早紀は、背丈が高く、女子ばかりの中でも比較的男っぽく見られていた中学時代も含めて、こういう所謂可愛い格好は慣れていない。

 自分が美人な方だという自覚はあるけれど、それと華やかな格好が似合うかどうかは別で。


「そうか? 正直モデルみたいにめちゃくちゃ綺麗だぜ?」


「…………っ」


 だから、あっさりとそういう事を言う和樹を、早紀はまじまじと見てしまった。


「あ、怒ったか? やべぇなぁ、最近マシになってたとは思うんだけどついこういう風にポロッと余計な事言っちまう」


「……怒ってない、ありがと」


 玲奈のせいだ、と早紀は思う。

 玲奈が、耳打ちするように、「頑張ってくださいね」とか言うから、変に意識してしまうのだ。

 こういう時に笑みを浮かべてお礼を言う、とかをスマートにしたいのに、変に強張ってしまって怒ったと勘違いされる。


「…………あれ?」


 そんな風に少しギクシャクしながらも和樹と並んで歩いていた早紀は、ちょっとした話題を探すために視線を巡らせていたからか違和感のようなものに気づいて、視線を戻して違和感の元を見つめた。

 そして和樹に声をかける。


「ねぇ、あの子何だか、一人じゃない?」


「え? あぁ、確かに。キョロキョロしてるし迷子かな?」


「和樹さ、ごめん、少し時間使っちゃうかもだけど……」


 和樹の返答に、やはりそう見えるかと思った早紀は、そう一言告げると、一人で水風船を持って立ちすくんでいるように見える女の子に近づいて、しゃがみこんで声をかけた。



 ◇◆



「お姉ちゃんありがとう!」「ありがとうございます!」


 早紀が泣くことすら出来ずにいる女の子に声をかけた後に、すぐにその子の母親が見つかり、二人で頭を下げるようにして去っていく。

 

「うん、すぐに会えて、本格的な迷子じゃなくて良かった」


 そんな風に呟く早紀を見ながら、和樹は改めて思い知っていた。

 多分何でも無いようなことなのだろう。

 でも、和樹は迷子だ、と思ってもすぐに動き出せたかと言うとそんなことはなかった。


 いつもそうなのだ。

 ゴミが落ちているのには気づくけど、拾うには周りを気にしてしまったり。

 誰かが困っているのを見ても、迷っているうちに他の人が手を差し伸べてほっとしたり。

 今もそうだ。多分女の子に気づいたのは早紀も和樹も同じくらいだと思う。でもその後すぐに早紀は声をかけに行った。


 思えば、和樹が凄いと思っている友人達は皆そういうところがあるかもしれない。

 ハジメも、イッチーも躊躇わずに声をかけそうだ。真司はわからないけれど、何だかうまくやりそう。放置はしないだろう。


 そこに、和樹は憧れているんだろうと自覚した。


 綺麗な顔で生まれたから、人よりも何かが優れているから。

 生まれつき才能があるとか、運がいいとか。

 そんなもので綺麗だと思うわけじゃなかった。


 ただ、動くべきときに動けるか。

 当たり前のように行動できるか。


 それがただ、その人を綺麗だと、かっこいいと思わせるのかと。


「ありがとね、着いてきてくれて。あの子も良かった」


 そう言って笑う姿に、和樹はただ見惚れていた。

 例え叶わない恋でも凛としてけじめを付けて、下を向きそうになっても前を向いて。

 ちょっとした時にきちんとこうして行動できて、努力して、前を向こうとして前を向いている。


 当たり前に隣に居たいと思った。他でもない、この目の前にいる女の子と。

 だがそこで、急に湧き上がってきた気持ちに、ふと我に返る。


(…………あぁ、そっか。俺は……)


 でも、その先の心は形にはしなかった。


 周りを見ていてわかる、何人もが早紀の浴衣姿に見とれたりしている。

 沢山の人の中でも、ふっと目がいってしまう気持ちが、良く分かった。

 だからこそ、流れからこうしているけれど、自分と釣り合う気はしない。


 ――――でもいつか、とも思う。


「どしたの? ほら、花火の時間も近いみたいだけど、せっかくだから何か食べようよ?」


「あぁ、そうだな」


 そんな事を思って少し立ち止まっていた和樹はそう早紀に促されて、気を取り直して立ち並ぶ屋台たちに目を向けるのだった。



 ◇◆



「くそー、さっきの射的絶対貼り付いてんだろ」


「あはは。あー、笑った! めちゃくちゃ上手かったのに、運が悪かったわね」


 もう暗くなってきて、調子外れのスピーカーが花火の時間を告げている。

 そんな中で、ふふ、と笑いながら早紀がお腹を抱える様子に、今日の早紀はよく笑うな、と感じながら、和樹は早紀と並んで、屋台と屋台の少し空いた空間で休んでいた。


「何ていうか、祭りって実はあまり来なくなったんだけど……楽しいわね」


「わかる、俺も久々だけど、あっち戻ってからもあんのかね?」


 最初は少し意識してしまっていたけれど、何だかんだでいざ巡ってみたり屋台の娯楽をしていると、早紀といるのは気が置けない楽しさで。


「どうだろ? 調べてみてあったら次、行ってみようよ」


「だな、地元なんかで行ったら、知ってるやつにどう見られるかわかんねぇけどよ……」


 普通に、当たり前のように『次』があって。

 それでも他人の目も気にしてしまう自分が、和樹は少し嫌だった。


「…………別に、あんたとならそう見られたとしてもいいと思ってるけどね」


(え……?)


 とても小さな声だった。ともすれば聞き逃すような。

 だが、一瞬、和樹にとってだけなのか、喧騒が止んで、妙にはっきりと聞こえた気がして。

 そして、どういう意味なのか和樹が咄嗟に聞き返そうとすると。


 ヒュルル、というどこか間が抜けた音と共に、周囲の喧騒が増した。


 ドーン。


 夜空に広がる花は美しかった。

 次々に上がり始める花火に、皆空を見上げて歓声を上げ始める。


「え、初っ端から凄くない? ね、和樹、凄いね、めっちゃ上がる!」


「あぁ、すっげえな、思った以上に打ち上がるじゃん」


 早紀がそう言いながらテンションを上げているのに、和樹は頷いてそちらを見た。

 暗くなり始めた中で、屋台の灯りと、そして空の色とりどりの明かりが、早紀の横顔を照らしている。


(…………っ)


 そして、その見つめた早紀が驚くほど綺麗で、そして楽しそうで。


「綺麗、夏の花火って、やっぱりいいものだよねぇ」


 和樹は、それに頷きながら、しかし、空を見上げることなくただ、その横顔に見惚れていた。

 さっきまで普通に並んでいたはずなのに、教室とかでも何度も顔を合わしているのに。どうしても目が離せなかった。


「あぁ、綺麗だな……」


 周囲が、早紀が、空を見上げて口々に綺麗だと言う中でただ一人、空では無いものを見ながら和樹はそう呟く。

 空の光が、和樹の視線の先でただ、美しいものを照らしていた。


 夏の夜が過ぎていく。










第2楽章 約束は夏の日々と共に巡る 後編  完

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 後書き、「第2楽章」がだぶっています。 [一言] 「付き合ってるわけでもないのに」でなくて「付き合えてるわけでもないのに」とする、その女心w ハジメたちは、迷子の処理はなんやかやでう…
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