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二番目な僕と一番の彼女 後日譚 ~とある青春群像劇 - クインテット~  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
第2楽章 約束は夏の日々と共に巡る 後編

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第2楽章 71節目


 真司と佳奈は、屋台が立ち並ぶ夏祭りの喧騒の中をゆっくりと並んで歩いていた。

 色とりどりの提灯で飾られ、焼き鳥やたこ焼きの匂いが空気を満たしているが、何かを買うわけでもなく、ただ二人で歩く。

 真司はタイミングを測っていたし、佳奈はそんな真司を察してなのか、それともやはり知ってしまった事実の咀嚼に時間をかけているからなのかいつもより口数は少なかった。


「ね、真司。あのりんご飴美味しそうじゃない?」


 気まずいという程ではないが、そんな空気を変えようとしてなのか、佳奈が屋台の一つを見て、少し明るい声をかける。


「……おお、確かに。随分久しぶりに見るな。せっかくだから買うか?」


「うーん、凄い心惹かれるんだけどあんまりお腹空いてないんだよねぇ、真司は?」


「俺は元々そんな甘いもんが好きなわけじゃあねぇからな……でもせっかくだから一つ買って二人で分けるか」


 真司の言葉に、佳奈は少し目を丸くして驚くようにして、そして破顔した。

 どう切り出すかを考えていたからか、確かに、『りんご飴を屋台で買って半分こ』とはらしくない。

 真司は自分でもそう思いつつ、佳奈の笑顔につられて笑みを浮かべながら、一度言ったことだからと買って渡した。


「食べながらもう少し先まで行くか……ちょっと話したいこともあるしな」


「うん、わかった」


 何が変わったわけでもなかったが、お互いに思わず笑ったからか真司と佳奈の間に流れていたどこか重たい空気が流れていったようで、先程とは違った沈黙で、二人は再び歩き出す。

 そうして歩を進めた結果、いつの間にか屋台は無くなって、祭りの喧騒から少しだけ離れた橋の上まで二人は来ていた。


 見えている川沿いにはシートが敷かれているのを見て、もしかしたら地元の人間にとっての少し離れたところで飲みながら花火を見るスポットなのかもしれないなと真司は思考を巡らせる。


「あはは、なんだか歩いてるのも心地よくて、離れたところまで来ちゃったねぇ。でもでも、いつもは鹿島さん達に送ってもらったりもしてるから、散歩も悪くないっていうか――――」


「……なぁ、佳奈」


 佳奈も同様に、橋の下を見て、屋台の明かりが少し遠くにあるのに目を向けながら、そう呟くように言うのに答えず、真司はなるべく平静の声を作りながら、名前を呼んだ。


「うん? どうしたの?」


 そんな真司の声に、佳奈は少しはっとしたようにして尋ねる。佳奈の少しだけ不安げに、大きな瞳が揺れているのが真司から見えた。

 それに、少しだけ申し訳無さも滲ませながら、真司は答えた。


「こないだの兄貴との会話、聞いちまったんだわ。だから……無理に嘘はつかなくていいからな」


 それを聞いて、佳奈はどこかやはりといった表情を浮かべる。

 そして――――。


「…………っ」


 佳奈は無言で真司を抱きしめた。

 真司がそれに驚くようにしてすぐ近くになった佳奈の顔を見下ろすと、どこか不満げな顔をして、佳奈は真司にしゃがむように促す。

 それに、真司は少ししゃがみ込むようにした。すると今度は佳奈を見上げる形になる。


「うん」


 そして、自分より背丈が低くなった真司に満足するように頷くと、先程の抱擁というよりは、むしろ身長差から抱きついているようになっていた体勢から、本当に胸に頭を抱くようにして、佳奈は真司を包んだ。


「……おい、佳奈? 外だぞ?」


「いいじゃん。ちょっと間抜けだったのは認めるけど、こうしてあげたいって思ったんだもん」


「でも、お前の方が聞いちまって。しかも嘘がわかっちまうお前なのに話さねぇのは、ちょっとの間とはいえしんどかったろ」


「もう、今はあたしのことなんていいの!」


 真司が抱きしめられたまま、抵抗もできずにそう言うと、佳奈が少しだけ強い口調で言葉にする。


「そりゃびっくりしたけどさ。それ以上に、きついのは真司でしょ? だってさ、真司。知らなかったんだし、しんどいよねぇ……お兄さんの事も大好きだもんね。それに、話してもらえないことも、これまでのいろんなことも、きっとぐちゃぐちゃになるよねぇ」


 それを聞いて、あぁなるほどと真司は思った、同時に感謝の念が込み上げてきて、まずは疑問を口にする。


「……昨日、俺が聞いたってのに気づいてたのか?」


 でも、佳奈はそれに首を振って言った。


「ううん。もしかしたらって思ったのはさっきかな? 何だか様子が変だったし。かと言って……別れ話みたいなのはされない自信はあったし」


「じゃあなんで……」


 そんなに俺の心境がすぐにわかるんだよ。と続けようとして、佳奈が指先で真司の唇に触れる。


「わかるよ。そりゃ真司は嘘が上手いよ? 何も言わないのも上手いし、何でもできちゃったりもする。けどさ、わかるの。知ってる? あたしは真司の彼女なんだからね」


 そして、ふふ、っと笑う佳奈に、真司は思わず見惚れた。


「見惚れたっしょ」


「…………お前な」


「お見通しだからねぇ? 真司があたしに惚れてくれてるのも」


 いたずらっぽく笑いながら、佳奈はその後に今度は真面目な口調になって続ける。


「……考えてたんだ。慎一郎さんの病気のことさ、ああして倒れるところを見るまで全然分からなかったし。そして、あたしが言葉を嘘だってわからなければ、きっと気づかなかったんじゃないかなって。だから真司も知らないのは本当だろうし、もし知ったら、凄い悲しむよねって」


「そっか……そうだな。確かに昔から時折寝込むこともあったし、決して頑強というタイプではなかった。だが、何というか俺の中で兄貴は芸術家肌で、線が細いとかそういうのも自然に思えててな…………それに昔から優しくてどこか透明感のある人だったから、違和感もなかったんだろうな。情けねぇ」


「ううん、きっとそれだけさ、真司にとっての自慢のお兄さんでいたかったんだよ。それに、いつかはタイミングを見て話すつもりだったんじゃないかなって思うしね」


 佳奈の言葉に、真司も頷いた。

 少し抱擁の力が強くなる。


「…………どこかで、兄貴と話をしたいな」


「うん、きっとできると思うよ…………あ」


 どうした? そう言おうとして、音と光で気づいて、背後の空を見上げる。

 抱擁が解かれて、真司は立ち上がって改めて夜空に打ち上がった花火を見た。

 そっと腕に佳奈が絡んでくる。


「なぁ、佳奈」


「ん?」


「ありがとな」


「うん」


 花火の音の中でも、はっきりと感謝の声は届いたようで。

 色とりどりの光が二人を包み込む中で、真司と佳奈は、短い言葉でお互いの意思を伝えるようにして見つめ合っていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 言葉が嘘って判っても、普通は言われないことは判らないんでしょう。 それでも、言わないことさえ通じる特別な相手、ということなんですね。そしてそれでも、言葉に出して伝えるべきこともあると。
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