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二番目な僕と一番の彼女 後日譚 ~とある青春群像劇 - クインテット~  作者: 和尚@二番目な僕と一番の彼女 1,2巻好評発売中
第2楽章 約束は夏の日々と共に巡る 後編

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第2楽章 56節目


「優子、おじさん。12番さんの席の鶏唐揚定食、ご飯少なめが良いって」


「わかった」


 オーダーを取ってきてくれたいっくんにそう答えている間に、またいっくんがお客さんに呼ばれてそちらに笑顔を向けて足早に向かった。


 その様子を、横目でちらちらと見ている女性客が数人。彼氏と一緒に来ている人も、休日なのにスーツのお姉さんも、少し年配の方も。


「相変わらず、いっくんは人気だなぁ。優子もうかうかしてられないな」


 今日は休みの日なのだが、優子の母が腰を痛めてしまい、普段のパートの方も都合がつかず、フォローでいっくんが手伝いのアルバイトに来てくれていた。

 流石に厨房はお願いできないので、いっくんはホールに出てもらって、優子がいつもは母親がやっているポジションで料理の補佐をしている。


 これまでも近所かつ家族付き合いの(よしみ)もあって何度か手伝ってくれているのだが、その時も女性客の目を集めていた。

 時折、父親が茶々を入れるがスルーしつつ、でも全く気にならないわけではないので、優子はそっといっくんの仕事ぶりを見ていて、ふと朝来てから仕込みの間に言っていたセリフを思い出してしまう。


『優子が料理作って、俺が運んでってさ。将来もしお店継いだらそんな風になるのかね……』


 多分もう、心の底から、素でそう言ってるんだろうことがわかるから、色々と考えてしまう優子は時々眩しくなってしまうのだった。

 逆に色々と考えてから行動する時には、どこか抜けていたりもするのに、自然体でいるとき程格好良さが増すのは何なのだろうか。


(継ぐ、ねぇ。将来か、最近学校でもよく話に出るしね……)


 いっくんのお父さん達は、八百屋は自分の代で閉めると言っている。確かいっくんのひいお祖父さんの時代に始めたと聞いたことがあるから、五〇年以上はあの場所で野菜や果物を仕入れている。

 でも、いっくんのお父さんもお母さんもさばさばした人で、いっくんがやりたいなら別だけれど、そうではないなら、と。


 何故優子が知っているのかというと、本人にも言っているのだろうけれど、優子に向けても何故か、言うからだった。まぁ意味が伝わらないほど鈍くはないけれど、このお互いの両親達の見守っている感は時折窮屈でもあった。


 まぁそれはそれとして、対しての優子の家はというと、このお店自体は優子の父が始めたものだ。

 優子が生まれる前からということだから、二〇年以上前になるのだろうけれど、少し大きめの企業のビルが近くにあるので、住宅街側から来る固定の常連さんに加えてで、なかなか繁盛している。

 先行きは誰にもわからないけれど、経営で苦しいということもないようで、店の雰囲気も好きな優子は、将来的に継ぐことは視野に入れていた。


 だからこそ余計にいっくんの言葉が残る。

 きちんとどこかで話をしなければとも思う。縛りたいわけではないのだから。


(でもさ……話をしないとっていうのもわかるけど。何? 結婚を前提の将来の話とかって、流石にちょっとなぁ…………でも大学選ぶのも少し関係するしなぁ……相談、相談?)


 手は器用にご飯をよそって配膳を整えながら、優子の頭は朝からそんな思考で占められているのだった。



 ◇◆



 店とは言っても、昼の時間帯をすぎると夜までで仕込みの時間帯もある。

 夜は別の学生アルバイトさんが来てくれるので、優子達は今日のバイト代を元に、少し本屋デートの予定だったため、二階に上がって優子は用意をしていた。

 そして、父親といっくんがいる場所に戻ると。


「なぁいっくんよ、優子は迷惑をかけてやしないかい? 後は、無理してやしないかい?」


 そんな話し声が聞こえてきて優子は立ち止まった。

 最初はノックでもしようかと思ったのだけれど、やはり気心はしれているとはいえ、自分の父親と彼氏の会話は少し気になる。


(……す、少しくらい聞いてもいいよね。うん、戻ってきたのに気づかないほうが悪いよね)


 そう自分でも都合がいいと思う言い訳を内心でして、優子は忍び足で音を立てないように扉を少し開けて、聞き耳を立てた。


「そんな、全然っすよ。むしろ俺のほうがいつも優子に無理させてんじゃないかって思いますし、その、甘えてばかりだなって思います」


「あれで母ちゃんに似て、気が強いとこもあるからなぁ、苦労するぜ?」


「ふふ、でもおじさん、幸せそうじゃないすか。うちの親も仲良いっすけど、そういう親を見たから俺もそういう憧れあるっていうか……でも」


「お、でも、なんだい?」


「それってちゃんと支え合ってるからそうなんだなって思うんで、俺も勢いだけじゃなくてちゃんと考えないとなぁって最近思うんですよ。でもですねぇ。大学とかもお店の経営とかも知らないとだなって思ってそっちの志望校にしようかと思ってるんですけど……それも優子に流されてるだけなのかもなぁと思ったりして。重いっすかね」


「くはは、優子は幸せもんだ。俺はなぁいっくん。高校の頃からこうして店やりたいとか思ったことはなかったんだぜ? でも色々な流れがあって縁があって、今こうしてるからな、難しく考えすぎなくて良いんだと思うがなぁ」


「あはは、でもやっぱり考えちゃいますし、その、考えられるようになりたいなぁと」


 そこまで聞いて、優子はわざと音を立てて、今降りてきたかのようにして、二人に声をかける。

 もう、十分だった。


「あ、優子お疲れ、準備出来たの?」


「うん、じゃあいこっか。お父さん、お母さん横になってもらってるけど、少しマシになってきたみたい。でもまだ絶対安静だから、無理に動かないように言ってあるから…………じゃあ、いこ、いっくん」


 そう言って、優子は自分と同じような事を思ってくれていた幼馴染で彼氏に対して、少しいつもより近く、腕に絡むようにして外に向かったのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 会社を継ぐ、というのであれば大学で色々学ぶこともあるだろうけれど、家業を継ぐ、というのはちょっと違う気がするな。 まあ、なにが出来るか、なにが必要とされるかについて考える時間はまだありそうだ…
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