第2楽章 52節目
ダム、ダム……。
(やりにくいな……)
俺は目の前で少しだけ離れた位置でディフェンスをする和樹を見て思う。
少し離れた位置、ミドルレンジと3Pの間から、中々切り込めない嫌な位置で、試合が始まってからずっとマークされていた。
真司を見ても、ハジメが付いていて、そこには入れにくい。そして地味に山田くんがゴール下にいるのが効いている。
俺がそこに入ると、今度はボール運びで真司のみになるし、他のメンバーもめちゃくちゃ頑張ってくれているけど、ハジメの指示で動く相手側の方が一つ上手だった。
そして何より――――。
(この距離苦手なんだよな、もう少しゴール下に入れれば…………くそっ)
和樹が一貫してやってきているのは、こちらにシュートは撃たれてもいいという割り切りのディフェンス。でも、切り込んだら山田くんと挟まれるし、強引に行ったらうまくオフェンスファウルを取られた。
正直審判がバスケ部の二人なのもある意味効いてる。
「……くっ」
また、時間を使わされていた。
バイオレーションになる24秒が経つ前に、真司に無理に入れるかで迷って、撃つ。
ビッ!!
(ダメだ、撃たされてる……!)
「わりぃ!! リバン頼む!!!」
撃った瞬間わかる。入らない。そう声を出しつつ、自分でも取りに行こうとするも、進行方向を和樹が塞いだ。自分はリバウンドに参加しない代わりに俺が飛ぶのを邪魔する位置取り。
正直言って、楽しみと思っていたけど、真司の負ける気は無いけれどと警戒もしていた意味が改めて腑に落ちていた。
ガンッッ!!!
キュキュッ! バシッ!!
バーで跳ね返った後のリバウンドで、背の高さでそこに張って貰っていた高山が山田くんに競り負ける。
『ビビーーーーーーー!!!』
そして、クォーター終了を意味するブザーが鳴った。
俺はスコアを見て、ふう、と息を吐いた。
休憩の後で、次が最後だ。
17 ― 21
少しロースコア気味なのは、コンスタントに決めている真司に対して、俺が抑えられているから。
対して、相手はある時はハジメが、和樹が、更には未経験者のはずの生徒もパスを回されて決めたりしていた。
◇◆
「石澤くん、結構凄いんじゃない? あっちの佐藤くんが凄いやりにくそう」「ね、意外。凄い真面目にやってるっていうか」
そんな声が聞こえてきて。そして、汗を拭いながら、ハジメと笑って会話している和樹を見て早紀は少しだけふっと口元を和らげる。
「実際さ、バスケ部の早紀から見てどうなの? バスケ、勉強してはいるけどさ、今イッチーが凄いやりにくそうだよね」
千夏が、ハジメからは目をそらさずに、早紀にそう意見を尋ねてくる。
それに、早紀は少し考えて答えた。
「和樹も頑張ってるのはそう。イッチーの事を知ってるからだと思うけど、凄い愚直にミドルレンジ以上のシュートは諦めて、でも一番得意な形は自由にやらせない状態を作ってる。でも、そもそもとして、ハジメが、正直思ってたより凄い」
「えへへ、そうでしょうそうでしょう」
すると、彼氏を褒められてもうそれは分かりやすく千夏がにこにことしている。何故千夏が誇らしげなのか、いやまぁわかるけど。
「……惚気るだけなら解説しないよ?」
「あぁー、嘘嘘ごめん調子に乗りました!」
「全く油断も隙もない。まぁね、イッチーと真司、ハジメと和樹だとさ、身体能力的にはあっちが圧倒的なんだけど、ハジメが司令塔として凄い効いてるのよ。それこそ他の男子が素人だから、司令塔ポジションがいるかいないかが大きい。凄いね、位置取りにチームメイトの使い方が上手い。今の点差かな? 山田くんもブランクあるけど効いてる。それに――――」
早紀が考えながら言葉を紡いでいるうちに、最後のクォーターの笛が鳴って、それぞれのチームが出てきた。
「ありがと、早紀! よし、最後まで応援するよー!」
そして、千夏がそう言って、コートのハジメに手を振る。
千夏は聡い子だ。だからこういう風に惚気たりガンガンに彼氏だけを見て、みたいなイメージは最初は無かった。
その印象はきっと間違いじゃなくて、他のことでは本当に色々バランスを考えて行動している。
でも、ハジメの事に関してだけは何もかも素直で全力だ。それが却ってやっかみや羨望などより余程、間には入り込めない二人、として益々立場を確立してるなと、早紀は苦笑した。
和樹を見る。
練習を黙々と頑張っているのは、同じ体育館で何度も見ていた。
軽そうにしていた、似合わない軽薄さを剥がせば。
軽薄さが何故似合わなかったのかも頷ける、愚直さや真面目さが顔を出すのも、早紀は知っていた。
少し前までは、ずっとイッチーの事を見ていたし、その試合も何度も見てきたからわかる。
例え10分でも、そういうマークをし続けるのは集中力と愚直さ、割り切りが必要のはずだった。そうでなければ、エースとは言われない。
多分最後のクォーター、次が本当の勝負だとは思う。あれだけ頑張っているのだから、勝って欲しいと、思う。
(…………)
イッチーと和樹で相対して、目を離せない相手が変わっただなんて、半年前の自分に言ったらどうなるだろうか。
早紀はそんな事を考えてしまった自分に少し笑って、でも、目はそらさないようにしてコートを見ていた。




