36.文芸同好会の圧政
残暑の残る季節に二学期は始業となった。夏休みの期間中は米寿を手伝ったり、お盆のお墓参りで久しぶりに家族がそろったり、月の化身と文学について語りあったりと有益な時間を過ごすことが出来た。
米寿はあれから経営が傾くこともなく、この街の景気も上を向いて来たらしい。
高校生活もいよいよ中盤だ。在学中に俺は『何者』かになれているだろうか。
才介はそうやって頭を悩ませているうちに、あることを思い出した。
「文芸同好会です。この度はみなさんの応援もあり、地方新聞で大賞を受賞することが出来ました」
一学期の初頭に瓜生は確かにそう言っていた。
だったら文芸同好会に入会すれば、それぞれの特性に合った文学賞に応募してもらえるんじゃないか。そうでなくとも文学をたしなむ仲間が増えるのは心強い。
いつもひとりぼっちで書いてきた才介にとっては、ほかの作家と切磋琢磨するのは良い刺激になると思えた。
今更になって入会できるかは、はなはだ疑問ではあるが。
才介は放課後に文芸同好会が使用している教室へとおもむいた。空席はちらほらあるが、それなりに会員はそろっているようだ。それぞれがノートパソコンであったり、原稿用紙であったりと対面して黙々と書いている。
黒板に目を向けると、『文芸甲子園まであと3か月』と白い文字が躍っていた。
教壇には瓜生が鎮座しており、若年の会員に何事か指導をしている。才介は知り合いがいたことに安心して教室のドアを開けた。ガラガラと鳴った音で、大半の生徒が才介に注目する。
「文芸同好会の会員になりたくて訪問した、村上才介です。会長さんはいらっしゃいますか?」
慇懃に頭を下げてから辺りを見渡すと、瓜生が目の前に立っていた。
「帰れ」
にべもない返事だった。
「おいおい、それはないぜ。俺も小説を書きたくてここに来たんだから」
「うちは遊びでやっているわけじゃない。生徒会からも実績を残すことで存続を許されているんだ。お前のような『欠伸』も書けない未熟者には、末席を汚す資格すらない」
あまりにも辛辣な言葉の弾丸に、会員からも躊躇する声が上がった。
文芸同好会はセミの合唱にも似た議論に包まれたが、女生徒が机を蹴り飛ばして一喝したため、再び静寂が訪れた。
「安吾の悪口はいつものことでしょ。いい加減慣れなさい」
そうしてから、つかつかと才介に歩み寄る女生徒。髪を後ろで結んでいるため額が大きく、眉はつり上がり、口をへの字に曲げている。
腕を組みながら、すくいあげるようにして才介を睨みつけた。
「私は詩部門の会長です。安吾の言う通り、素人を入会させるつもりは私にもありません」
「確かに素人かもしれないが、締め切りは守るし、それなりに貢献だってするつもりだ」
何故ここまでアウェーなのだ? そう思いつつ弁明したが、
「あらそう、だったらこれから開催される学園祭で証明してみせてよ。あなたの実力とやらをね」
彼女は凛として言い放つ。とりつく島なしだ。
「私達もそこで同人誌を発行するのよ。あなたも作家なんだったら、本の売り上げで勝負しましょう」
なんだか腹が立ってきた。小説家とはここまで排他的な生き物なのか。そう狭くなった視野で文芸同好会の会員を一瞥すると、その誰もが敵に見えてきた。
満島どけ。瓜生はそう彼女を後ろに下げると、
「お前の小説など児戯に等しい。わかったら、さっさと出ていくんだな」
瓜生は手の甲をぶんぶんと振って、追い払うしぐさを見せた。
「そこまで言うんだったら、勝負してやるよ。俺が勝ったらあんたらは俺に土下座してあやまれ!」
「望むところだ」「ええ、いいわ」
瓜生と満島は、同じような反応を見せた。
「その代わり、俺たちが勝ったらお前は小説を書くのをやめろ。目障りだ」
「上等だ、やってやるよ!」
才介は勢いでそう叫んでしまった。
「覆水盆に返らず。その言葉に責任を持てよな」
蛍光灯の光が弱いのか、才介は一瞬間だけ、目の前が暗くなる感覚がした。
しかし負けてばかりもいられず、毅然とした態度で、それはこっちのセリフだと宣言した。




