94:偏向報道、ダメ絶対
さて。時刻は14時10分を回ったところ。日没までまだ猶予もあるし、ガラス素材の情報収集かな。
ポーラとシェレンさんは疲れたみたいで、俺とおやすみのキスを交わした後、お昼寝のために自室へと引っ込んだ。まあ普段から家事や縫い物、学校の授業と忙しいんだし、休める時に休んだ方が良いよな。
「んじゃまあ、ソロだけど頑張りますか」
レシピの残りはセイリュウ珪砂と、お石灰岩とやらだけど。
前者は、もちろんセイリュウ海域だろうけど、後者の方は……これも海か? ゲンブの方か?
「とりま分かってるセイリュウの方に行くか」
家を出る。と、すぐに。誰かにぶつかりそうになった。
「うわ! ビックリした!」
ちょうど訪ねて来たところだろうか。相手をしっかりと見る。途端にハッと息を飲んだ。女性……なのは当たり前なんだけど。黒と赤のツートン髪の頭頂辺りに猫耳がピョコンと生えていた。日本でもコスプレ界隈では日常茶飯事なので、猫耳自体は珍しくもないんだけど。
「ほ、本物?」
毛の質感とか、内耳の生々しさとか。
「にゃ! これが偽物に見えるっすか!?」
猫耳少女は耳をピコピコと動かしてみせる。お、おお。やっぱ本物か。すげえな、ファンタジー世界。「どうだ?」と見上げてくる少女の姿を改めて正面から見る。丸っこいドングリ目、キレイな鼻筋と薄い唇、顔の輪郭に沿って外側に跳ねたクセ毛。シェレンさんのような正統派美人とは違ったタイプだが、魅力的なルックスの少女だった。
そしてポーラより小さな体に、この島では珍しい普通くらいのお胸。ショートパンツの臀部からは尻尾も覗いている。
総じて。
「可愛い」
「にゃ!? 亜人のウチを可愛い!? からかってるっすか?」
凄く驚かれたけど、日本なら女子に囲まれてしまう可愛らしさだと思うけどね。
「さ、流石は異世界人っす。ウチの姿を見ても気味悪がったりするどころか、か、可愛いなんて」
そう言って少し頬を赤らめていたが、やがてフルフルと頭を振った少女。仕切り直して。
「……申し遅れたっす。ウチはクローチェ。見ての通り、猫人族っす」
猫人族っていうのが、まず俺のデータベースに無いワケだが。俺の顔に浮かんでいる疑問符には気付かなかったようで、そのまま続ける。
「そっちの自己紹介は大丈夫っす。有名人っすからね。アキラって呼ばせてもらうっす」
「あ、うん。よろしく、クローチェ」
そっと手を差し出してみる。ニチカみたいにお乳に顔を挟んでくれる雰囲気はないし、握手くらいが妥当かなと。握り返してくれたのでホッとする。手は……猫の体毛とかもなく、普通に人間の手だった。
そして近くで見ると……髪で隠してるけど、人間型の耳も顔の側部についてるのが分かる。猫耳2つと人間の耳2つ。二次元だとそういうキャラも多いけど(いやここも二次元だけどね)、実際に見ると不思議な感じだな。
「……」
俺の視線に気付いたか、握手の手を離し、そっと髪を撫でつけるクローチェ。
……またやってしまった。アティのオッドアイの時に学習したハズなのに。
ただクローチェはアティよりも強かな性格のようで、逆にこちらの薄い胸元(男だから当然なんだが)や、太い二の腕などをチラチラと見てきた。まあ俺としても、それでおあいこにしてくれるなら、気が楽で良いが。
「……えっと。それでクローチェは今日は何をしに?」
俺を訪ねて来たのか、ポーラやシェレンさんの方かは定かじゃないが、玄関先まで来てたということは、この家に用があったのは確実だろう。
「あ、そうだったす。ウチ、実は新聞を書いてるっす」
「え。ああ、新聞」
日本では取ってなかったし、すっかり存在を忘れかけてた物だけど。そうか、この島だとむしろバリバリの現役だろうな。
「つまり……俺を取材しに来たってこと?」
なんか自意識過剰な痛々しい響きがあるけど、恐らくは実際そうだろうし、クローチェも首肯を返してきた。
「そうっす。明日の週刊新聞に記事を載せるっす。それでババーンと掲示するっす」
週刊。そうか、明日で俺が来て1週間経つんだな。とすると、もしかして、
「ちなみに、その掲示に合わせて集会みたいなのも行われるの?」
「はいっす。1週間に1回、島民集会っす」
なるほど、やっぱり。俺が転生した時に放り出された広場。そこで行われていた集会も週1か。
「……それで、どうっすか? 取材」
「うーん。そうだなあ」
正直、あんまりメディアに良い印象ないんだよな。
「ウィドナばあさんの息が掛かってて、俺を貶める記事を書くとか」
「ぎっくー!」
ぎっくー言うたな。てか実際に口で言う人、初めて見たぞ。
「だ、大丈夫っすよ! ロスマリー様に公平に書くよう釘を刺されてるっすから!」
そのセリフで思い出した。そうか。数日前の夜、ロスマリーと話してた相手。アレがクローチェだったのか。林の中だったし、ボソボソとした内緒話の声量だったしで、結びつかなかったけど。
言われてみれば、あの時の密談相手は鼻やら耳やら、かなり良さそうだった。それが猫人族の特性がなせる業だったとしたら、なるほど合点がいった。
つまり、ロスマリーが「汚い手など使いたくない」と言ってたのは、偏向報道するなってことだったんだな。
「どうしたっすか? やっぱダメっすか?」
黙り込んだ俺に、不安げに眉根を寄せるクローチェ。
「あー、いや。そうだな……公平って、俺がやった功績も書いてくれるってことだよな?」
「そうっす。良いことも悪いこともっす」
心情的には良いことだけ書いて欲しいけど、それだとウィドナと同じになるからな。
それに俺は基本的に書かれてマズイことはしてないつもりだし。
承諾の方向で固める。ただ、
「分かった。ただし条件がある」
「条件っすか?」
「トンテキと寿司を紹介して欲しい」
メディアのもう1つの使い方、商品やサービスの宣伝。
……存分に利用させてもらいましょう。




