93.1948年 ひまわり一号ショック 過去
――種子島 藍人 過去
藍人と息子の響也は「ひまわり一号」が発射される様子を近くで見ようと種子島まで足を運んでいた。種子島にはロケット打ち上げ施設があるが、ロケット発射の際に周辺地域はロケットによるソニックブームなどで怪我をする恐れがあるため、見学すると言っても立ち入り禁止区画の外までしか行くことが出来ない。
「ひまわり一号」の発射は日本中で注目されていて、見学を希望する人も多かったため、種子島に専用の見物用施設が建設された。
ドイツと日本が共同開発した最新式のロケット「ザトゥルンロケット」は理論上、地球周回軌道にまで「ひまわり一号」を送り込む推力を持つと発表されている。
藍人と息子の響也は発射を目前に控え、ワクワクしながら種子島の見学施設内で「ザトゥルンロケット」に取り付けられた「ひまわり一号」を見守っている。
「父さん。ありがとう。ここまで連れて来てくれて」
響也は幼い時から宇宙飛行士になりたいと言って憚らず、その夢は歳を経るごとに強くなって行っていると藍人は感じていた。
打ち上げが成功すれば、世界初の人工衛星になるであろう「ひまわり一号」の打ち上げを息子が見学したいと思うのは藍人でなくても容易に分かり、藍人は息子の喜ぶ姿が見たくて種子島まで息子と一緒に足を運んだのだ。
実は藍人も「ひまわり一号」の打ち上げには興味津々で一人でも来たかもしれないと心の奥底で思っていた。
「いや。俺も楽しみだよ。響也」
「人工衛星を打ち上げるなんて数年前まで世界各国からバカにされていたけど……日本はきっと成功させるはずだよ」
「ああ。そうだな。お前が大きくなる頃には人工衛星じゃなく、日本人が地球周回軌道を回っているかもしれないな」
「うん。この調子で行けばあと五年くらいで人類はきっと宇宙へ行くはずだよ」
息子はキラキラした目でずっと「ひまわり一号」を眺めている。藍人は息子の言葉通りなら、藍人が生きているうちに息子が月へ行く姿が見れるかもしれないと考えると思わず頬が緩むのだった。
「響也」
「何? 父さん?」
「お前はきっと月へ行くよ。誰が否定しようと父さんは信じてるぞ」
「ありがとう。父さん。僕はきっと月へ行ってみせるよ。父さんが生きているうちにね」
藍人は自分が生きているうちにと言ってくれた息子に感動し、彼の頭を撫でる。
次の瞬間、耳をつんざく轟音が鳴り響き、「ザトゥルンロケット」が火を吹き空へと打ちあがって行く。藍人は上空と見学所に設置されたテレビの中継映像を交互に食い入るように見つめる。
直ぐにロケットは藍人達から見えない位置まで打ちあがり、これより先はテレビの中継映像でしか見る事ができなくなってしまった。
藍人はテレビを見ながらも、たまに息子をチラリと見ると彼は微動だにせずじっとテレビを見つめていたのだった。
「響也。すごかったな」
「うん」
その後テレビには「ひまわり一号打ち上げ成功」のテロップが映り、羽柴総理大臣の成功を祝う映像が流れた。日独以外の世界は日本の「ひまわり一号」打ち上げ成功に驚嘆し、アメリカとソ連は宇宙開発を本格化させると発表することになった。
「ひまわり一号」は地球周回軌道を十五周した後、大気圏に再突入し燃え尽きることになった。「ひまわり一号」は燃えて無くなったが、「ひまわり一号」の名は世界に刻まれることとなる。
――磯銀新聞
どうも! 日本、いや世界で一番軽いノリの磯銀新聞だぜ! 今回もエッセイストの叶健太郎が執筆するぜ! みんな見たか? 人類初の人工衛星「ひまわり一号」の打ち上げ成功を。いやあすごいぜ。ついに宇宙にまで進出したんだなあ。日本宇宙航空研究開発機構は1960年までに月へ人類を送り込むと意気込んでいるんだ。
本当に実現したら人類史上に残る快挙になるよな。1960年か。生きていればいいんだがな。俺。
国際連合の常任理事国にロシア公国、カナダを加えた各国は原子力エネルギーが出す放射能の人体に与える影響が深刻なことが分かり、今後原子力エネルギーをどう使うべきか協議が行われていたんだ。結果、原子力エネルギーを使った兵器開発は禁止することが各国で約束される。
原子力エネルギーの平和的利用においても常任理事国間で協議を行い、安全性の確保が義務つけられた。平和的利用の代表格が原子力発電だが、原子力エネルギーを利用した原子力発電は火力や風力に変わる効率のよい発電方式と注目されていて開発に取り組んだ国もあったらしい。しかし原子力発電所から放射能が漏れだした場合に環境に与えるダメージが甚大で事故が発生したときのリスクは計り知れないそうだ。
日本の原子力開発は機密扱いでどれだけ進んでいるか不明だけど、原子力を使った兵器開発は凍結すると発表した。今後抜け駆けする国が出て来るような気がするんだけどなあ俺は。
イギリスは中東地域の全てに完全自治権を認め、中東地域も独立を果たした。中東地域はイスラム法を採用することが禁止され、イギリスの憲法を参考にした世俗憲法を定めることが独立の条件となった。
イギリスとフランスで協議を行っていた西アフリカだが、ドイツが後ろ盾となったカメルーンの成功を参考にして、部族間の対立解消、初等教育の実施、一次産業の振興政策を宗主国であるイギリスとフランスが実施していくこととなった。
西アフリカで行われる「独立の為の準備」へ日本とドイツも協力することになった。西アフリカの独立は二十年以内を目標にじっくりと腰を据えて行っていくことが各国間で確認された。
同じように英仏は、ベルギーも参加した中央アフリカと東アフリカでも「独立の為の準備」を実施することが決定する。
まだ時間はかかるが、全世界的に脱植民地の目途は立ったってところだな。
技術の発展に伴い、南極大陸に行くことができるようになってきたが、人類が到達できるってことはまた領土問題が勃発することにもなるんだ。南極大陸でも各国の領土主張が出て来たから、国際連合で南極条約が締結された。この条約で南極大陸はどの国の領土にもしない国際管理地域とすることが定められた。
領土主張を行っていた各国は領土主張を取り下げ、国際的管理地域となることを承認したってわけだ。今後南極大陸には日本も含めた観測所が設置されることになるだろうが、各国協力の元上手くやっていってほしいな。
余談だが、日本はこの席で地球の大気圏外の天体についても南極大陸と同じとするべきと主張し、各国は少し戸惑っていたものの賛成多数で可決された。いずれ技術が進み、人類が手軽に宇宙へ進出する時代も来るかもしれないからな。日本が提案し可決された条約は宇宙条約という名前になったんだぜ。
最後にみんな今日まで俺の記事を読んでくれてありがとうな! 今日を持って叶健太郎は磯銀新聞のエッセイストを引退する。え? 理由はなんだって? 七十歳まで磯銀新聞のエッセイを書いたんだ。後進に道を譲るのもいいかなと思ってな。
歳はとったが、俺の体は腰以外問題ないぜ。明日からの磯銀新聞のエッセイもよろしくな! ありがとう! 寂しいだろうが、これも時の流れだ。みんな達者でな。




