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65.防衛協定 過去

――ドイツ ベルリン 用宗(もちむね)

 老境に差し掛かった用宗(もちむね)は、仕事を引退し日本へ一度戻ったが長年世話になったドイツに何かできることは無いかと考えていた。ちょうど日本政府からドイツ語の通訳者を大量に募集していたので、用宗(もちむね)はそれに乗っかることにしたのだ。

 さほど時間が立たずドイツのベルリンへと戻って来た用宗(もちむね)であったが、ベルリンは以前より更に緊迫した空気を(まと)っていると彼は感じる。

 

 ドイツ人との手紙のやり取りで用宗(もちむね)は新聞から得る情報以上にドイツの政情に通じていた。西プロイセンのポーランド系住民問題だって、ドイツに軍隊が無い為抑え切れてないとだけ書かれているが、ドイツが何もこれまでしてこなかったわけではない。

 警察により警備の強化も行っているし、多額の資金を持たせポーランド領へ移住してもらうようにキャンペーンを行ったことだってある。

 そもそも、ポーランドの政権が変わる以前のポーランド系住民の散発的なデモと政権が変わった後のデモと暴動はその性質が全く異なる。政権が変わる以前は貧困層の「パンとサーカス」を求めたデモだった。

 ポーランド系だということでポーランド政府はデモの自粛を訴えていたほどドイツに協力的だったのだ。しかし、かの英雄が亡くなり政権が変わるとポーランド系住民の性質が一変する。

 「政治的」な要求を白昼堂々求めるようになってきたのだった。明らかにポーランド系住民でなく、ポーランド人が主導しているだろうことは誰の目にも明らかで、金銭など受け取らないし、西プロイセンの南半分の自治権を求めて来た。

 まさしく、ポーランドが現在要求していることと一致するのだ。

 

 警官隊を派遣し、取り締まるもすぐにまたどこからかポーランド系住民を「自称」する集団が現れ、逮捕されるたびに過激になっていった。取り締まっても抑えきれない理由はそこにあった。

 警官隊ではなく、軍隊を進駐させ厳戒態勢を敷けばこうはいかなかっただろうが……用宗(もちむね)はため息をつき、ベルリンのホテルへと戻って行く。

 

 ホテルに戻った用宗(もちむね)は日本の政府関係者で主催する決起集会へと顔を出す。この決起集会にはドイツの政府関係者も訪れているらしい。

 日本政府高官が開会の挨拶を行った後、ドイツ政府高官が壇上に立つ。

 

「日本の皆さん。来ていただきありがとうございます。日本の協力に感謝いたします」


 なんと日本語でドイツ政府高官は挨拶を行ったのだ。拙い日本語ながら、一生懸命な様子に用宗(もちむね)は心を惹かれる。

 ドイツの現在おかれた状況は非常に厳しいと用宗(もちむね)だけでなく、誰もが考えているだろう。国内にもこの政情不安を利用して勢力を拡大しようとする共産党主義者や独裁主義者達もうごめいている。

 ドイツ再軍備宣言の後、日本の支持が即座に宣言されたことで多少の落ち着きは取り戻してきているようではあるが……

 

用宗(もちむね)さん。お久しぶりですね」


 用宗(もちむね)に声をかけてきたのは、まだ通訳時代に既知を得た懐かしい顔だった。確か工場を経営していた気さくなドイツ人だったと用宗(もちむね)は思い出す。


「お久しぶりです。確か工場の」


「そうです。私の工場も軍需向けに転換しているところもありますし、新しく建築した軍需工場もあります」


「そうでしたか。情勢が時間との戦いになってますし、心労お察しいたします」


「いえいえ。用宗(もちむね)の顔を見れてホッとしましたよ。最近は軍需軍需ばかりでしたから……」


「お会いしたころは、欧州大戦が終わった頃でしたね。懐かしいです」


「あの頃は敗戦で何もかも失うところでしたけど、こうして持ち直したのです」


「今回だって同じことですよ。きっと乗り切れます」


「ありがとうございます。あの頃から日本の協力に感謝してますよ」


「私など……大したことはしておりません」


「謙遜するのが日本人の美徳と聞いていますが、用宗(もちむね)さんはもっと誇っていいですよ。あなたのドイツで行った功績は偉大なものです」


 ドイツ人の工場長はそう言って微笑み、用宗(もちむね)と硬い握手を交わしたのだった。

 


――磯銀新聞

 どうも! 日本、いや世界で一番軽いノリの磯銀新聞だぜ! 今回もエッセイストの叶健太郎が執筆するぜ! 某メーカーさんから研究中のこたつをいただいたんだけど、これはすごいぞ。

 こたつと言えば、電気こたつがあったんだがこれは毎年メンテナンスが必要だし、一酸化中毒の危険性が高かったんだよな。しかし、このこたつはなんと赤外線を使っている。メンテナンスも必要ないし、あったかいし危険性も無い!

 これは発売したらきっと爆発的に売れるね。俺は確信したよ。

 

 複雑な欧州情勢だが、一見したところ動きはない。ドイツがポーランドへ期日までに軍を引くように通達したが、今のところポーランド軍に動きはない。この間もドイツは軍備を着々と進めている。

 民需工場の軍需への転換を始め、豊富な経済力を背景に急ピッチで新しい軍需工場も建築されているんだぜ。更に日本に加え、オーストリア連邦からも若干の輸出がはじまったから装備面ではそう遠くないうちに再軍備が完了するだろう。

 もちろん軍事訓練も実施されているぜ。

 

 ポーランドとソ連に圧力をかけるため、日本とドイツとオーストリア連邦は三か国で防衛協定を締結した。さらに、オーストリア連邦とトルコは防共協定を締結する。日本はトルコと既に防共協定を結んでいるから、ソ連と国境を接しているトルコにもルーマニア社会主義共和国と緊張状態が続いているオーストリア連邦にとっても圧力をかける効果はあるだろう。

 この結果、実質四か国で相互防衛協定ができたに等しく、四か国と抗争している国家にとっては圧力をかけることができるだろう。もちろんポーランドにもだ。

 日独墺三国防衛協定は相互援助協定ではあるが、参戦規定は無い。オーストリア連邦とトルコの防共協定は参戦義務があるが、ソ連又は共産党政権下の国家との戦争に限る。

 

 日独墺三国防衛協定締結を受け、ポーランドは特に日本を批判。大国の圧力には屈しないと声明を発表する。日本はアメリカへドイツとポーランドの仲裁を求めるが、アメリカは従来の態度を崩さず「欧州大陸不干渉」を理由に仲裁を断る。

 イギリスはフランスとの関係を考慮し中立を保っているため、もはやポーランドとドイツの衝突は避けられない情勢となってしまったんだよ。

 

 オーストリア連邦の周辺情勢だが、ルーマニア社会主義共和国は動きを見せず、ポーランドとソ連が狙うガリツィア州に対しても今のところ動きはない。

 ブルガリアでは未だ共産党革命軍と政府軍の激しい戦いが続いており、ブルガリア政府はオーストリア連邦とトルコへ救援を要請中だ。オーストリア連邦は一度断っているが、今回はどうするんだろうな。

 一方トルコはブルガリアの支援を表明しんだ。これで情勢が動くだろうな。

 

 他にはオーストリア連邦スロベニア州と東側で国境を接するセルビアモンテネグロは沈黙を保っている。一時、モンテネグロがオースリア連邦に加わりたいとラブコールを送っていてモンテネグロの分離に反対するセルビアとひと悶着あったんだけど、オーストリア連邦の緊張感が増したからモンテネグロは様子見に移ったんだろう。

 複雑だが一言で言うと、全く動きが無い。動いてきたところは今後詳しく紹介するぜ。

 

 ドイツが指定するポーランドの西プロイセン退去期限まであと少し。

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― 新着の感想 ―
[一言] 勝手に侵略してきておいて「大国の圧力には屈しない」とは……まさに歴史って感じがします。
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