149.外伝54.1964年 日本 高山市
――1964年 岐阜県 飛騨地方 高山市
日本国内の交通の便がよくなり、日本国内では休みの日に少し遠くまでと旅行に出かける人達が年々増えている。電車、飛行機、車と交通手段はいくつかあるが、国内の観光地として人気があるのは南洋諸島や沖縄、台湾といった南国の地域に集中していた。
冬になればスキー客が北の地域に集まるが、南国リゾートは冬でも人気で地方の都市は街おこしとして様々な施策を打っている。
岐阜県飛騨地方にある高山市も温泉やスキーと観光客を集めるため施策を打ってきたが、他地域に押されてイマイチ知名度をあげられないでいた。しかし思わぬことで世間の注目を浴び、高山市にはたくさんの人が訪れるようになっていたのだ。
話は変わるが日本で人気のあるスポーツといえば、1964年現在、一番はサッカー、次に野球、少し離れてモータースポーツ、格闘技となっている。サッカーと野球は同じ時期にプロ化され人気を博しており、長年同程度の人気があったが近年サッカーが野球の人気を凌いでいる。
サッカーは外国人選手枠が多く、逆に日本人選手枠が設けられているほど国際色が豊かなのが特徴になっている。そのままでは日本人選手が出場しなくなってしまうことから、三人の日本人出場枠を設けている。各チームは日本人を多くても五人くらいまで出場というのが常だった。外国人選手が多く活躍する日本サッカーリーグは海外でも人気で、チームの強さは1960年代に入ると世界最高水準のサッカーリーグの一つと言われるほどにまでなった。
日本で働くドイツやオーストリア人が増えてくるとサッカーの人気が高まって行き、一部の国でしかプレイされていない野球に差をつけたというわけだ。
さて、話を高山市に戻すと、高山市では地域振興策として1954年にプロサッカーチームを設立した。このサッカーチームは長らく二部リーグ下位でくすぶっていたが、五年前に監督が代わると斬新な方針を打ち出す。
その方針とは「全て日本人でチームを作る」といったものだった。これには日本サッカー協会も驚き、「オール日本人」のチームは世間で話題になる。
初年度は一勝しかできず三部リーグに落ちてしまうが、翌年三部リーグから二部リーグに昇格するとこのチームは躍進し始める。年々順位を上げていき、ついに昨年二部リーグ優勝を成し遂げてしまったのだ。
二部リーグとはいえ、日本人だけで構成されたチームが優勝するとは前代未聞で試合には多くの観客が押し掛けることになった。
そして今年、いよいよ一部リーグに昇格したこのチームは満員の観客の元開幕戦を行った。結果は引き分けだったが、スタジアムに集まったファンから大歓声を受けるまでになった彼らは高山市だけではなく、日本中から愛されるチームとなっていたのだ。
高山市に所属するこのチームのお陰で高山市には多くの観光客がつめかけ、試合の日ともなると泊るところがない程の人で一杯になった。
高山市の成功を見た他の地域は地域に根差したスポーツによって地方を盛り上げようという動きが高まり、サッカー人気に追いつこうと道を模索していた野球協会と結びつく。
そして、大都市圏にしかなかった野球チームのうち一つが北海道に移転。続いて九州にも一チームが移転する。
この動きは大成功を収める。今まで地方から都心部へ応援に来ていたファンが近くに野球チームが移転していたことで、地元ファンが増え結果的に野球人気そのものも高まったのだった。
ところ変わって叶健太郎邸。
叶健太郎は池田壱と最近のサッカーと野球の動きについてゆるーく議論を交わしていた。
「叶さん、サッカーも野球も余り興味ないんですか?」
「あ、うん。相撲が好きだな」
「相撲ですか! 僕も好きですよ。今場所で横綱誕生しますかねえ」
相撲界は横綱が怪我のため引退してしまい、現在横綱不在で開幕している。叶健太郎と池田壱は相撲話に花を咲かせるが、時計を見た叶健太郎がテレビの電源を入れる。
すると、画面には高山市のチームと東京のチームの対戦が始まろうとしていた。
――サッカーの試合が。
「叶さん、サッカーじゃないですかこれ」
「うん、サッカーだな」
「さっき興味ないって言ってたじゃないですか。本当は好きなんですね。僕は高山のチームを応援しているんですよ。日本人のみってカッコいいですよね」
「そうなの?」
「ええええ、東京のチームのファンなんですか?」
「いや、特には……」
「じゃあ、何で試合を見るんです?」
「あれだよ。ドイツのあいつがさ、サッカーの話ばっかしてくるからたまには見ておかないとと思ってな」
「ドイツ人もイタリア人もサッカー好きですものね」
「そうだよなー。代表クラスの選手が日本のチームにもいるってよ」
「そうですよ! 今や日本のプロサッカーは世界から注目を受けているんですよ。見ないなんてもったいないですよ。あ、試合が始まりますよ」
池田壱はテレビに向きなおり、すっかり観戦モードとなる。叶健太郎はそんな池田壱の横顔をチラリと見るとあくびをしてから、ズズズとお茶を飲む。
うーん、相撲の方がいいと思うんだけどなあ。叶健太郎は心の中で独白し、熱中する池田壱の姿を見ている方が面白いなと思う。
試合は高山のチームが一対ゼロで勝利し、池田壱は興奮した様子で叶健太郎へ語り掛ける。
「すごかったですね! 叶さん!」
「あ、うん」
叶健太郎は一喜一憂する池田壱を見ていて面白かったと言っていいものか悩みながら、再びお茶を口に含んだのだった。
じ、次回は火曜日朝になると思います!
ちょっとはやく投稿しちゃった。えへへ。




