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140.外伝45.1972年 ゲーム喫茶

――1972年 東京某所 叶健介

 1950年代末に登場したコンピューターは、メインフレームと呼ばれ大学の研究機関などに設置されていた特別な機械だった。それが家庭でも手軽に使える小型のコンピューター……マイクロコンピューター略してマイコンが普及し始める。

 マイコンの性能は日進月歩でいずれ会社の仕事の仕方そのものを変えると言われていた。1970年代に入るとそれは現実化し、大手企業を皮切りに事務作業がコンピューターで行われるようになってきた。

 コンピューターはオフィスだけでなく、「遊び」にも影響を見せ始める。1960年代に発売されたテニスゲームはテーブルタイプの基盤が発売されると、都心部の喫茶店を中心に広がりを見せ、1972年に地球を侵略しにやって来た宇宙人を倒すというコンセプトで発売されたシューティングゲームが発売されると爆発的なブームとなり、このシューティングゲームのテーブルが置かれた「ゲーム喫茶」が人気を博した。

 

 叶健太郎の二人の孫は兄が益男で弟が健介という。兄の益男は既に就職しており、弟の健介は大学三年生である。健介は兄の益男に誘われて「ゲーム喫茶」でこのシューティングゲームを一度やってみたところ、その魅力に取りつかれ、それ以来毎日ゲームをやりに大学近くの「ゲーム喫茶」に通っている。

 今日は大学の課題をやらないといけないから一度だけ……と思いつつお金を投入しゲームを始める健介だったが、彼はあまりゲームがうまくないためすぐに宇宙人に侵略されゲームオーバーになってしまう。

 悔しさから思わずさらにお金を投入しようとした時、後ろから誰かに肩を叩かれた。

 

「何でしょうか? うああ。先生!」


 叶健介は課題もせず、大学にも行かずゲーム喫茶で遊んでいたことを教師に見つかってしまったことでバツの悪い顔をするが、当の教師はニコニコしたままだ。

 

「健介くん。おもしろいゲームがあるんだが、君も遊ばないかい?」


 まさか、教師からゲームのお誘いを受けるとは……冷や汗が額から垂れる叶健介……

 

「み、美濃部先生、ここで遊んでいてあれなんですが、僕はそろそろ課題をやらないと……」


「なるほどなるほど。じゃあ大学図書館に行こうじゃないか。なあに一時間もあれば終わるさ」


「い、いくら他の先生の出した課題といっても、美濃部先生が手伝うのはまずくないですか?」


 美濃部教師の余りに協力的な態度に逆に引きつった笑みを浮かべる叶健介だが、美濃部は突然真剣な顔になって彼に問いかける。

 

「健介くん、課題をやるにあたって無駄な時間を私が手伝おうと言っているだけだよ。書くのは君だから問題ない」


「……と言いますと?」


「いいかい。健介くん。課題をやるにあたって一番時間がかかることは何か分かるかい?」


「ええと、考える時間でしょうか……」


「それは君次第だな。課題で調べたいことがあったとする。そのために図書館で調べながら課題をこなすわけだ」


「そうですね」


 何を当たり前のことを言ってるんだと内心思いつつ、叶健介は美濃部に相槌をうつ。

 

「課題をこなす時、本を捜す時間が大きな占める。捜すのが早い者は課題をこなすのも早いんだよ」


「た、確かに。タイトルを見て、目次を読んで……これじゃないあれじゃないって時間がかかりますね」


「課題で調べるだろう本と該当箇所を私が君に伝える。これなら課題もすぐ終わるだろう? 私は君に一切課題内容について教えていないから問題ないだろう?」


「……ま、間違ってないと思いますが……美濃部先生は本を捜すのも課題の内とか言わないんですね……」


 あ、素直に美濃部教師の提案を受けておけば良かったと叶健介は後悔する。彼の言葉を聞いた美濃部は嬉々として持論を語り始めてしまった。

 

「君の祖父が登場する池田壱先生の大作『二十一世紀の東京二十四区』を読んだかい? あれは荒唐無稽な部分もあるが、『必要な情報をコンピューターが運んでくる』という部分は近く実現されると思うんだ」


 美濃部はコンピューターが近い将来もっと身近になり、今と違って欲しい情報はコンピューターに聞くことですぐ手に入るようになると熱く語る。

 

「はあ……」


「そうだな、あと十五年もすれば私の言っていたことが理解できるようになる。その頃の学生は情報を引き出すことに時間を取られず、考えることや判断することに頭を捻るだろう」


「なるほど……」


「ということで、健介くん。私が君に本を持って来ることは全く問題ないんだよ」


 叶健介は美濃部の言う事が余り理解出来ていなかったが、せっかく手伝ってくれるというのだ。美濃部の気が変わらないうちに課題をやってしまおうと思い立ち上がる。

 


――二時間後

 課題を終えた叶健介は美濃部に礼を言うと、彼はさっそくゲームのことを叶健介に説明し始める。

 

「健介くん、サイコロを使って会話形式で進めるゲームを知っているかい?」


「いえ……でも何だか自由度が高そうで面白そうですね」


「そうだろう、そうだろう。ゲームを進行する役目の者が一人と、プレイヤーが今回は四人でやろうと思う。モンスターを倒したり、ミニスカートのお姫様を助けたり……と言った感じだな」


「相変わらずミニスカートとかメイド服とか好きですね……」


「二足歩行ロボも大好きだ。今後十年以内にどれか大ブームになるぞ」


「はあ……」


 美濃部は意気揚々と歩きだし、叶健介もそれに続く……こんなんが教師で大丈夫かよと叶健介は思うが、美濃部は何気に人気の教師なのだった。工学部の教師だが、おそらく来年には助教授になり専門はなんと「ロボット」なのだ。

 産業ロボットの研究開発を行うとしているが、この人ならきっと……二足歩行ロボを本気で開発しそうだよ。それも人が乗りこめるロボットを……叶健介は美濃部の後ろ姿を見ながら、尊敬していいのかそうでないのか微妙な気分になりため息をついた。

 

 その後、美濃部が集めたメンバーで会話形式のゲームをやったところ、思った以上に叶健介は楽しめたのだった。

 こういうのをコンピューターゲームで実現できれば面白そうだ……と叶健介はひそかな野望ができたという。この時以来、叶健介はコンピュータープログラムの勉強を熱心に行い始めた。

 

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