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137.外伝42.1981年 国際空想科学会議

――1981年 東京 某所

 学術会議と銘打っているが最も自由な発想と発言が許される会議として、いつの間にやら毎年開催されることになった国際会議……その名も「国際空想科学会議」。空想科学という名前ではあるが、物理化学などあらゆる知識を使って実現を検討する会議なのである。

 この会議は学者だけではなく、著名なSF作家も参加し議論を交わす会議となっており、いつの間にか最も人気のある会議となってしまう。

 なんと会議の様子が各国のテレビで放送されるくらいなのだからすさまじい。今回のテーマは「二足歩行ロボットについて」である。

 

 会議には物理学、科学、コンピュータの専門家、発明家、SF作家など著名人が多く集まっており、今年の議長はアメリカのリチャードで副議長は同国籍のダグラスだった。

 リチャードは量子電子力学の権威として知られ、有名なファインマン・ダイアグラムを発表。また先進的なコンピュータの提案をしたことでも知られる。彼はユーモアが大好きな人物として知られ、自著にそういった本もあるほどだ。

 彼自身、空想科学会議は大好きと公言しており、真面目に馬鹿なことを考察するのが良いと語っている。

 

 もう一方の副議長ダグラスは発明家を自称しているが、コンピュータとネットワークの技術開発に貢献したことで知られる。日本と開発競争が著しい様々なコンピュータのインターフェースを考案したことでも知られ、いくつかの発明は日本よりわずかではあるが先んじて世に出した。

 日本ではコンピューターのマウスを考案した人と言えば割に有名である。

 

 議事進行役の日本の学者が巨大なテレビモニターに人間そっくりのロボットを映し出す。映し出されたロボットは何故か十五歳くらいの金髪をツインテールにした少女で、左右の目の色が青色と赤色をしていて、黒を基調としたメイド服を着ていた。

 そして、スカートの丈が異常に短くて今にも下着が見えそうなくらいだった。

 

「皆さん、画面に映りますのは人間とそっくりの美少女型ロボットですが、日本ではこのような人間そっくりのロボットはアンドロイドと呼称しています」


 議事進行役の日本の学者へ、即座に副議長ダグラスから突っ込みが入る。

 

「ええと……美濃部(みのべ)さん、なぜ少女である必要があるんですか? 人型で問題無く動けばいいのでは?」


「副議長! 少女ではありません。『美』少女です。そこのところをお間違えなく」


 日本の学者……美濃部の余りの剣幕にダグラスは彼にもやむやまれぬ事情があるのだろうと、これ以上この件を言及するのはやめようと思うのだった。

 ダグラスの思いもよそに、イギリスの女性学者がアンドロイドの服装にトゲのある口調で追及をする。

 

「ミスター美濃部。そのアンドロイドのスカートをそこまで短くする必要はあるのですか?」


「メイド服のスカートが長くてどうするんですか! 短くないとダメなんです!」


 美濃部の熱弁に、「こ、これはダメだ」と日本人以外の学者の心が一つになる。

 

「『美」少女アンドロイドの記憶領域を実現するためには、量子コンピューター並の処理能力が必要になるでしょうな」


 量子コンピューター理論について考察していた議長のリチャードは冷静に検討を始める。

 各々の学者たちは熱く語り合い、一時間ほどお互いに熱弁を振るうとアンドロイドの議題は終了となる。空想科学会議では検討をするだけで、結論は出さない。

 科学の力でどうすれば実現できるかという意見をお互いに好き勝手出す会議だからだ。

 

 議事進行役の日本の学者――美濃部が次に出して来たのは人間が中に乗り込める大型の二足歩行のロボットだった。胸の部分に乗り込むようになっているが、何故か顔に当たる部分や手まであり、人型になっている。

 そのロボットは、手に光り輝く刀のような武器まで持っていた。


「次は戦闘用の人型ロボットです。このロボットはおよそ身長が十五メートルほどあります」


 美濃部が質問を受け付けるやすぐに副議長ダグラスが質問を行う。

 

「美濃部さん、そのロボットは宇宙空間で使用するものなのでしょうか?」


「はい。宇宙でも戦える設定です」


「ええと、宇宙空間でその形に意味を感じないのですが……地球上であっても空力的にちょっと……」


「副議長! この形でないとダメなんです! この形にロマンがあるんです!」


 美濃部の絶叫するような声色での返答にダグラスはこれは突っ込むべきではないと、これ以上の質問を行うことを控える。

 そんなダグラスの思いもよそに、イギリスの女性学者からまたしても要らぬ突っ込みが入る。

 

「ミスター美濃部。宇宙空間で戦えるような兵器が何故剣など持っているんでしょうか? ビームでいいのでは?」


「剣ではなく刀です。ビームカタナなんです!」


 もはや答えになっていない美濃部の回答に会場にいる日本人以外の学者は全て一瞬固まってしまったが、彼の発言はなかったものとして大型の二足歩行ロボットについて議論を始めるのだった。

 

 会議終了後、ダグラスとリチャードの二人は東京某所のすし屋で酒を飲み交わしていた。

 

「いやあ、美濃部さんはたまにえらく熱くなるので困ったものですね」


 ダグラスはおしぼりで顔を拭きながらリチャードを見やると、彼は大笑いしながらダグラスに言葉を返す。

 

「いやいや、美濃部さんのあの発想は面白い。ユーモア溢れているよ」


「そうですかねえ……」


「ダグラスさん、考えてみなよ。最近の世の中はなんでも効率効率じゃないか。このまま効率だけが進んで行ったら『遊び』が世の中から無くなってしまうと思わないかな?」


「なるほど。リチャードさんは懐が広いですな。では私も次回はスーパーヒーローでも提案しますかね」


「ダグラスさん、それは面白い。アメリカンヒーローを紹介しましょうよ」


「ははは。いいですね!」


 二人は次回の会議開催に思いを馳せると、驚く美濃部の姿を想像しお互いに声をあげて笑い合った。

 しかし、美濃部の発想は彼らのさらに上を行っていたことを知るのは来年のお話……

 

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