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128.外伝33.1951年晩秋 ギアナと難民

――1951年晩秋 東京某所 叶健太郎

 秋も深まり東京も肌寒い気温になってくる。叶健太郎は苦手な夏が過ぎすごしやすい気候になってきたので、外出することも増えて来た。彼の夏の過ごし方は、自宅でだれてるかビーチで「けしからん」と呟くかのどちらかがほとんどを占める。

 すごしやすい季節になると、取材に出かけたり、日帰り旅行をしたり……公園でボーっとしたりと外出が多くなる。

 

 遠野におススメ食べ歩きスポットがあると聞いた叶健太郎は東京某所へ出かけるが、彼にしては珍しく困惑していた。食べ歩きスポットは商店街のようになっており、通りには未成年と思われる若い男女が多く、それにまじって小さい子供を連れた若い母親がポツポツと。この通りにスーツ姿や叶健太郎のような年寄りはほとんど見かけることはなかった。

 あいつ(遠野)、俺の年齢を分かってんのか……叶健太郎は心の中で独白しため息をつくが、遠野のことだから仕方ないと自身を納得させる。

 

 通りにはファンシーな雑貨屋や少女向けの服屋やアイドルのアンテナショップなどが並んでいて、確かに若い者が集まるのことを叶健太郎は理解する。しかし、クレープ、アイスクリーム、あんみつ、ケーキ……と食べ物の店が多い。

 それも、甘いデザートばかりじゃねえか! 叶健太郎は少しだけ商店街を歩いた後、すぐに踵を返し焼き鳥をつつきながら日本酒でもやるかと駅へと向かう。

 

 帰路の途中、大きな看板が出た店が目に付き、思わず看板に目をやる叶健太郎。

 

――巨大パフェを一人で完食した方は食事代無料! 制限時間三十分


 看板の内容を読むだけで、胸がいっぱいになった叶健太郎はため息をつき店の前を通り過ぎる。

 ちょうどその時、店から出て来た人とぶつかりそうになり、お互いに慌てて立ち止まる。

 

「すいません……ってああ。叶さん!」


 どこかで聞いたことある声だと思い、叶健太郎はぶつかりそうになった相手を見ると……タイトスカートを履いたスーツ姿の遠野だった。

 食べるのは、まあ……遠野のことだからあの看板の奴だろうな……それはいい、それはいいが遠野。何故、スーツなんだ? 叶健太郎はわざわざスーツでこの店に来たことが気になって仕方なかった。

 聞いてはいないが、巨大パフェを食べたことは確実だろう。あんなものを食べきれることにはもはや突っ込む気はない叶健太郎なのである。

 

「遠野、巨大パフェを食べてたのか?」


「え? ええ。巨大って書いてましたけど、普通でしたよ」


 パフェを完食したあとということもあり、ご機嫌な様子で遠野は応える。

 

「そ、そうか……スーツなんだな……」


「え? 何か言いましたか? 叶さん、ここでお会いしたのも何かの縁。おいしいみたらし団子を出すお店があるんですよ。行きませんか?」


 まだ食べるのかよ! 叶健太郎は突っ込まない、突っ込まないぞと自身に言い聞かせる。スーツ姿でこんなところをほっつき歩き一人で遊ぶくらいなら見合いでもしろよ……と思い浮かんだが、これを言ってはダメだと叶健太郎は少し背筋が寒くなった。

 


――磯銀新聞

 どうも! 日本、いや世界で一番軽いノリの磯銀新聞だぜ! 久しぶりだな! 今回はエッセイストの叶健太郎が執筆するぜ! オランダ領東インドが崩壊してからしばらく経つが、オランダは東インドで失敗したことを顧みてイギリスとフランスに声をかけたんだ。

 何をって? それは南米の植民地についてなんだ。南米の北東部沿岸にギアナと呼ばれる赤道直下の地域があるんだが、ここにオランダ、イギリス、フランスが植民地を持っているんだ。

 1948年夏にオランダが英仏に声をかけて協議が始まったんが、協議の内容は英蘭仏が持つギニア植民地を統合し、独立国として自立させようという内容だった。

 南米はこの地域以外に植民地が無かったから、植民地独立の政策は進んでいなかったんだぜ。植民地はそれほど広い地域ではないし、それぞれの植民地は本国への経済的依存が大きかったからな。現地の不満もそこまで高まらなかったんだろう。

 しかし、西アフリカで模索されている脱植民地政策が順調に進んでいることもあり、いずれは脱植民地の動きがギアナでも広まっていくことを予想し、先手を打たないかってことだな。

 

 ギアナは鉱物資源が豊富だけど、ブラジルやベネズエラなどの隣国はきな臭いし、各植民地単独では予算規模も低く独立した場合お互いに争いだす可能性もある。まあ、アフリカで懸念していたことに近い感じだな。

 そこで、西アフリカと同じように教育、インフラ、農業を中心とした経済育成を行ってから独立させようというわけだ。独立準備期間は十五年間。

 

 オランダの提案に英仏の反応は悪く無かったが、西アフリカでノウハウを持つ日本をオブザーバーとして迎え入れることを提案する。馴染みのなかった南米地域に突然関わることを提議された日本は最初戸惑っていたが、「南米進出のとっかかりになる」と日本国内の意見がまとまりオブザーバーとして参加することが決まる。

 1950年春から本格的に独立準備が開始され、一年半くらい経つがこれまでのところ思った以上に順調に進んでいる。原因はギアナ地域のインフラや教育機関が西アフリカより高いレベルにあったからだろうと言われている。

 順調に進んでいたが、ギアナ地域は二つの問題を抱えているんだよ。一つは西の隣国ベネズエラとの領土問題。もう一つはベネズエラとブラジルから流れて来る難民問題だ。

 

 領土問題から見て行こうか。ベネズエラはイギリス領ガイアナ(ギアナ)に走るエキセボ川より西側を自国領だと主張し始めた。この地域はイギリス領ガイアナのおよそ七割に当たる地域で、イギリスはベネズエラと協議をするまでもなく領土要求を突っぱねる。

 ギアナの独立が決まってからベネズエラは領土主張をし始めたから、独立国家ギアナになればイギリス植民地より御しやすいと思ったのだろうか。

 事実は逆で植民地の独立が決まってから主張するのは悪手だった。ベネズエラの領土主張に仏蘭も反発したからだ。仏蘭の動きを受けてイギリスも動き、英仏欄三か国はベネズエラに「領土主張を今後も行うのならば、戦争も辞さない」と強い態度で抗議を行う。

 

 三か国から抗議を受けたベネズエラは領土主張を撤回せざるを得ないだろうな。領土問題は来年までには解決するというのが大方の見解だ。

 

 もう一つの問題である難民問題だけど、こっちは継続的に注視していく必要がある。ギアナが英仏蘭三か国の支援を受けて一つにまとまり、独立準備が平和裏に行われている様子に期待感を持ったベネズエラとブラジルの貧困層の一部がギアナ国境へ押し寄せる。

 ギアナ地域は赤道直下の国らしく国境は熱帯雨林で覆われており、沿岸部に人口が集中している。国境沿いは監視が難しく、難民がなだれ込む結果となってしまった。今は数が少ないので、ブラジルやベネズエラに送還しているが、今後は難民受け入れも検討していく必要が出て来るだろう。

 といっても、ギアナ地域の経済が発展し人手不足になればの話だけどな!

これは……結婚できないぞお。

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