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127.外伝32.池田壱著「二十一世紀の東京二十四区」 1963年発売

――1963年 東京 某雑誌

 「文豪」池田壱が描くSF中編「二十一世紀の東京二十四区」は偉大なSF作家ヴェルヌのオマージュ作品になる。ヴェルヌが「二十世紀のパリ」を著したのは1863年で、池田壱はその名も「二十一世紀」とヴェルヌの作品をちょうど一世紀後ろ倒しにした未来都市東京二十四区を描く。

 舞台は2050年頃の東京「二十四区」になるが、みなさんもご存知のとおり1963年現在、東京は二十三区までしか存在しない。池田壱の描く東京二十四区の舞台はなんと宇宙コロニーだ。

 独創的な発想は賛否両論を持って受け入れられたが、売上部数が1963年のトップセールスを記録することは確実視されている。SF作品とはいえ、池田壱は二十四区の生活を軽快なテンポで描き子供でも読める内容となっている。

 池田壱は子供にこそ読んで欲しいとインタビューで語る。百万部のベストセラー作品、池田一著「二十一世紀の東京二十四区」をぜひご賞味あれ。――雑誌紹介記事より

 

――「二十一世紀の東京二十四区」序盤

 2040年シリンダー型の宇宙コロニーの市民受け入れが開始する。この宇宙コロニーは東京の二十四番目の区……神楽(かぐら)区として数万人が居住可能と発表された。

 神楽区の受け入れ開始の募集が発表されると即日満席となり、応募に漏れた市民から不満の声が多数あがることになった。幸いにも神楽区に居住することができた市民たちは、神楽区で様々な職につき神楽区の区長も誕生する。

 神楽区が始まって十年……小学生の時に神楽区が出来て以来、神楽区に住むことを夢見ていた青年――叶健太郎は難関の神楽大学に合格し神楽区の下宿先へ向かうため神奈川県某所の自宅から出発しようとしている。

 

 2060年までは追加の市民募集を行わない予定の神楽区であるが、大学生だけは例外で神楽大学に在学中は神楽区に住むことが出来る。そのため、神楽大学は創設以来超難関大学として君臨し、合格できた一握りの学生は憧れの神楽区で大学生活を送っている。

 叶健太郎もその中の一人となり、彼は自宅を出発し羽田空港から軌道エレベーターのある南洋諸島に向かう。彼は軌道エレベーターに乗るのが初めてだったので、ワクワクしながら軌道エレベーターに乗り込むが、外の景色はすぐに空だけとなり何も見えなくなって少し残念な気分になる。

 しかし、軌道エレベーターが宇宙空間まで上昇すると彼のテンションは一気に臨界点を越えるほど上昇する。思わず歓声をあげそうになった叶健太郎だったが、他の乗客が静かにシートベルトを締めた座席に座っていたのが目に入ると急いで自身の口をふさぐ。

 

 軌道エレベーターが停止すると接続された宇宙船へそのまま移動し、宇宙船は神楽区に向かう。あっという間の旅行だったが、宇宙空間を経由して神楽区にまで来たと思えないほどの手軽さを叶健太郎は感じる。

 彼の生まれる前だと、一般人が手軽に宇宙空間に出る事なんて夢のまた夢だったと聞いている。それがどうだ。軌道エレベーターに乗り込んでから神楽区まで宇宙服を着ることなく到着してしまう。同じ日本国内とはいえ、宇宙空間でのテロ行為へ警戒をする必要があるため手荷物検査が厳重になされたが、パスポートさえ必要なく旅費だけでここまで来れてしまった。

 神楽区へ観光目的で来ることもできるが、観光客の数は制限されておりなかなか予約を取ることができない。しかし、叶健太郎は神楽大学の学生なので予約の必要がないのだ。

 

 宇宙船が神楽区のある宇宙コロニーに接続されると、叶健太郎は無重力状態から地球と同じ重力に捉われる。神楽区では宇宙コロニーを回転させることによって人工的に地球と同じ重力を発生させている。

 そのため、神楽区の住民は重力による健康被害を気にすることなく生活することが可能になっているのだった。

 

 宇宙港の出口から神楽区へ初めて足を踏み入れた叶健太郎はそこで立ち止まり、神楽区の風景に目を奪われる。宇宙港は高台の上にあり、神楽区の風景が見渡すことができた。

 これは、神楽区の街計画が発表された際に、神楽区へ降り立つ人へ神楽区の風景を見てもらおうという配慮から、宇宙港は高台の上となったと彼は自身の読んだ観光ガイドに記載されていたことを思い出していた。

 なるほど。確かに嬉しい配慮だと彼は思う。

 

 一見したところ、神楽区は東京湾に浮かぶメガフロートと似通っている。メガフロートと神楽区は共に何もない場所につくられた街という点で同じだからだろう。

 中央に公園があり、彼から見て西側に学校施設や図書館などの区画、東側にショッピングセンター。それを取り囲むように住宅街が並ぶ。しかし、メガロフロートや他の都市と明らかに違う点が彼にも一目で見て取れた。

 それは道路だ。神楽区では車が走っていない。住民は自転車か電動スケーターに乗って移動する。もちろん徒歩の人もいるが……そのため、道路幅が片側一車線分ほどの幅しか設けられていない。

 その分、他の施設に多くのスペースが取れるというわけだ。天井に当たる部分にはLEDパネルが張り巡らされ神楽区を照らしている。

 

 叶健太郎が神楽区を見た第一印象は「緑が多い」ということだった。宇宙コロニーの街区画以外の場所にも植物が育てられているらしく、清浄な空気の多くを植物が支えている。

 彼は周囲をゆっくりと見渡しながら、自身の下宿先へと歩いていく。

 

 下宿先の自身の部屋の前まで来た時、彼の隣の家に住む住人がちょうど扉を開ける。彼はこれから隣人となる人なのだと、開かれた扉の方に向きなおり出て来た人に挨拶をする。

 

「はじめまして。今日から引っ越ししてきました叶です」


 隣人は彼と同じくらいの歳に見える女性で、キリリとした切れ長の目を持つ素晴らしいプロポーションをした美女だった。しかし、叶健太郎は直感的にこの人は見た目に反してきっとダメな人だと感じ取る。

 

「はじめまして。遠野です。私も先週引っ越ししてきたばかりなんですよ! あなたもこれから大学生ですか?」


 美女は笑顔で叶健太郎に挨拶を返す。美女の笑顔だというのに何故か心がときめかない自身に少し不思議に思うも、彼も笑顔で頭を下げる。


 

――1963年 東京某所 叶健太郎宅

 叶健太郎は池田壱が持ってきた「二十一世紀の東京二十四区」を読み終えると、少し気まずそうな顔になる。池田壱は叶健太郎の表情を見て少し不安にかられるが、彼に感想を求める。

 

「どうですか? 叶さん」


「俺の名前はいいんだが、遠野は良く了承したなこれ……」


「使ってもいいと快諾してくれましたよ!」


「そ、そうか、彼女は読んだのか? これ?」


「た、たぶん……」


 池田壱は表情が固まり、叶健太郎はため息をつく。いや、物語がここで終わってるならいいんだが……この先がまずい。

 

 『遠野の家に入った叶は彼女とラブロマンスがはじまるどころか、部屋の冷蔵庫を開けた遠野の後ろから冷蔵庫を眺めひっくり返る。

 冷蔵庫の中には甘いお菓子がこれでもかと詰まっている。そして、クローゼットの半分をチョコレート系のスナック菓子が占拠していた』

 

 この辺はやばいだろ……まあいい。怒られるのは俺じゃないしな……叶健太郎は池田壱の肩をポンと叩き、肩を竦めるのだった。

ちょっとSFしちゃいました。

作中の二人にラブロマンスはありません。

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