表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Blood ROSE -櫻薬編-  作者: 鈴毬
la nuit 12 dessertは甘く紅く
48/56

審判

【12 dessertは甘く紅く】




 今宵は10月の最終日。集会所には多くの吸血鬼たちが集っている。

 漆黒のマントを身にまとっているのはBlood ROSEの団員たち。そして一般の吸血鬼は各々葬祭用の装いで集会所に集っていた。

 椅子の取り払われた無機質な空間は、吸血鬼たちが押し寄せていて祭りの日のような騒がしさがある。


「例の連続殺害事件の最終審判だそうだ」

「かの有名な貴族ミッド家のご長男だろう? どんな罪になりどんな罰を受けるのか……」


 吸血鬼たちの囁きが室内を覆う。

 あの事件から2つの季節が終わりを告げようとしている今日、皮肉にも吸血鬼感謝祭の日にキャンディ・ハロウィーン・ミッドの最終審判が始まろうとしていた。

 最前列にはBlood ROSEの副団長、ロイ・ルヴィーダン、ダレス・サヴァランをはじめ幹部たちが、その後ろにはキャンディの親族が椅子に着席している。

 その後列からは数多の吸血鬼たちがこの審判の始まりを待っていた。

幹部であるカユが自分の懐中時計を見ると、ゆっくりと立ち上がり観衆たちが取り囲む中央のドアを開けた。


 そこから登場したのはBlood ROSE団長のルーザで、後ろからはウィリアム・ルヴィーダン、ダニエル・ルヴィーダン、そしてダニエルに抱えられるようにして足が動かないリリィ・マクファーソンが登場した。

彼らの身に着ける純白のマントは、黒の中で一際目立ち輝いてさえも見える。そして三人は中央にある椅子に座ると静かに目を閉じた。

次に立ち上がったのはダレス・サヴァランで自慢の紫髪を束ねると、観衆をかき分け道を作る。後ろの部屋……地下牢に入り、今回の被告人であるキャンディ・ハロウィーン・ミッドを連れ出した。

 だが、誰もがはたしてそれがキャンディ・ハロウィーン・ミッドなのか分からなかった。

 ソレは大きな白い布に覆われ、拘束着の様にベルトで巻かれている。中では眠っているのだろう、キャンディはピクリとも動かなかった。

 その布に包まれたキャンディを中央に設置された台座に置くと、ダレスは白いマントたちに向かって頭を下げる。


 この間、観衆は静まり返っていた。誰一人、声どころか咳払いさえもせず、動くものを目で追うだけだった。

 その中でまだ前方の扉に立っていたルーザの声だけが響く。


「アンドリュー様、お時間です」


 またゆっくり扉が開いた。そこから出てきたのはG.B.R、最終審判者アンドリュー・アーヴァンだった。

 彼はゆっくり歩き一番奥の高座に就くと、前列三人にならい目を閉じる。

 その横に団長、ルーザ・バラックが着くと審判開始の合図だった。

 最終審判は幾度となく行われた審判の集大成で、多くの観衆の中、真実を告げ公平に審判されるためにある。観衆は自由に誰でも出席することが出来、毎回たくさんの人々が集うのだ。

 静まる中、最初に言葉を発したのは、ロイの長兄であるウィリアムだった。


「ロイ・ルヴィーダン」


 ウィリアムの優しい声がどこか冷たく響く。


「キャンディ・ハロウィーン・ミッドは連続殺害事件に関与していた。間違いありませんね?」

「はい、血濡れた薔薇に誓います」


 ロイはマントにある薔薇のブローチを右手で抑えた。審判の序盤は四柱たちが幹部に質問をする形式で行われる。

 歴史関係を纏めていたロイは時系列並びに現場で起こったことを聞かれていく。

 ウィリアムの隣では今までの審判の結果をまとめた書を手にするダニエルの姿があった。


「カユ・アルバ・ブランカフォルト。あなたはキャンディを捕えるときに怪我をさせなかった。間違いありませんね?」


 続いてダニエルがカユに尋ねる。


「はい、血濡れた薔薇に誓います」


 カユへは現場や独房内での細かい様子まで少しずつ質問をしていく。

 いくつかの質問が飛び交ったあと、リリィが静かに目を開けた。


「ダレス・サヴァラン、富岡タエについて以下のことで間違いはありませんか?」


 リリィはタエの生い立ち、研究内容、犯行動機、そして犯行手順を話した。そして目を瞑るとダレスが口を開く。


「犯行動機、手順については間違いありません。血濡れた薔薇に誓います。しかし、永京の書を読んだのは自分ではありませんので同じ幹部のケイに確認をお願いします」

「いいでしょう、ケイ。富岡タエについて間違いはありましたか?」

「いえ、間違いはありません。血濡れた薔薇に誓います」


 その後もいくつか質問を続け、リリィの質問を最後に四柱全員が瞳を閉じた。


「ルーザ・バラック。櫻薬の被害者は被告人キャンディ・ハロウィーン・ミッドを含め30人。間違いはありませんか?」

「はい、血濡れた薔薇に誓って」


 ここまでで2時間位は立っているだろうか。それでも周りは静まり返ったままだ。

 ルーザの一言の後は耳が痛いくらいの沈黙が集会所を襲う。

 誰もが次に声を発するだろう高座に視線を向けていた。

 その視界の白がゆらりと動くと皆が息を飲んだ。


「審判を下そう」


 生きし伝説――……

 ずっと口を噤んだままだったアンドリューが立ち上がった。

 瞳を開け布に包まれたキャンディを見ると静かに告げる。


「直接犯行に関わらなかったとはいえ、被告人が原因で失った命もあるだろう。そして自らの仕事を疎かにし、人間に吸血鬼の生態を晒し数多くの同胞を命の危険にさらした。これは我々への反逆と取れる。よって、罪状を反逆罪。銀杭の刑に処す」


 周りが少しだけどよめいた。反逆罪は吸血鬼界では最も重い罪の一つだ。


「我友、ウィリアム・ルヴィーダン、ダニエル・ルヴィーダン、リリィ・マクファーソン。異論はあるか?」


 アンドリューはそのまま下に視線を落とす。

 ウィリアムは目を瞑ったままこう答えた。


「栄光ある青薔薇に誓い、異論はありません」


 同じくダニエルとリリィも続く。


「刑執行人は被告人の相棒であるロイ・ルヴィーダン。指揮はルーザ・バラックが行うように。以上だ」


 そうアンドリューが言い終わるとリリィが大きく一回手を叩く。すると青い炎が四柱を包み、姿を消す様に燃えていった。

 あっという間に4人は炎に消え、燃えた後の匂いだけが残る。

 こうして連続吸血鬼殺害事件の最終審判は終わったのだった。

dessert=デセール、デザート


次話は9月14日更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ