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Blood ROSE -櫻薬編-  作者: 鈴毬
la nuit 03 新月にはtarteletteを並べて
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追億


――ガシャン


 換気口から一匹のこうもりが入ってきた。ひらりひらりと宙を舞いながらこちらに飛行してくる。よく見ると脚には丸められた羊皮紙が括り付けられていた。

 このこうもりは吸血鬼間でよく使われる連絡手段だ。いわば伝書鳩のようなものだろう。脚のタグを見ると、ロイの実家、ルヴィーダン家のものだった。

 こうもりは伸ばされたロイの腕にぶら下がった。脚の括りを取ってやると こうもりは元来た排気口へ飛んで行った。

 封を切ると丁寧な文字で羊皮紙に綴られていた。


――前略 図書館の整理を行う日取りが決まったことを知らせる。至急ルヴィーダン家に戻られよ。  W&D・ルヴィーダンより


 ロイの歴史館は数年に一度、ひと月程閉めて館内を一斉に整理する。数えきれないほどの書物を整理し、必要であれば本の随筆もしなくてはならないのだ。

 遂にこの時期が来たのか、と少し憂鬱になりながらため息をこぼした。


「すみません。実家から急用で。すぐ行かねばならなくなりました」


 羊皮紙を畳み、ポケットに入れる。


「行くといい。こちらも決まったことは後で報告しよう」


 ルーザが淡々といい瞳を閉じた。きっと呆れているんだろう。

 ダレスは挨拶代わりにグラスを傾け、カユとケイはどこか安心したような顔をした。

 キャンディはまだ何か言いたそうにしていたが、いってらっしゃいと小さく言った。


「すいません。それでは失礼します。キャンディ、数日で帰りますので後はお願いしますね」


 急いで荷物を持ち一番近い金色の扉から退出した。


(私らしくありませんね)


 足早に道を進みながら、先程声を荒げてしまったことを後悔した。


(キャンディも、私もどうかしています)


 これも栄養不足からなのだろうか。頭がふわりとして物事の判断が鈍ってきている。

 じめじめした通路を通ると行き止まりの梯子を登る。

 金の扉から通じていたのは路地裏のマンホールだった。

 ここからルヴィーダン家まではかなりの道のりだ。

 ロイが人間を毛嫌いしているのには理由があった。彼の兄達、ウィリアムとダニエルが辛い思いをしたからだ。


 兄二人は先代のBlood ROSEの団長、副団長だった。


 明るく、物腰の柔らかいウィリアム。賢く、真面目なダニエル。

 大きな団体をまとめる聡明な兄たちをとても誇りに思っていたが、血液を提供いていた人間に吸血鬼の財産を奪われ、兄たちは代替えを宣言。事実上、失脚したのだ。

 一時期はルヴィーダン家に対する評判もひどいものとなった。今では兄たちは吸血鬼最高機関であるG.B.R(青薔薇に栄光あれ)(Glory be to BlueROSE)に所属し、過去の栄光を取り戻しつつあるが、当時は尊敬する兄たちの功績を(おとし)めた人間を恨んだ。その人間は捕えられることなく人生の幕を閉じたという。


 歩きながらこれからのこと、キャンディのこと、飢えのことを考えた。しかし、どれも答えが出ることはなかった。

 新月の晩にこんなにも光がないのが空しくなるとは思わなかった。空虚な心を紛らわせるためにロイは何度もシルクハットを被りなおした。


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