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Blood ROSE -櫻薬編-  作者: 鈴毬
la nuit 03 新月にはtarteletteを並べて
14/56

再見

 本題に入る前にジャックが熱い紅茶を入れた。今日はダージリンのストレートで、少し濃いめに入れてある。

 一息着くとルーザは資料、そしてメモを取り出し話を進める。


「さっそく資料を見てくれ。昨日発見された新たな被害者だ」


 次のページをめくるとそのページには見覚えのある顔が載っている。

 ブロンドの癖のある髪、鼻のそばかす、身長6フィート、2.8インチ。

 名前はブレット・ベーカー……前回の集会で騒ぎの火種になった男だ。


「これって……集会の時の」


 キャンディの声が驚愕で上擦った。


「見つけたのは、俺なんだ」


 カユがうつむいて手をあげた。


「どういう状況なのだ?」


 ケイがキャンディに尋ねると以前の集会であった騒動の流れを話した。その後、カユが経緯を説明した。


 カユは元々ブレットと面識があったのだ。

 彼は温和で絶対的存在のルーザに意見するような度胸があるはずがないという。集会のいつもと違うブレッドに違和感をおぼえたカユが書類整理の合間を見計らってブレットの元を訪ねた。

 住み家の呼び鈴を押しても音ひとつないので窓を割り侵入すると、首から血を流した状態で倒れていたという。隣の部屋には同じ状態でブレットの相棒も無残な状態で発見されたようだ。

 話しながらカユは悔しそうに顔を歪ませた。目には涙を溜めていた。声はだんだん掠れ震えていく。


「俺がもっと早く足を運んでいれば……」

「奴らが死んだのはお前のせいではないであろう、憎まれるのは犯人であるべきだ」


 ケイは肩にそっと手を置いく。

 カユは目を擦ると拳に力を入れ背筋を一度伸ばした。


「俺は殺人現場を見て思ったんだ。そして考えた。もし、吸血鬼が犯人だとしたら、犯行理由はルーザに意見をしたからか、もしくは……吸血鬼を全滅させたいからだ」

「なんですって?」


 ロイの瞳はカユを捕えた。


「あくまで俺の考えだけれど、ルーザを狂信する団員っていうのは何人かいる。Blood ROSEそのものに愛がある者も多い。その絶対的な頂点に意見したんだ。憎む者だっている」


 カユは真剣だ。懸命に自分を整理しながら話しているのがわかる。


「だけどこの可能性は薄い。今までの被害者が全員ルーザに意見した者たちではないだろう。もう一つの説は何らかのキッカケで吸血鬼が嫌になった者が殺している。ブレットが集会所で言ったこと覚えてるよな?」


 皆忘れるはずなどなかった。ブレットは吸血鬼が自由に吸血行為を行えるようにと談判したのだ。

 吸血行為は吸血鬼にとっては延命の手段だ。もし弱っていく吸血鬼を待っている者にとっては延命のための行為を促すブレットは邪魔な存在だろう。


「なるほど、つまり吸血鬼滅亡を企む吸血鬼がいるのだと言うのですね」

「俺が言ってるのはあくまで、というか犯人が吸血鬼だったらって話さ。動機の可能性を上げてみただけだよ」


 カユは半ば否定するように手を振った。


「とりあえず、ダレスとケイには死亡した団員の血液サンプリングの解析をやってもらう。しばらくはここシュツメンヒに留まれ」


 ルーザはダレスたちに指示を出す。

 ダレスは様々な資格を持っていて、吸血鬼界の医師免許と人間界の医師免許を2つ所持しているのだ。


「りょーかい」

「承知した」


 ダレスは相変わらずグラス片手に緊張感なく返す。


「ロイとキャンディは解析結果が出次第、指令を出す」

「……わかりました」


 ロイは資料を睨んだままだ。どうも納得のいかないことがある。



 ロイは目線を動かさずその思いを問いかけた。


「皆さんは人間と吸血鬼、どちらが犯人とお考えですか?」


 いつもとは違う低く固い声にロイへ皆が注目した。


「オイオイ、ロイ。どうしちゃったんだい?」


 ダレスはグラスを置き、ロイの肩を軽く叩く。

 低い柔らかな声が陽気に響く。ロイはハッとして頭を上げた。


「いえ、私は……」

「ま、そうだよな。仲間がこんなに不可解に死んでいくのは気持ち悪いよな。俺はまだ詳しい状況は理解してねえし、一概には言えないな。カユはどうだ?」


 カユは少し黙った後話し出す。


「さっきはもし吸血鬼が犯人だったらって話しかしなかったけど、俺は人間だって可能性はあると思う。でもそれには人間離れした執念とか想いいれがないと無理だ。だって、あの首の切れ方は……」


 そこまで言うと記憶が蘇ったのか口をつぐんだ。


「そうですか……」


 俺は悔しいよ。カユが小さく言うとしばらく沈黙が続く。


 そんな中、キャンディが手を挙げ発言する。


「僕は吸血鬼だと思うよ」


 ロイとは真逆の意見だった。キャンディを見るとゆっくり手を下げた。


「何故そう思うのですか?」


 キャンディと視線がぶつかる。紫の大きな瞳がじっと見る。


「僕は人間がそんな残虐であると思わない。今、飢えで苦しんでいる者が多い。その中の一人の犯行だって思う」

「ではどうして血を摂取しないまま去るのです?」


 ロイはすぐに聞き返す。


「それは、Blood ROSEの吸血鬼とは限らないし。それに団員ならすぐに数値が出てしまうでしょう」


 大きな瞳は逸らされないままだ。いつもはキャンディが引いて終わる話が加速していく。


「それでは犯行の意味がないでしょう」

「僕たちになんとかしろっていうアピールだよ。実際飢えたら考え方が歪んでくるだろう? そういう吸血鬼の犯行さ」


 ロイは呆れて目を逸らした。それならばダレスが言った通りリスクの高すぎる犯行になるはずだ。



 キャンディは様子がおかしい。なにかを必死に訴えてくるようだ。


「では、何故なんとかしろという声明をだしたベイカー氏までもが狙われたのですか?」


 ロイは落ち着いたトーンに戻った。


「それもなにかメッセージ性があるんだよ」

「それならば、カユのように犯人の立場に立って話してみなさい。矛盾もいいところです」


 鋭く発せられたロイの言葉には棘があった。キャンディは下唇を強く噛む。眉を寄せ、大きな瞳がロイの姿を捕えた。キャンディの瞳の中のロイは、無表情で青の瞳に炎を灯している。

 ケイやカユが二人を止めようとするが、ダレスはそれを静かに制止した。


「どうしてロイはそんなに人間を嫌うの? 人間がどんなに素晴らしいか知らないくせして頭ごなしに……吸血鬼は何を考えているかわからない人もたくさんいる。犯罪に手を染めた吸血鬼だっているでしょう!潔白で生きている人なんて何人いるの?」


 知らないくせにという言葉、そして吸血鬼への罵倒が耳に障った。


 ここまでキャンディがロイに意見をしてきたことは初めてだった。そして自ら、吸血鬼を悪く言うことも。これには周りも少し驚いた様子だった。


「あなたはそんなに吸血鬼が狡猾だと言うのですか?」


 ロイの荒げた声が集会所内に響く。


「じゃあロイは人間がそんなに非道だっていうの?」

「ええ、そうですよ。人間は……!」


 言いかけたその時だった。

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