84・レオンとデート
翌日。
私はレオンと、街まで出かけていた。
「急にすみません。レオンもお忙しいでしょうに……。ですが、どうしてもあなたと街を歩きたくって」
隣を歩くレオンに、そう謝る。
しかし彼は、
「なにを言うんだ。君が遠慮する必要はない。しかも俺自身、気晴らしが必要だと思っていたし、いい機会になったよ」
と優しい表情で気遣ってくれた。
忙しい合間に時間を見つけ、彼がこうして私の要望を聞き入れてくれて、とても嬉しかった。
──レオンとデートに出かける。
これが、エマさんと相談して決めた作戦だ。
『二人の思い出といえば、ずばりあの初めてのデートでしょう! 思い出の場所を巡り思いを馳せることによって、レオン様の記憶も元に戻るかもしれません。そしてそのついでに……直接、レオン様からご自身の過去を語ってもらいましょう!』
少し興奮気味に話すエマさんの姿は、はっきりと目に焼きついている。
私がレオンと結婚して、まだ日が浅い頃──彼がデートに誘ってくれたのだ。
あの時の私はまだ、この結婚に愛はないと思い込んでいた。
しかし、あのデートの一件を通して私はレオンのことを知った。
もっとも戦争を知らせる鐘の音によって、デートは途中で終わったけど……今でも良い思い出として、色濃く私の記憶に根付いている。
レオンをデートに誘う時はドキドキしたけど、こうしてレオンと歩いていると心が安らいでいった。
そんなことを考えながら街中を歩いていると、スイーツショップの前まで辿り着く。
「ここに入りませんか?」
「ああ」
店内に入る。
店内には色とりどりのスイーツが並べられていた。
どれも美味しそうで、つい目移りしてしまう。
「あ──」
そこで私は、マカロンを見つける。
「レオン、覚えていますか? 私が結婚の申し出を受け、レオンにお会いした時──このマカロンを出してくれたんです」
「これを……か?」
マカロンをマジマジと眺め、レオンは戸惑いの表情を作る。
「はい。レオン自身の手でお選びになったと聞いています」
甘くて舌がとろけそうなこのマカロンは、私にとって思い出の味だ。
あれ以来、マカロンの味が忘れられず、定期的にここまで買いにきていた。
だから、レオンの記憶修復の『鍵』は、このマカロンかもしれないと思ったんだけど……。
「すまない、覚えていない。俺が一人の女性のために、わざわざスイーツを選ぶとはな。本来の俺ならアレクに任せて、買いに行かせていただろうからな」
「そうですか……」
うーん、残念。
だけど、この程度でへこたれるわけにはいかない。
残念な気持ちを胸に押し込めながら、私たちはマカロンを購入する。
思い出の味を口にすれば、なにかきっかけが生まれると思ったからだ。
もっとも、この様子だと可能性は低そうだけど。
「次はどこに行こうか。なにか希望はあるか?」
店を出て再び街を歩きながら、レオンが問いかけてくる。
「そうですね……せっかくマカロンも買いましたし、これをどこかで召し上がりたいです」
「だったら、喫茶店に行こう。喫茶店のマスターとは、親交も深い。俺が言えば、場所くらい貸してくれるだろう」
「いいですね。ですが……」
と私が言葉を続けようとすると──。
「すみません。迷子になってしまって……道をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
不意に後ろから声をかけられる。
振り返ると、そこにはキレイな女性が立っていた。
ふんわりとした柔らかい髪質。その髪がそよ風に乗って優雅に揺れるたびに、花のような香りが鼻先まで届いた。
貴族だろうか? 繊細な刺繍が施されたドレスに身を包んでいる。
だけど貴族にありがちな高慢さは一切感じられなかった。
「あなたは……」
名前を尋ねようとすると、
「あ」
女性は隣にいるレオンに気付き、声を上げる。
「レオン……ランセル様……」
レオンのことを知っているらしい。
とはいえ、この街に住んでいたら、公爵であるレオンを知っていることはさほど珍しくないけど──意外だったのはレオンの反応だ。
レオンも女性の姿を見て、目を見開いた。
「君は……フェリシテ・シビリルか──」
そう名前を呼び、レオンと彼女──フェリシテさんは見つめ合った。




