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77・マルスラン殿下

 日も落ち、竜神祭のフィナーレを飾る夜会が幕を開けた。


 会場となるのは、街中の丘の上に佇む壮麗な屋敷。

 街を一望することが出来、ここはリファリオンの執政官の住居も兼ねているらしい。


 屋敷の大広間は、華やかな装飾と光に満ちている。

 貴族や商人、地方の名士たちが集まり、思い思いに時間を過ごしていた。


 圧倒されそうになるけど、ぼーっと突っ立っているわけにはいかない。

 私は夜会に出席した人々への挨拶回りに忙しく動き回ることになった。



「つ、疲れました……」



 挨拶回りも一通り終え、私は一息吐く。


「私、失礼なことを言っていないでしょうか?」

「なにを言うんだ。立派にこなしていたじゃないか。先ほどの執政官も、君の美しさに見惚れているようだった」


 私を安心させるように、レオンが優しく微笑む。


「疲れているようなら、控室で一度休憩するか? 執政官への挨拶も終わらせたし、これ以上の大物はいないし……」

「お気遣い、ありがとうございます。ですが、大丈夫です。せっかくなので、私も夜会の雰囲気も楽しみたいので」

「そうか。だったら、夜会に出された料理に舌鼓を打ち──」


 と、レオンが言葉を続けようとした時であった。



「僕も挨拶いいかな?」



「は、はい!?」


 ──不意に男性の声が聞こえ、思わず肩が上下に震えてしまう。


「はははっ、ビックリさせちゃって、ごめんね。そういうつもりはなかったけど……ほら、僕って存在感が薄いから。こういうことって、よくあるんだ」


 その方はあっけらかんと笑った。


 私たちに声をかけてきた男性は、どこにでもいるような平凡な装いをしていた。

 もちろん、今は夜会。それなりの紳士服に身を包んでいる。

 しかし不思議なことに、無邪気な子どもが夜会に迷い込んだかのような──。

 そんな印象を受けた。


「あなたは──」


 レオンが言葉を紡ごうとすると、その男性はさっと手で制し、


「いいよ。僕から紹介させてよ。なにせ、噂のフィーネ公爵夫人に初めて会えたんだからね」


 私を真っ直ぐと見つめた。


「初めまして。僕はマルスラン。知っているかもしれないけど──この国の王子だ」

「お、王子殿下!?」


 思わぬ大物の名前に、私も身が縮み上がってしまう。


 マルスラン──その名前を聞いて、さすがに私も分かった。


 この国に何人かいる、王族の一人。公爵であるレオンも、王族には頭が上がらない。

 式典などで遠くから眺めるのは別だけで、今までこうして王族の方と顔を合わせたことはない。

 光魔法のこともあるし、レオンが会わせたがらないのだ。

 だから彼──マルスラン殿下を前にして、頭が真っ白になってしまった。


「はははっ、そんなに恐縮しなくてもいいよ」


 私が固まっているのを見かねてか、マルスランは無垢な笑顔を向け、


「王子だっていっても、僕は第六王子。王位には程遠いし、王族の中でも地位が低い。なんなら、公爵夫人である君の方が上なんじゃないかな?」


 と言葉をかけてくれた。


 マルスラン殿下はそう言ってくれるけど……だからといって、気を緩めるわけにはいかない。

 私の言動一つで、公爵家が悪く思われるかもしれないからだ。


「殿下も夜会に来られていたのですね」


 私が言葉に迷っていると、レオンがさっと話題を変えてくれる。


「うん。リファリオンの竜神祭といったら、有名だからね。一度、この目で見ておきたかったんだ」

「よく王城から抜け出せましたね?」


 今度は私から質問する。


 王族の方といったら、自由に行動出来ない。正式な訪問ならともかく、マルスラン殿下がここに来られることは、私とレオンも知らなかったからだ。


 それに対して、マルスラン殿下は人懐っこい笑顔を浮かべて、


「言っただろ? 僕は第六王子だって。王族の中でも軽んじられているんだ。そのおかげで、ある程度の自由は許されている。護衛を連れてきたら面倒臭いし、今日は一人で来ているんだ」


 と答えてくれた。


 うーん……いくら第六王子だって、護衛もなしに来るのは不用心すぎると思うが……私が口を挟む問題でもない。


「だから、竜神祭を気ままに楽しめている。わざわざ足を運んだ甲斐があったよ。それに……君にも会えたしね」

「私……ですか?」

「うん! だって、あのなかなか誰とも婚約しようとしなかったレオン・ランセル公爵の、待望の結婚相手だよ! 興味が出るのも、仕方がないじゃないか!」


 やけに大仰に言って、マルスラン殿下は両腕を広げる。


「しかも、君の妹はあのコリンナなんだよね? 彼女なら王城で楽しく──かどうかは分からないが、それなりに侍女の仕事をこなしているから心配しないで」


 とマルスラン殿下はウィンクをする。


 私の妹──コリンナは聖女として崇められ、国内でも地位が高かった。

 しかし治癒魔法の力が弱まり、代わりに闇魔法に目覚めたこと──そして戦場で錯乱し、私たちに牙を剥いたことをきっかけに聖女の名を剥奪されることになった。


 とはいえ、闇魔法の力は貴重だ。王族としても手元に置いておきたい。

 そのような思惑が絡み合い、コリンナは王城で侍女として働くことになった。


 家事など一切してこなかった彼女は、侍女として苦労しているらしい。

 だけど生来の負けず嫌いもあいまってか、途中で放り出したりはしてこなかった。


 彼女とは主に手紙で何度かやり取りしているが、最近は会えていなかったので、マルスラン殿下の口から彼女の近況が聞けてほっとした。


「コリンナもそうだったけど……君もキレイな人だね。レオン・ランセル公爵の夫人にふさわしいよ」

「あ、ありがとうございます。もったいないお言葉です」

「しかもすごい謙虚。とても公爵夫人とは思えない。今後ともよろしくね」


 そう言って、マルスラン殿下は右手を差し出した。

 私は一瞬躊躇してしまったが、彼と握手を交わした。


「──っ!?」


 するとマルスラン殿下は私を強く引き寄せて、顔をまじまじと眺めた。


「……いやあ、本当に美しい人だね。見た目だけではなく、内側から不思議な魅力が滲み出ている。自然と惹かれる魔力のようなものを感じるよ」


 急なことに、動揺してしまう。


「殿下」


 レオンがマルスラン殿下に、険しい表情を向ける。


「フィーネが戸惑っておられます。悪いですが……この辺りで」

「ああ、ごめんごめん。気分害したかな? フィーネさんに会えて、僕もテンションが上がってしまたみたいだ」


 レオンに注意され、マルスラン殿下があっさりと手を離す。


「フィーネさんもごめんね」

「い、いえいえ、私も殿下とご挨拶が出来て、光栄です。私は大丈夫ですから……」


 まだ心臓がバクバクしている。


 夜会で話す、誰よりも緊張した。

 だけど失礼な態度はしていないと思うし、及第点……だよね?


「二人の時間を邪魔しちゃったね。僕はもう行くよ。じゃあ、またね」


 そう言って、マルスラン殿下は私たちの前から立ち去った。


「……マルスラン殿下、とても面白い方でしたね」

「ああ。俺は王城で顔を合わしたことがあるが……その時も今みたいだった。よくも悪くも裏表がない」


 先ほどの光景を思い出しているのか、レオンは苦虫を噛み潰したような顔になった。


 レオンの言う通り、裏表を感じなかった。

 私は今までの経験から、人の抱いている感情に敏感なんだけど……彼からは一切の()()を感じなかったのだ。

 あんなに懐に入り込まれたのに……だ。

 こんな風に感じたのは初めてだったので、いかにマルスラン殿下が特殊なのかが分かる。


 けど。


「…………」

「どうした、フィーネ。なにか気になることでもあったのか?」


 レオンが首を傾げる。


 マルスラン殿下は、無邪気な子どものような印象を受けたけど──同時に、全てが()()()()なような不自然な違和感も抱いた。


「……いえ、なんでもありません。急に声をかけられて、驚いただけですので」


 とはいえ、そんな失礼なことを言うわけにもいかない。

 首を横に振って、そう答えた。


「そうか。まあ……殿下が来られたのには驚きだったが、あれ以上の大物もいないだろう。フィーネも、もっと肩の力を抜け」

「はい」


 頷く。


 私も夜会の雰囲気を楽しもうかな──そう思って会場を眺めると、なにやら周囲の様子が変わっていることに気付く。

 出入りが激しくなったと言うべきだろうか。周りの人は話をしながら、屋敷の外に向かっていった。


「なにかあったんでしょうか……?」


 その今までとは違った空気を感じ取り、震えた声を発する。


「心配しなくてもいい」


 しかしレオンは私の不安を払拭するように。


「夜も更けてきた。きっと外では、()()()()が広がり始めている頃なんだろう」

「例のあれ……?」


 私が問いかけると、レオンはさらにこう言葉を重ねた。



「皆、夜空を見に行っているんだ。竜神祭名物……『星架けの夜』をな」

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