72・だけど今は幸せです
本日コミカライズ3巻が発売となりました!
ぜひ、ご覧になっていただけると嬉しいです。
「レオン」
執務室に入り声をかけると、レオンも「フィーネ」と口にし、ペンを走らせる手を止めた。
「すみません、お仕事中でしたか?」
「問題ない。キリのいいところまで終わったところだったからな」
とレオンは肘掛けに腕をかけ、こう続ける。
「今回の戦争。君のおかげで勝てたというのに……秘匿にして、すまなかったな。全て君の妹コリンナの手柄になった」
「別にいいんです」
どちらにせよ、私の願いはレオンとずっと一緒にいること。
私の手柄だということにしたいのであれば、光魔法の件について話さなければならない。
英雄にも聖女にもなりたくない。
「それにしても……よく隠し通すことが出来ましたね? 全てコリンナの手柄にするにしては、あまりにも違和感が生じるものだと思いますが」
「エアハルト騎士団長が尽力してくれたんだ。彼は王家からも信頼されている。違和感のある話でも、エアハルトが言うなら信憑性が増すだろう。全く……結局、エアハルトには助けられてばかりだ」
「そうだったんですね。なら、いつかエアハルトさんにはお礼を伝えましょう。パーティーを開くのはいかがですか?」
「それもいいな」
とレオンはふんわりと笑う。
「フィーネ──聞きたいのは、それだけだったか? 君の顔を見るに、他にもっと言いたいことがありそうだが」
「はい……」
頷いて、私は右手を顔の前に持ってくる。
右手の指には指輪が嵌められていた。
「再生の指輪か。まだ付けてくれていたんだな」
「もちろんです。だって、レオンにもらった大切なものですもの。それに……戦いが終わってから、気になって再生の指輪に込められているメッセージを確認したんですよ」
そう言うと、レオンは肩をびくんっと上下に動かした。
一度囚われていた屋敷に再生の指輪を置き、手離してしまった。
それをレオンが回収し、手元に戻ってきたわけですね。
再生の指輪には、私が屋敷の地下にいることを記録させておいた。行き違いになってもいいように、私が考えたのだ。
「メッセージが上書きされない限り、まだ私が地下にいることを伝えるものになったままのはずです」
「…………」
「指輪を返してくれた時、あなたは少し躊躇していましたね。なんだろう……と思って、聞いてみたら──」
私は指輪に魔力を込め、記録されているメッセージを呼び起こす。
『俺は永遠に君の幸せを願い続ける。フィーネ──俺は君のことを愛している』
──私が吹き込んだ声とは違う、レオンのものが記録されていたのだ。
「私に返す前、メッセージを上書きしたんですね。どうしてですか?」
理由はなんとなく察しはついているけど。
レオンの口から聞きたくて──少し悪戯心を込めて、彼に問いかけた。
するとレオンは途端にしどろもどろになって。
「さ、最後の戦いは厳しいものになると思ったんだ。だから自分が戦いで命を落とす可能性も考えていた」
「遺書のつもりだったと?」
「まあ……そういうことだな。振り返ってみれば、自分の行いはキザすぎたかもしれない。今となっては恥ずかしく思うよ」
レオンの頬が薄い朱色に染まる。
そんな彼が愛おしく思えた。
「ふふっ、キザなんてとんでもございません。私のために、色々と考えてくれたことが嬉しいんです」
完璧で非の打ちどころない男性だと思っていた。
しかしレオンと接する期間が長くなることによって、彼の不器用さを知った。
最初はわざわざ契約結婚だと偽って、一目惚れだということを隠そうとした。
この結婚に──愛は存在した。
そんなレオンの不器用さも、私にとっては愛する部分であった。
とはいえ。
「いつでも聞けるように、再生の指輪に声を記録してくれることも嬉しいんです。だけど……私はやっぱり、あなたから直接聞きたい。我儘を言います。レオン、どうか私に言葉をおかけください」
「う、うむ……」
レオンは立ち上がり、私の前に立つ。
そして私の肩に手を置いた。
「フィーネ──俺は君のことを愛している」
彼のキレイな顔が迫り──私たちは口づけを交わしていた。
レオンは私の幸せな居場所を守るためなら、なんでもするとおっしゃってくれた。
でも……ちょっとそれはズレている。
私にとって、幸せな居場所はレオンの隣だからだ。
なんでもすると言って、レオンが命を落としてしまったら意味がない。
妹の代わりに公爵騎士に嫁ぐことになった私。
だけど今は幸せです。
おかげさまで、朱城怜一先生によるコミカライズ3巻が本日発売となりました!
ぜひご覧になってくださいませ。




