70・ありがと、お姉ちゃん。大好きだよ
(コリンナ視点)
そうだ──私は罪滅ぼしがしたかったんだ。
闇魔法を放ち続けながら、コリンナは今までのことを思い出していた。
なんでも出来る姉に嫉妬していた。だけど姉の優しさに触れ、不思議と嫌いにはならなかった。
しかし徐々に治癒魔法の腕が伸び、闇魔法に心を蝕まれてから──姉にいっぱい酷いことをしてしまった。
それでも姉は挫けなかった。
立場が逆転してからも、コリンナのことを罵倒しない。
しかもこんな愚かな私に手を差し伸べ、『仲直りがしたい』だと?
最初は正気を疑った。
なにか裏の狙いがあるのでは?
だが、姉はそんなことを考えていなかった。
(損得を抜きにして、困っている人に差し伸べる。かつて聖女と呼ばれていた私より、よっぽど聖女じゃない)
だから──少しでも姉に罪滅ぼしがしたかった。
ゆえに上手くいくかも分からない作戦に乗り、こんなところに来たのかもしれない。
(ふっ……血塗れのレオン・ランセル公爵を見て、逃げ出した昔の私が懐かしいわね。私、いつ変わったんだろう)
隣で光魔法を発動するフィーネは、神々しさすら感じた。
一方、コリンナは強い闇魔法を使い続けていると、だんだんと視界が闇に覆われていった。
たとえるなら──暗い夜道だ。
そこで一人、コリンナは歩いている。
歩けば歩くほど、闇は濃くなっていく。
自分がどこに向かっているのかも、あやふやだった。
──コロセコロセコロセ!
そんなコリンナに追い討ちをかけるように、憎悪のこもった声が彼女に語りかける。
──やめて!
もう誰も傷つけたくないの!
私を惑わせるのはやめて!
──なにを虫のいいことを言っている。貴様はもう引き返せない。罪滅ぼしなど無価値だ。
そうだ……私はもう引き返せないところまできている。
姉が望むように、彼女と仲直りする立場にはないかもしれない。
コリンナは夜道を歩き続ける。
「怖い……怖いよぉ。助けて、お姉ちゃん……」
口からはそんなか細い声が漏れていた。
しかし突然──闇が散開する。
「大丈夫」
コリンナの手を誰かが握る。
「お姉ちゃんがいるからね」
隣に再度顔を向けると、微笑む姉の姿があった。
「コリンナはいつも怖がりだった。それは聖女と呼ばれても変わらない。辛かったんだよね? 大丈夫。お姉ちゃんが全部許してあげるよ」
優しく言う姉。
──ああ。
分かった。
自分が姉に昔のように語りかけてほしかったのだ。
だから『どうすれば、仲直りしてくれるんでしょうか?』と問いかけられた時も、素直に答えることが出来なかった。
コリンナは姉の手を強く握り返す。
「……ありがと、お姉ちゃん。大好きだよ」
告げると、姉の顔がさらに綻んだ。
光と闇は交錯し──無色透明の色となる。
きっと無魔法が発動する条件は、光魔法と闇魔法を同時に使うこと以外にも、お互いの心を通じ合わせることにあるのだとコリンナは思った。
◆ ◆
「す、すごいぞ! もう一つの無魔法が──生まれた!」
ゴードンさんの声が聞こえる。
私はその声に答えたいけど、正直魔法に集中することにいっぱいいっぱいで、意識を割く余裕はなかった。
私とコリンナによって生まれた無魔法は、黒い球体を包み込もうとする。
このままいけば、みんなを救え──。
「誰が許すかあああああああ!」
突如、前から憎悪に歪んだ顔が現れる。
「無魔法にも打ち勝って、最後はハッピーエンドですか? そんなの、私が許さない! 邪魔者は消え去り、フィーネは私と共に来るのです!」
バティストの剣が迫る。
躱わす猶予もない。
そもそもここで一瞬でも魔法を途切れさせてしまえば、二度と無魔法をぶつけることは出来ないと思った。
間一髪の危機──だが。
「俺の妻──そして、彼女の大事な妹の邪魔をするな」
隣から颯爽とレオンが現れ、バティストの剣を受け止める。
「公爵! そこをどけ!」
「どかない。彼女の目に映る貴様の姿は、あまりに醜すぎる」
そう言って、鍔迫り合いをしながら、レオンは私に顔を向けた。
「フィーネ──何度でも言う。俺にとって、君こそが聖女だ。俺は聖女を守る騎士となる。フィーネの命は守るから、君は君のすべきことに集中してくれ」
「はい……!」
私は深く頷いた。
レオンが近くにいてくれるだけで、私はいつもの何倍の力が出せる。
彼が守ってくれるなら──私はどこにだっていける。
「さあ──フィナーレといこう。バティスト……今度こそトドメだ!」
レオンが剣を一閃すると、血飛沫が上がる。
バティストは悲鳴を上げて、地面に倒れ伏せた。
起き上がってくる気配もない。剣神の最後は呆気ないものであった。
「コリンナ! 私たちも最後の仕上げだよ!」
「うん!」
正念場。
コリンナもさらに多くの魔力を放出する。
やがて──無色透明の魔力は光となった。
それは周囲を白く染め上げ、光がなくなった頃には……暴風も吹き止んでいた。
黒い球体も消滅し、代わりにアネットちゃんが横になっている。
「アネットちゃん!」
私とコリンナはすぐさま彼女に駆け寄る。
「お、お姉ちゃん! その子、大丈夫なの!?」
コリンナに声をかけられながら、私はアネットちゃんの脈拍と呼吸を確認する。
これは──。
「……ええ! 息をしていますし、脈も動いています! 酷く疲労していますが、体には傷一つありません!」
私がそう叫ぶと、周囲から歓喜の声が上がった。




