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69・無魔法に抗う術

 謎の黒い球体に吸い込まれそうになる──レオン。

 私が名前を呼ぶと、レオンは気力を取り戻したかのように体を捻り、爆風から逃れた。


「レオン……間に合ってよかった」

「フィーネ! どうして君がここに!? それにアレクとコリンナまで……」


 レオンが私の姿を見つけ、驚きで目を見開く。


「決まっているではないですか。あなたとゴードンさんを救うためです」

「救うため……だと? アレク、俺の命令を忘れたのか? 俺はフィーネを避難させろと言った」


 レオンが怖い目で、ぎょろっとアレクさんを見る。


「命令に背き、すみません。しかし試す価値がある策が出来ました。それを試さないでレオン様を見捨てることは、私に──そしてフィーネ様にも出来なかった」

「なんだと?」


 眉間に皺を寄せるレオン。


「フィーネ! わざわざ来てくれたのですね! ああ! やはりあなたは麗しい!」


 バティストも少し離れたところで、そう声を張り上げる。

 しかし黒い球体から発せられる吸い込む風で、これ以上は近付けないようであった。


 レオンと少し話す余地はあるはず。

 私たちは黒い球体から距離を取り、なんとか話せる位置で立ち止まった。


「風を発生させている、あの黒い球体──あれが無魔法なのですね」

「そうだ。中央にはサイラスの娘、アネットもいる」

「やはり……」


 想像していたよりも魔力の奔流が激しく、途切れる気がしない。魔力切れを狙う作戦は無理だろう。それまでに何人犠牲になるか分からない。


 やはり()()を試すしかないようだ。


「レオン、手短に言います。無魔法に対抗する術は──」


 話しながら、私は野営地でアレクさんに説明した時のことを思い出していた。




『サイラス様の元妻、リアさんの日記にはこう書かれていたんですよね? その力……つまり無魔法は同質の力でしか打ち破れない──と』

『その通りです。ですが、なにを……』


 アレクさんもここで気付く。


『はい……無魔法には無魔法をぶつければいい。そう考えたんです。そして無魔法は光魔法と闇魔法を混ぜ合わせることによって、発動しました』


 二つの魔力をアネットちゃんに流し込むことによって、無魔法を発動する機関を成立させたわけ。

 あんな可愛い女の子を『魔法を使う機関』と見なす、帝国の悪意に吐き気がした。


『私とコリンナ──二人の力を合わせて、無魔法を発動させます。それをぶつければ、相手の無魔法を相殺させることが出来るかもしれません』


 これはただの推測。

 リアさんが書いた日記にも間違いがあるかもしれない。

 光魔法と闇魔法を同時に発動しても、それが混ざることになるかも分からない。

 そんな方法で無魔法が生まれるなら、帝国はわざわざアネットちゃんを必要としないからだ。


 発動条件は別にある可能性も否めない。


 しかし……十分試す価値がある。


 なにより、レオンを救うためになにもしないことは、私が耐えられなかった。




「無魔法には無魔法をぶつける──なるほどな」


 最低限しか喋っていないのに、レオンは話を理解して、頷いてくれた。

 先ほどまでの焦燥はなりを潜め、声には明るさも帯びている。


「それしかないみたい……だな。どちらにせよ、ここで無魔法を止めなければ、俺もフィーネも終わりだ。二人に俺たちの命を任せた。そのための時間なら、俺が稼ぐ!」

「無論、オレも加勢する」

「お供します」


 レオンだけではなく、ゴードンさんとアレクさんも剣を抜き、私たちを守るように前面に出る。


「お願いします! コリンナも……いきますよ!」

「ええ!」


 私とコリンナは隣り合って、黒い球体──アネットちゃんに向かって手をかざす。


 隣に視線を移すと、コリンナはにこっと笑顔を浮かべた。

 コリンナは闇魔法、私は光魔法を同時に発動し、奇跡が起きる瞬間を待った。

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