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65・良い男が最後には勝つ

 夜も明けて。

 昨日の予想通り、最後の戦いが始まった。

 レオンやゴードンさん、アレクさんも戦場に向かった。もちろん、エアハルトさんも一緒だ。


 一方、私は戦いの勝利を願いつつ、野営地で軍医として動き回っている。



「助かった! 君のおかげでもう一度戦えそうだ!」

「あまり無茶はしないでくださいね」



 怪我を治癒した騎士の一人が、私にお礼を言ってくれる。


 先の戦争より、怪我人が多い。

 それほど帝国軍も本気だということだろう。



「……私もなんか手伝えることがあるかしら」



 駆け回っていると、コリンナが話しかけてきた。


「え……」


 一瞬、戸惑う。


 聖女と呼ばれていた頃のコリンナは、よく戦場に派遣されていた。

 しかし彼女自身は戦場が嫌いで、教会に強制されて無理やり行っていたに過ぎない。

 そんな彼女がまさか自ら進んで聞いてくるとは思っていなかったのだ。


「なんなのよ、私がこんなことを言い出すなんて意外?」

「いえいえ、そんなことは……」

「ぼーっとしてんのも暇なのよ。それに居心地も悪いし。だったら、ちょっとでも体を動かした方がいいでしょ」


 とコリンナが肩をすくめる。


 猫の手でも借りたい状況で、彼女がそう言ってくれるのは嬉しい。


 でも……彼女には元々、卓越した治癒魔法の力はあった。

 それこそ、私なんかよりも何倍も優れた治癒士であった。


 だが……闇魔法に目覚めるのと比例して、治癒魔法の力は徐々に失われていったという。

 今となっては、ほぼ完全に力を失ってしまったとも聞く。


「私の治癒魔法じゃ、役に立たない……って言いたいのね」

「ち、違い──」

「もうっ! さっきから本心を隠してるつもりでしょうけど、あんたの考えてることくらい分かるわよ! 治癒魔法が使えなくても、雑用くらいは出来るわ。ほら、そこに置いてある薬。どこに必要なの? 持っていくわよ」

「あ、ありがとうございます──ですが、ちょ、ちょっと待ってください」


 コリンナはひょいっと薬が入っている箱を持ち上げて、歩き出してしまう。私も慌てて彼女の後を追いかけた。


「この戦い、勝てるでしょうか……?」

「一体、いきなりなにを言い出すのよ」


 コリンナが訝しむような目を向ける。


「仮に勝って、アネットちゃんを奪還したとしても、果たして彼女は無事でしょうか? 既に彼女の体には、無魔法の魔力を詰め込まれています。屋敷にいた時は、最後まで意識が戻りませんでしたし、もうずっとあのままだと──」

「確かに、そうね」


 アネットちゃんは被害者だ。生まれながらにして帝国の実験動物として扱われ、感情を失ってしまった。

 私が死んでも、彼女だけは救いたい。


 実は彼女を救う方法は、一つだけ心当たりがあるんだけど──確証が持てない。

 もし失敗すれば、事態が悪化してしまう可能性もあるので、提案するのを躊躇っていた。


「だけど、今はバティストをなんとかしないとね。ヤツがいる限り、アネットって子は帰ってこないでしょうから。その子が無事に帰ってきてから、ゆっくり考えましょう」

「そ、それもそうですね。ですが……そのことも不安で……」

「自分の夫の勝利を信じてないってことなの?」

「そ、そうではありません。ですが……帝国軍も一筋縄ではいきません。今頃、バティストと交戦しているかもしれないと聞きました。先の戦争では勝ちましたが……」

「うだうだ言ってるんじゃないわよ!」


 コリンナは急に立ち止まり、強い語気で私に発破をかけた。


「昨日言ったでしょ? 私はあんたのそういう後ろ向きなところが嫌いなのよ!」

「それは分かっているつもりですが……性格はなかなか変えられるものではなく……」

「じゃあ、こう言い直してあげよっか?」


 ニタアとなにか悪いことを思いついたかのように、コリンナは口の端を吊り上げる。


「あんた、レオン・ランセル公爵とバティスト。どっちの方が良い男だと思う?」

「も、もちろん、レオンです。悩むまでもありません」

「でしょ? だったら、レオン・ランセル公爵が負けるわけないわ。この戦いはいわば、あんたを取り合う男の戦いでもあるわけ。女を取り合う男同士の戦いは、良い男が勝つって相場が決まってるんだから」


 良い男が負けるわけない──なるほど、そういう考えもあるのか。


 コリンナとしては私を元気付けるため、冗談混じりに言ったことなんだろう。

 だけどついくすっと笑ってしまったし、随分と心が軽くなった。


「ありがとうございます、コリンナ。そうですよね。あんなストーカー男に、レオンが負けるはずありません」

「ははっ、あんたも言うようになったじゃない。いい顔になったわ。ずっとそうしていなさい」


 表情を柔らかくするコリンナ。

 こうして彼女と話していると、まるで昔に戻ったかのようで──。



「報告です!」



 そんなことを考えていると、一人の騎士が野営地に駆け込んできた。


「レオン様とゴードン騎士団長、両名が剣神バティストと交戦しました!」

「……っ!」


 丁度話をしていたところなので、私はぎゅっと拳を握って、彼の話に集中した。


「そして戦いも終わり……勝敗も決まりました。レオン様は──」


 固唾を飲んで言葉を待っていると、やがて現れた彼は笑顔になって、みんなにこう告げた。



「勝者は──レオン様! 剣神バティストが敗れ去りました!」



 ……!

 歓喜の声が上がる。

 私もコリンナとお互いに顔を見合って、頷いた。


 しかし報告に来た彼は途端に険しい表情になり、こう続けた。


「で、ですが──」

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