63・エアハルトの罪(レオン視点)
「なんだ。なにか言い忘れていたことでもあったのか──レオン」
話し合いが終わり。
俺はエアハルトが一人になったところを見て、彼のところへ足を運んでいた。
「明日は朝は早い。今のうちから英気を養っておけ。俺みたいな無頼漢と喋っても、退屈だろうに」
「退屈だとはとんでもございません。それに……どうしても、あなたには言っておかなければならないことがあった」
「ほお?」
値踏みするような視線を向けるエアハルト。
俺は彼の前で膝を突き、首を垂れた。
「……すみません。今までの失礼な態度をお許しください。正直……俺はあなたを疑っていた」
「はっは! いきなりなにを言い出すかと思えば! 顔を見せろ」
顔を上げると、快活な笑い声を上げているエアハルトの顔があった。
フィーネの所在が分かって、彼女がいるであろう廃墟に向かう前。
俺やゴードンだけでは、帝国兵を退けられない。
そう考える俺の前にエアハルトが現れ、共に戦うことを申し出てくれたのだ。
『私も行こう。王子様がお姫様を救おうとしているのだ。ならば、私は騎士として、君たちの道を作る』
フィーネの力を疑われると思っていた俺は、エアハルトの胸中が分からず、戸惑った。
なにか企んでいるのでは?
もし、フィーネに光魔法の素質があるとバレれば、彼女は王都に連れて行かれるかもしれない……と。
しかし贅沢を言ってられないのも事実。
彼の助けが借りられることが有り難いのも正直なところだった。
だから警戒はするものの、俺はエアハルトの提案は受けた。
そして……彼は俺たちのために足止めをし、フィーネを救うための道を作ってくれた。
「あなたがいなければ、俺はフィーネのところまで辿り着けなかったでしょう。謝罪と感謝は必要です」
「私はただ、自分のやるべきことをやったのみだ」
「それでも……です。だからあなたにだけは、フィーネのことを喋るべきだと思いました。彼女は──」
「光魔法の使い手……ということだろう?」
先んじて言われ、俺は一瞬驚いてしまう。
「気付いておられたのですか」
「当然だ。私を誰だと思っている。さっきの話し合いの時も、笑いを堪えるので必死だったぞ。皆、フィーネが光魔法を使えることを隠そうしていたのだから」
「ならばどうして──あなたはここまでやってくれるんですか?」
「うむ……」
エアハルトは顎を撫でながら、こう口を動かした。
「私が妻と離縁したことは知っているか?」
「はい。有名な話ですから」
「説明が省けて助かる。ならば、その理由は知っているか?」
「それは……」
軽く聞き及んでいたが、それを言っていいものかどうか悩み、口を噤む。
「私は戦いしか知らぬ男だった。陛下にあてがわれ、女と結婚したが……どうも上手くいかん。結局、常に戦争のことを考え、妻のことを顧みない私は結婚生活に不適だった」
「だから離縁した……と」
「いや、離縁を申し出たのは妻からだった。私は今でも後悔しているんだ。幸せな結婚生活を送ることが出来たのでは──と」
だから──とエアハルトはさらに続ける。
「私は君たちに憧れがあったのかもしれない。私とは違い、幸せな結婚生活を送っている君たちに……な。私は君たちの関係を応援しているんだ。それなのに邪魔をするのは、無粋であろう」
「…………」
エアハルトの言葉を噛み締める。
「これは王家に対する裏切りかもしれぬ。しかし……それでも、私は君たちを守ろうとした。それが愛情を注げなかった妻に対する、唯一の罪滅ぼしだと思ったんだ」
今まで、俺は彼のことを完璧無欠の人間だと思っていた。
騎士の頂点であり、欠点など存在しない。
覇道を突き進むその姿に、憧れや畏怖の感情を抱いていた。
しかし今、彼の話を聞いて……俺の中に芽生えたのは親近感だ。
エアハルトも俺たちと同じように苦悩する。
それなのに、勝手に神格化するのは、おこがましい行為ではなかっただろうか。
「もっとも、君がフィーネを愛していないようなら、彼女を王都に連れ帰るつもりだったがな。そちらの方が彼女のためにもなる」
「それは……俺も思います」
「合同演習の終わり際、君と戦って分かった。君ならなにがあっても、フィーネを守れる。だから私は君を応援することにした」
そこまで語って一転。
彼の柔らかい表情が、鋭さを帯びる。
「だが……気を付けろ。王都の中には、フィーネの力を怪しんでいる者もいる。他の者はフィーネが光魔法を使えると分かったら、すぐに手中に収めようとするだろう。君の敵は外だけではなく、国内にもいるのだ。そのことを忘れるな」
「ありがとうございます。ですが……言われなくても、そのつもりです」
あらためて覚悟を決める。
エアハルトは俺の目をじっと見つめ、拳を突き出した。
「まずは明日の敵だ。バティストを打倒し、ヤツらが大事にしているアネットを救い出すぞ」
「はい」
俺も突き出された拳に拳を合わせる。
彼の拳は思っていたよりも、大きく感じた。




