58・コリンナは暗いところが苦手
「ここよ」
とコリンナは階段の前で立ち止まる。
階段の先は薄暗く、他のものとは異質な雰囲気を醸し出していた。
「この下に……アネットちゃんが……」
「いるかどうかは分かんないでしょ。行きましょ。こうしている間にも、帝国兵に見つかるかもしれないから」
とコリンナが先頭を歩き、階段を降りた。
階段を降り切った先は、仄暗い薄闇に覆われていた。
灯りもない。
転ばないように気をつけないと……。
「…………」
「コリンナ?」
先ほどまではあんなにも饒舌だったコリンナが、ここに来てから妙に口数が少ない。
なにかに怯え、踏み出す一歩一歩も震えていた。
「もしかして、暗いところが怖いんですか?」
「……っ!」
図星だったのか、彼女の肩が微かに上下する。
それを見て確信する。
「大人になってからは治ったと思いましたが、まだ暗闇は克服出来ていなかったんですね」
「……そうよ。文句ある?」
と口から出る声も、コリンナにしては弱々しい。
彼女が暗闇を怖がる理由は、はっきりしている。
昔──元々、コリンナは出来の悪い子どもだった。
治癒魔法の勉強をいくらしても、全然伸びない。私は「気にしなくていいよ」と言ったけど、お父様はそうじゃなかった。
そしてとうとうお父様の堪忍袋の緒が切れ、コリンナを暗い馬車小屋に閉じ込めた。
それ以来、コリンナは暗いところが大の苦手だった。
まあ成長にするにつれて、治ったと思ってたけどね。
確かめようにも、大人になってから立場が逆転して、彼女に気軽に話しかけられなくなったし。
「大丈夫ですよ」
そう言って、私はコリンナに手を差し出す。
「手を繋ぎましょうか。こうすればコリンナ、震えが治りましたよね」
「……お姉ちゃん風吹かせてんじゃないわよ。でも……」
差し出された私の手を、コリンナは震えた手で握る。
「まあ……暗いとこが怖いっていうのは否定出来ないけどね。恥ずかしいけど……あんたの言葉に乗らせてもらうわ」
徐々にコリンナの震えが治まっていく。
言葉は少々捻くれているものの、女の子らしい彼女の仕草に頬が綻んだ。
こうして手を繋いでいると、昔のことを思い出す。
いつも「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と言って、私の後を付いてきたコリンナ。
些細なことでも成功すると、「お姉ちゃん、褒めて!」と笑顔で寄ってきてくれた。
そんな彼女が闇魔法に目覚めるとは、なんと皮肉なことだろうか。
……いや、闇を怖がっていた彼女だからこそ、闇魔法を上手く扱えなかった。
だからこそ、前回の戦争で暴走してしまったんじゃ──そう思えた。
「あっ、ここで行き止まりのようですね」
壁のようなところに突き当たり、私たちは足を止める。
「扉になってるみたいだわ。鍵は……かかっていないみたい」
「こんな暗いところに部屋があるのは、ますます怪しいですね。やはりこの先に──」
アネットちゃんがいる──。
私はコリンナと視線を合わせて、お互いに頷く。
「行きましょ。さっきから、外がさらに騒がしくなってきた。あまり時間は残されていないかもしれない」
「ええ」
私はドアノブに手をかける。
扉を開けると、周囲の薄暗さを一掃するような眩さが目を覆った。
反射的に腕で目を隠してしまう。
「ここは──」
ようやく明るさに慣れてきて、目をどかすと──部屋の奥、アネットちゃんを発見した。
「アネットちゃん!」




