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57・アネットちゃん奪還作戦

 アネットちゃんを救う具体的な案も出ず。

 コリンナの協力すら取り付けられず、悶々とした気持ちのまま一夜を過ごした。


 しかし朝になり、なにやら屋敷の外が騒がしい。



「──バレた」

「何故だ。最新の注意を払っていたはず──」

「──転移──は」



 断片的な内容しか分からないけど、どうやらトラブルが起こったらしい。

 現に今朝はご飯の提供もなく、バティストも姿を現さなかった。


「チャンスかもしれない」


 呟く。


 このトラブルに乗じて、建物内でいるであろうアネットちゃんを探しにいく。

 なにかの罠である可能性も否めないが、このチャンスを逃せば、二度と現れない気がした。



 もしかして、レオンが助けにきてくれたのでは──。



 そう考えるが、楽観視はいけない。

 それにレオンが助けにきても、アネットちゃんを救えるだけの猶予があるとも限らないんだし。


 コリンナと協力体制を敷くことは出来なかったけど、これなら……。

 覚悟を決めて、部屋を出る前。


「そうだ」


 ()()()()を取り外して、私は声を吹き込む。


 手離すのは心細いけど、そうも言ってられないのが現状だ。

 レオンはこうなることを予測して、私に()()を渡してくれたのかもしれない。考えすぎかな?


 操作を終え、私は静かに部屋を出た。

 案の定、部屋の外には誰もおらず、これだけでも異常事態であることが分かった。


「急ごう」


 根拠は薄い。

 だけどバティストに言ったことが本当なら──。


 走り出してしばらくして、私はすぐに自分の軽率さに気付くのであった。


「おい! そこでなにをしている!」


 後ろから声。

 振り向くと、軍服に身を包んだ男の兵士がいた。

 胸元にある胸章は……帝国軍のものだ。


「貴様はバティスト様から話を聞いていた、光魔法の使い手だったな? 確か名をフィーネという」

「ひ、人違いですっ!」

「待てっ!」


 廊下を駆け、遭遇してしまった帝国兵から逃走を図るが、私の脚力ではすぐに追いつかれてしまった。

 行き止まりで足を止め、私は帝国兵を見据える。


「手こずらせるな。全く……ただでさえ、ランセル公爵とエアハルトだとかいう王都の騎士団長に手を焼いてるってのに、逃げ出しやがって……」


 ランセル公爵──レオンだ。

 やっぱり、レオンが助けにきてくれたのだ。

 嬉しさで顔が綻びそうになるが、まずはこのピンチを切り抜けなければならない。


「おとなしくしていれば、怪我はさせない。これ以上、手こずらせんじゃねえよ──」


 帝国兵の手が私に伸びる。


 なんとか躱わそうと、体を捻り──。



「あんた、バカなの? 一人でなんとかなると思ったわけ?」



 女性の声と同時、私に手を伸ばす帝国兵の体が黒い炎で包まれた。


「うわあああああ!」


 悲鳴を上げながら、地面に倒れる帝国兵。そのまま立ち上がる気配はなかった。


「コ、コリンナ!?」

「いくら治癒魔法や光魔法が使えるからといって、一人じゃなんにも出来ないでしょ? まあ……この混乱に乗じて、行動した勇気は褒めてあげるけどね」


 彼女──コリンナがゆっくりと私に歩み寄る。

 その所作は貴族令嬢として洗練されており、澱みない歩調であった。


「安心して。そいつ、殺してはいないわよ。ってか、私なんかの闇魔法じゃ殺せない……って言う方が正しいかしら。気を失ってるだけよ。それに──いくら帝国兵でも殺しちゃ、お人好しのあんたは罪悪感を抱くでしょ? 私がやったこととはいえね」


 私の目の前で立ち止まるコリンナ。


「コ、コリンナ、どうしてここに?」

「気が変わったの。どうせ、アネットっていう娘を探しにいくんでしょ? 私も行くわ」

「え!?」


 彼女の言ったことに耳を疑い、変な声が出てしまった。


「そ、それは本当ですか!?」

「なによ。私じゃ足手まといだって言いたいの?」

「そんなことはありませんが……」

「よくよく考えたら、あの男──バティストの言いなりになるのは嫌だからね。あいつのことは信頼ならないって思ったのに……また信じそうになった。私、どうやら男運がないみたい」


 肩をすくめるコリンナ。

 表情は柔らかかった。


「あ、ありがとうございます、コリンナ! あなたが来てくれると、心強いです!」

「べ、別にあんたを助けようって思ったわけじゃないわよ。私はただ、自分の気が済むようにやりたいだけ。それに……」


 コリンナは小声になり、こう続けた。


「……姉をほっておけないし」

「え? なんて言いました?」

「な、なんでもないわよ!」


 問い返すが、コリンナは気まずそうに顔を背けた。


 コリンナの手を借りられるとは思っていなかった。しかし心強いのは事実である。

 他に考えがあるかもしれないけど……先ほど、彼女がいなければ、帝国兵に捕まっていたのは事実だ。

 これから先に起こるであろう戦いのことを考えても、コリンナが味方になってくれるのは有り難い。


「……で、アネットっていう娘はどこにいるわけ? まさかアテもなく探すつもりだった? さすがにそんな時間はないわよ」

「いえ……一つ、心当たりがあるのです」


 私はバティストの言ったことを思い出す。



『あなたが探している子なら、もっと暗く深いところにいますよ』



 暗く深いところ──これをそのまま信じるなら、建物の地下に当たる場所ではないだろうか?

 見つけやすいところにアネットちゃんがいるとは思いにくいし、匿う場所として地下はうってつけの気がする。


「なるほど……ね。あんたにしたら、よく考えたわね」


 ふんわりと微笑むコリンナ。


「なら、私もその場所を知っているかもしれないわ」

「ど、どこですか!?」

「私はあんたと比べて、ある程度自由を許されてるって言ったじゃない? 部屋に引きこもってても暇だから、建物内を散策してたわけ。そして昨日……地下に続く階段を見つけた。

 もっとも、階段の前には帝国兵がいて、それ以上は踏み込めなかった。だけど今なら、あるいは……ってね」


 ──希望の光がだんだんと強くなる。


 それにしても、コリンナは本当に暇だから建物内を散策したのだろうか?

 もしかして彼女なりに、アネットちゃんの居場所を探っていたのでは──。


「ぼーっとしてんじゃないわよ。案内するわ。行きましょう」


 とひとりでにコリンナは歩き出す。


 私はすぐに彼女の背中を追いかけた。


「コリンナ、重ね重ねありがとうございます」

「……はあ」


 コリンナは溜め息を吐き。


「やっぱあんた、お人好しね」

「……? どういう意味ですか?」

「私に騙されてるとか思わないの? バティストとまだ繋がっていて、そこに誘き寄せようとしているんじゃ……って」

「確かに、その可能性もありますね。だけどあなたは私の妹ですよ。妹の言ったことを疑う姉はいません」

「……っ! もうっ! やっぱあんたといたら、調子が狂うわ。それに私はあんたのことを姉だって認めないからね!」


 再び顔を逸らし、前を向くコリンナ。

 気のせいかもしれないが、その横顔は薄い朱色に染まっているようにも見えた。




 何度か階段を降り、私たちは地下に続く階段を目指した。

 その最中、何人かの帝国兵に遭遇してしまったが……コリンナのおかげで、掻い潜れていた。



「ここよ」

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