51・夢
夢を見ていた。
あれはずっと昔──まだ妹のコリンナと仲が良かった時代だ。
今のコリンナからは考えにくいけど、昔の彼女はいつも私の後ろに隠れているような少女だった。
自分の言いたいこともなかなか口にしない、弱気で臆病な少女。
そんな彼女は暗い場所が怖かった。
深夜──お父様が癇癪を起こし、コリンナを馬車小屋に閉じ込めた。
夜の馬車小屋は暗く、お化けが出てきそうな場所だった。唯一ある窓から差し込む月明かりも心許ない。
何年か経ち、コリンナが治癒魔法の腕をめきめきと伸ばしてから、今度は私の部屋としてそこをあてがわれたのは皮肉な話だ。
ともかく──昔の私はコリンナを助けるため、馬車小屋に向かった。
怖がりな彼女はきっと、暗い馬車小屋は地獄のような場所だと思ったから。
密かに鍵を盗み、馬車小屋の扉を開けた時──コリンナは丸まって、嗚咽を漏らしていた。
『お姉ちゃん……?』
コリンナが顔を上げ、私を見つける。
『もう大丈夫だよ。一緒にここから出ようか』
『でも……そんなことしたら、お父様にさらに怒られる。それにお姉ちゃんもきっと……』
『私のことなら心配しないで』
私はコリンナを優しく包み込み、彼女の背中を撫でる。
『だったら、一緒にここで一晩過ごそうか。私と一緒だったら、怖くないでしょ?』
『うん……!』
子どもらしい笑顔を浮かべて、コリンナは私の胸に顔を埋めた。
彼女と過ごす夜は怖くなかった。
いつの間にか私の胸の中で寝るコリンナは可愛く、今の面影はない──。
◆ ◆
目が覚める。
「ん……ここは」
瞼を開けると、見知らぬ部屋だった。
徐々に記憶が鮮明になってくる。
走るアネットちゃんを追いかけていると、屋敷の敷地外に出て。
彼女を強引に止めると、後ろから布のような口元に当てられ、意識を失ってしまった。
睡眠薬のようなものが布に、きっと染み込まされていたんだろう。
馬車小屋の夢を見ていたからかもしれないけど……今いる場所は、さほど酷い場所ではなかった。
こうして横になっているベッドはふかふかだし、床に敷かれている絨毯は高級そう。
少し狭い部屋だと感じたけど、生活していくにはなにも問題はない。
そんな部屋だった。
ここがどこなのかは気になるけど……今の私は先ほど見た夢のことを思い出していた。
「なんで私、あんな夢を見ちゃったんだろう……」
コリンナがまだ、私のことを『お姉ちゃん』と呼び、慕ってくれた頃の記憶だ。
記憶の中にある彼女は身長以上に小さく見え、思わず守ってしまいたくなるくらい。
今思えば、私のお母様が亡くなってから、コリンナの態度は徐々に変わっていったように思える。
その頃には闇魔法の素質に目覚めていたのだろうか?
もしかしたら、それが原因でコリンナはおかしく?
「ここで考えても分からないよね……」
なんにせよ──あの時、私はもっと早くコリンナの異常に気付き、もっと愛情を注いでいたら……今のようになっていないかもしれない。
「アネットちゃんもどこに行ったんだろう?」
次から次へと思考が移行していく。
そう──昔のコリンナとよく似たアネットちゃん。
私がアネットちゃんのことを気にかけるのも、コリンナについて後悔があったからかもしれない。
コリンナと今でも仲が良かったら。
そんな思いをアネットちゃんに託し、彼女の笑顔を見たいと強く思うようになった。
「うん……このままじゃ、いけないよね。やっぱり、アネットちゃんの笑っているところを見たい」
そのためにはまず、この部屋から出てアネットちゃんを探さなければならない。
ベッドから出ようとすると──。
「お目覚めになりましたか」




