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40・レオンの弟

新章開始につきまして、WEB版の設定をいくつか変更しています(書籍版をお読みの方は、読み流しても大丈夫です)


・剣神の名前を『ボニファーツ』から『バティスト』に変更。

・『隣国バヴェニ』を『帝国』に変更。

・戦争が終わり、捕えられたのは『コリンナ』だけではなく、『バティスト』もいる。

「それで……私に話というのは?」


 朝の挨拶(?)も終わり、私はレオンにそう話を切り出す。


「うむ」


 すると一転、先ほどまでのリラックスした雰囲気とは打って変わって、レオンの表情が真剣なものになった。


「実はな……君に行ってほしいところがあるんだ」

「行ってほしいところ……ですか」

「そうだ」


 どこだろう……。


 でも、私の行くべき場所なら一つしかない。

 ここに来てからは機会こそ少なくなったものの、私は元々軍医である。今まで色々な戦場を渡り歩いてきた。

 きっと戦場に行き、軍医として働いてほしいということだろう。


「分かりました!」

「ん?」


 私が先んじて返事をすると、レオンはきょとんとした表情をする。


「どんな戦場でも頑張ります! なにせ私はこのために腕を磨いてきたのですから! 一体どこの戦場でしょうか? すぐにでも派遣──」

「君はなにを言っているんだ」


 と呆れたようにレオンが溜め息を吐く。


「戦場に行ってもらう必要はない」

「え……? 私、軍医なのに? 契約書にも書かれていたはずです。私の治癒魔法はランセル公爵家のために使うこと──と」


 私がレオンと結んだ契約は、主に三つだ。



 一・公爵夫人として、ふさわしい姿を心がけること。

 二・公の場では夫婦として、仲睦まじい様を見せること。

 三・フィーネの治癒魔法はランセル公爵家、ならびに騎士団のために使用すること。しかしこれは強制ではなく、フィーネの活動は原則として自由とする。



 つまりレオンは、私の軍医──治癒士としての能力を高く買っていると言うことだ。

 それなのに「戦場に行ってもらう必要はない」と言い出すということは……。


「私……クビですか? 離婚ですか?」

「クビにもしないし、離婚もせん! ぞっとするようなことを言うな!」


 語気を強くするレオン。


「そもそも君は忘れたのか……俺たちの結婚はただの契約結婚ではない。あの契約書は──」

「いきなり結婚を申し入れては、フィーネ様を不安にさせると思い──用意したものでしたね」


 レオンが言いにくそうにしているのに代わって、アレクさんが説明してくれた。

 そんな彼をレオンは非難がましい目で見てから、再度私に視線を戻す。


「……そういうことだ。ゆえにあの結婚契約書の内容は一旦、忘れてもらいたい。君が望むなら、二度と戦場に軍医として行く必要はないのだ」

「そ、そうでした……」


 分かっていはずなのに、今の生活が幸せすぎて、「もしかして、夢なんじゃないか?」と未だに思ってしまう。

 レオンからの愛を疑ったことはないけど、どうして私なんかに惚れたのかも分からなくて。

 つい『この結婚は契約的なもの』と自分を納得させるために、辻褄を合わせてしまう。


「ですが──これからも必要とあらば、軍医として働きたいと思います。今まで、戦場ではたくさんの方々に助けてもらいました。その恩返しをしたいんです」

「恩返しという話なら、もう十分していると思うが……まあいい。そう言うなら、俺は君の意見を尊重する。だが、今回はそういうことじゃないんだ」


 コホンと咳払いを一つして、レオンは話を続ける。


「サイラス──という名を覚えているか?」

「ええ、もちろんです。レオンの弟様ですよね」


 一人っ子だと思いがちだけど、レオンには弟がいる。

 それがサイラス・ランセル。

 数年前に結婚して家を出て、今は郊外の屋敷でひっそりと暮らしているのだという。


 だけど……。


「確か……ご結婚されて家を出たけれど、サイラス様の奥様はもうお亡くなりになられているんですよね?」

「そうだ」


 とレオンは頷く。


「それから、サイラスは子どもと二人で暮らしているんだ。そこまでは説明したと思う」


 サイラス様の娘様も、元々は亡き奥様の連れ子らしい。

 ややこしい事情があるそうなのだが、親族とはいえ、あまり他人の家庭に首を突っ込むのは行儀が悪いだろう。

 だから深くは詮索してこなかった。


「サイラスは前々から、一度君と顔を合わせたいと言っていてな。今まで帝国との関係が緊迫化していたため、なかなかその機会がなかったのだが──そろそろ良い機会だと思ったんだ」

「そうだったんですね。私もサイラス様には一度、ご挨拶差し上げる必要があると思っていたんです」

「君がそう言ってくれて、俺も安心するよ。サイラスも忙しく、なかなか自分の屋敷から出ることが出来ないらしい。だからフィーネ自身が、そこまで足を運ぶ必要があるんだが……」

「……? レオンは行かれないんですか?」


 話を聞いていて違和感があったので、そう問いかける。


 するとレオンは心から申し訳なさそうに。


「……ああ。本来なら、俺も行くべきだと思う。しかしサイラスと会える日は、丁度王都の騎士団と合同演習があってな。どうしても、俺はそっちに行かないとダメなんだ」


 あら、残念……。


 だけどレオンはランセル騎士団を率いる立派なお方。

 王都の騎士団といったら、国を代表する組織だし、そんなすごい方々と合同演習をするのだ。

 レオンが行かないわけにはいかないだろう。


 彼が一緒に来てくれないのは、ちょっと不安だったけど──私も公爵夫人。彼に甘えてばっかではいけないのだ。


「分かりました。私一人でサイラス様のところへ、ご挨拶に行こうと思います。ご心配なさらないでください。あなたの弟様に、失礼なことはしませんから……!」

「ありがとう。だが、そう気負いすぎなくてもいいんだぞ。それに君一人で行くんじゃなくて……」


 とレオンが口を動かそうとすると、既になにかしらの打ち合わせをしていたのだろうか、アレクさんが一歩前に踏み出す。


「私も同行させていただこうと思います。サイラス様のお屋敷までは、馬車で半日はかかる計算です。フィーネ様一人では、危険ですからね」

「それは心強いです。ですが、アレクさんは合同演習に行かなくてもいいんですか? アレクさんも騎士なのに……」

「私は騎士としても、臨時職員みたいなものですからね。合同演習にはレオンだけではなくゴードンも行きますし、私がいなくても失礼にはあたらないでしょう」


 にっこりと柔らかい笑みを浮かべるアレクさん。


「よし、決まったな。日程は──」


 レオンから詳しい日程は事前の準備を聞き、この場はお開きとなった。

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