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38・目覚めの朝

新章開始です。

なお、新章開始にいたしまして、WEB版の設定をいくつか変更しています(書籍版をお読みの方は、読み流しても大丈夫です)


・剣神の名前を『ボニファーツ』から『バティスト』に変更。

・『隣国バヴェニ』を『帝国』に変更。

・戦争が終わり、捕えられたのは『コリンナ』だけではなく、『バティスト』もいる。

 暗い夜道を歩いていた。



「怖いよぉ……」



 しくしくと泣きながら、小さな女の子が一人で歩いている。

 どこまで行っても、道は暗いままだった。どこまで続いているのかも分からない。


 少女は泣きながら、こう口にする。


「助けて──お姉ちゃん」




 

 ◆ ◆


「ん……」


 眩しさを感じて、目を開ける。


 窓から爽やかな太陽の光が差し込んでいた。


 上半身を起こして、ぐーっと背伸び。

 ふかふかお布団の感触が心地よく、つい寝すぎてしまった。



「フィーネ様、お目覚めですか?」



 扉のノックの音。


 私が「はい」と返事をすると、扉が開いて中に一人の女性が入ってくる。


「おはようございます。今日は良い天気ですね」


 と彼女──エマさんが声を発した。


 彼女はこの屋敷の侍女。

 そして私専属の侍女であり、なんでも話し合える友達でもある。

 いつも明るい彼女に、私はこれまでもたくさん元気をもらってきた。


 まだ起きたばっかりで頭がぼーっとしているけど、エマさんを見ていたら、自然と口角が上がる。


「そうですね。こんな日は気分が上がります」


 昔の私はそうでもなかった。

 だって、いくらお外が良い天気でも、ろくに外出することが出来なかったからだ。

 それよりも雨粒の音が外から聞こえるような天気の方が好きだった。


「ふふふ、フィーネ様も言うようになりましたね。私も今日のような天気の方が好きです」


 そうだ──とエマさんは手を打ち、こう続ける。


「あっ、そうそう。レオン様がお呼びです。目が覚めたら、俺のところへ来るように──と」

「レ、レオン様が? 早く行かないと!」


 すぐにベッドから離れて、レオンのところへ向かおうとするけど、エマさんはそれを手で制する。


「そう慌てる必要はありません。それに今の格好じゃ、レオン様に顔見せ出来ないでしょう?」

「そ、そうでした……」


 寝衣しんいのまま、レオン様の前に立つわけにはいかない。



 公爵夫人にふさわしい姿を心がけること──。



 レオン様と交わした、あの契約書の内容を思い出す。


「こんな姿のまま、レオン様に会うわけにはいきませんよね。『はしたない!』と幻滅され、離婚されちゃうかも……」

「そんなことで離婚されないですよ!」


 エマさんがツッコミを入れる。


「いいですか? 離婚はされないですが……女の子というのは、好きな男の前では美しい自分でありたいものです。そうですよね?」

「好きな──」


 その言葉を聞いて、頬に熱を帯びていくのを感じる。


「もちろん、起きたばかりのフィーネ様もとても麗しいです。まるでお伽話の中に出てくる女神様のようで……」

「お、大袈裟ですよ」

「大袈裟ではございません。しかし女の子として、美しくありたいという願望とはまた別の話。今からしっかりおめかしをして、レオン様を喜ばせましょう」


 ふふふ……と含み笑いをするエマさん。

 その両手には、いつの間にか化粧道具が握られていた。


「フィーネ様! そちらの椅子に座ってください。今から三十分で、あなたの美しさをさらに際立たせてあげましょう!」

「は、はいっ!」


 エマさんに背中を押されて、強引に椅子に座らされる。


 鏡の前の自分を見つめる。


 銀髪に真っ白な肌。家族からは「お化けみたい」と気味悪がられたけど、ここの人たちはそんなことを言わない。

 実家にいる頃は痩せがちだった体も、ここに来てからは十分に改善されたと思う。


 エマさんがおめかしをしてくれている間に、私は今までのことを思い出していた。




 私──フィーネはヘルトリング伯爵家の長女である。


 しかし私は侍女だった母と父が不貞でこさえた、望まれない子どもであった。


 ゆえに両親の愛情はその後に生まれた、妹のコリンナに向けられることになった。

 コリンナには類稀なる治癒士としての才能があり、聖女として崇められていた。


 一方の私は戦場に派遣され、軍医としてくたくたになるまで働かされていたから、大違いだ。

 まあ……戦場にいる騎士や兵士の方々は、みんな親切なので、特に不満はなかったけど。


 そんな私に転機が訪れる。


 妹の代わりとして、レオン・ランセル公爵様と結婚することになったのだ。


 最初は愛のない結婚だと思った。

 彼は私の治癒士としての能力を見込んで、結婚を申し出ただけ。現に結婚契約書も渡されたし、そのことがさらに『結婚契約』としての特徴を際立たせていた。


 しかし違ったのだ。

 レオン様と平和な日々を過ごしていくうちにつれ、私は彼からの不器用な愛情に気付くことになる。


 そして先の戦争で、妹コリンナが闇魔法の力に覚醒し、私たちに牙を向いた一件で──レオン様からの愛情を深く感じた。

 今では愛のない結婚なんて言うつもりはない。


 コリンナは聖女の名を剥奪され、私はレオン様と幸せな結婚生活を送っていた。




「はい、終わりました」


 今までのことを思い出していると、エマさんがこう声を出す。

 鏡の前にはいつもの服に身を包み、髪も整った自分の姿が映っていた。


「ありがとうございます。これでレオンの前に立っても、恥ずかしくありません」

「お礼なんて必要ありませんよ。そんなことよりも……」


 ぐいっとエマさんが顔を近付けてくる。


 え?

 いきなり、どうしたんだろう……。


「確か、レオン様のことは呼び捨てにするんじゃなかったですか? まだ『様』付けしていますよ」

「……っ!」


 エマさんに指摘され、私は胸の鼓動が高鳴った。


 そう……。

 レオン様と口づけを交わしたのち、彼は「レオンと呼んでほしい」と私に頼んできたのだ。

 その時は場の雰囲気もあって、自然と『レオン』と呼ぶことが出来たが……今でも気を抜いてしまうと、いつもの『レオン様』呼びに戻ってしまう。


「きゅ、急には変えられませんから……」

「昨日今日の話ではないでしょう。あれから、どれだけ日にちが経っていると思うんですか」

「そ、それにレオンは私にとっては救世主のようなお方で……そんな人を呼び捨てにするのは、やっぱり勇気がいることといいますか……」

「もうっ!」


 言い訳をする私の肩を掴み、エマさんは前後に揺らす。


「これじゃあ、いつまで経っても前に進めないじゃないですか! 結婚しているのに、口づけも一回きりなんでしょう!?」


 レオン様に呼び出され、口づけを交わしたことは、エマさんに伝えている。


「そんな経験、ここに来るまでしたことがなかったですから……少しずつ前に進めていけたらなあ……と」

「そんなんじゃ、お二人ともお爺ちゃんとお婆ちゃんになってますよ」


 彼女の言うことはごもっともなことだ。


「私は他の仕事があるので、ご同行出来ませんが──今からレオン様に会ったら、ちゃんと呼び捨てにしてくださいね。あなたへの宿題です」

「きょ、今日じゃないとダメですか? 別の日にでも……」

「ダメです! いいですか!? ちゃんと『レオン』と呼ぶんですよ。そうすれば、レオン様だって喜んでくれるはずです!」


 エマさんの勢いに押されて、私は頷くことしか出来なかった。

朱城怜一先生によるコミカライズ一巻が、1月30日に発売予定となりました!

ぜひ、発売いたしましたらお買い求めいただけますと、幸いです。

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「第二の聖女になってくれ」と言われましたが、お断りです

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Palcy(web連載)→https://palcy.jp/comics/2056
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よろしくお願いいたします!
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