37・不器用な二人の恋
あとがきに、大切なお知らせがあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
夢を見た。
『フィーネは可愛いね。私の天使だわ』
まだ私が子どもだった頃。
お母さんから言われた言葉を未だに覚えていた。
私のお母さんは優しかった。
眠れない夜は子守唄を歌ってくれたし、一緒にいっぱい遊んでくれた。
お父様の私に対するやつあたりも、お母さんが生きている頃はマシだった気がする。
温かくて優しい日々だった。
だけどそんな大好きなお母さんが病気になった。
不治の病だった。
その時から治癒魔法を勉強していた私は、お母さんをなんとしてでも助けようと思った。
しかし──無理だった。
ガリガリになって、顔も黄土色になったお母さんが私の頬を撫でて、最後にこう言ってくれた。
『フィーネ、あなたの力はいつか愛する人のために使いなさい』
幼い頃の私は、まだその意味が理解出来なくて。
そのまま目を閉じて、二度と動かなくなったお母さんの体に覆いかぶさって、一晩中泣き続けていた。
──どうして、こんなに優しいお母さんが死ななければならないんだろう。
私はお母さんを助けられなかった後悔と悲しみから目を逸らすように、今まで以上に治癒魔法に没頭していくことになったのだ。
◆ ◆
「ん……」
そして目覚める。
窓のカーテンを開けると、すっかり朝日が昇っていた。
「ちょっと寝坊しちゃったかな……?」
別に用事があるわけじゃないけれど、早起きするのが癖になってしまっているので、朝日が昇ってから起きるのはなんだか悪いことをした気分になる。
うーんと背伸びをして目元に手をやると、指に水滴が付いた。
「私……泣いてたの?」
そんな自覚はなかったのに……。
きっと久しぶりにお母さんの夢を見たからだろう。
そしてお母さんの夢を見たのは、先日の事件がきっかけで……。
「フィーネ」
ドアをノックする音の後、扉の向こうから声が聞こえてきた。
レオン様の声だ。
「はい?」
「話があるんだ。入ってもいいか?」
「わ、分かりました。少し待ってくださいね」
私は手短に朝の身支度を済ませてから、扉を開けてレオン様を中に招き入れた。
「すまない、こんな朝早くから」
「いえいえ、問題ありません。そんなことよりお話というのは……?」
なにか、すっごく重要なことな気がする。
レオン様は私を真っ直ぐ見つめて、こう口を開いた。
「先日のことだ。君は光魔法の使い手だった。その処遇に関しての話だったが……」
「……はい」
俯き加減に返事をする。
問題を先延ばしにしていたけど、とうとうやってきた。
レオン様がこれから言わんとすることが、さすがの私でも分かり、思わず息を呑んでしまう。
「光魔法の使い手は希少だ。本来なら、君の存在を陛下に報告する義務がある」
「…………」
「とはいえ、そうなっても悪いようにはならないだろう。少々忙しくなるかもしれないが……地位は約束されたようなものだ。場合によっては『聖女』の肩書きを教会から与えられ、人々からは尊敬の眼差しで見られることになる」
レオン様は淡々と事実を口にする。
そう……これは分かっていたこと。
それほど光魔法の使い手というのは、国にとって有益なものなのだ。
コリンナの一件もあって、教会の権威は失墜している。教会は光魔法の使い手である私を、なんとしてでも担ごうとするだろう。
だけど。
「……そうなったら、ここから出ていかなければいけませんよね?」
「そうだな。俺は公爵家だし、結婚が無効になることはないと思う。しかし……フィーネがこの屋敷に戻ってこられるのは、多くて半年に一回。今まで通りの生活は出来ないのだ」
無表情のままのレオン様。
ここまで事務的に言うのなら、もしかしたらレオン様にとってこの問題はどうでもいいのでは? ……と思ってしまい、寂しくなる。
だけどきっとそうじゃない。
彼との付き合いはまだ短いけど……なんとなくそう思った。
「私は……」
慌てずゆっくりと。
私は自分の考えをレオン様に伝える。
「地位なんて必要ありません。人々からの尊敬だなんて、私にはもったいないです。ただ……私はレオン様と一緒に暮らしたい」
それが先日からずっと考えてきた私の思いだ。
確かに、光魔法の使い手として王都に行けば、今まででは考えられないくらいの生活を送れるかもしれない。
歴史にも名が残るだろう。
しかし私にとっては、そんなもの──糞くらえだ。
そんなものより、私はアレクさんやエマ、ゴードンさん──そしてレオン様と平穏に暮らしたい。
「やはり、こう考えるのはダメですよね……? 私の存在を陛下に隠すとなったら、公爵家にも迷惑をかけますし……」
私の話に、レオン様は言葉を挟まずにしっかりと聞いてくれた。
そして溜め息を吐き。
「そんなことを考えていたのか。迷惑などというのは考えるな。俺はちっとも迷惑じゃない」
「で、でも……レオン様にとって、私はそこまでするほどの存在ですか? なにせ、この結婚は契約的なもの。レオン様にとって『利』がないものとするなら、簡単に切り捨て……」
「フィーネ」
レオン様はそう言って、私の両肩を掴む。
え……? と思うのも束の間、彼のキレイな顔がぐんぐんと近付いていった。
そして──私たちは口づけを交わしていた。
頭が真っ白になる。だけど幸せ。
レオン様の顔がゆっくり離れていくと、彼は少し照れた表情になった。
「まだそんなことを思っていたのか? この結婚は契約的なものではない。俺は君に一目惚れし──そして愛している」
「愛して……」
「それとも君は俺のことが嫌いか? 俺が感じる君への思いは、一方通行だったのか?」
不安そうなレオン様の表情。
ここにやってきたばかりなら、すぐに答えることが出来なかっただろう。彼への愛を信じきれなかった。
でも今なら言える。
「そんなことはありません。私もレオン様を愛しています」
意外にも恥ずかしがらずに言えた。
私が言うと、レオン様は嬉しそうに微笑んで。
「……そうか。なら決まりだな。君が光魔法の使い手だという事実は隠蔽する。しかしいくら隠しても、いつかは漏れてしまうかもしれない。王族の連中が血相変えて、君を攫おうとするかもしれない。
だけど俺は君を守る。攫わせないし、仮に攫われたとしても何度でも君を助けにいこう。それが夫である俺の役目だ」
──これからいっぱい、レオン様に迷惑をかけてしまうかもしれない。
だけどそこまでしてでも、私は彼と一緒になりたかった。
だから彼の目を真っ直ぐ見て、私はしっかりと頷くのであった。
「それから言いたいことはもう一つある」
「それはなんですか?」
レオン様は少年のように頬を一回掻いて、じゃっかん私から目線を外してこう言った。
「で、出来れば、君には俺を呼び捨てにして欲しいんだ」
「レオン様の名前を……?」
「そうだ。もちろん、公の場になったらそういうわけにもいかない場面が出てくるだろう。だが、せめて二人きりの時には『レオン』と呼んで欲しい。俺の我儘か?」
さっきよりも声が震えている。
ふふ、可愛い。
彼にとっては私に呼び捨てにしてもらうことの方が、断られる可能性が高いと思っているのだろうか。
「それくらいなら、お安いご用です。不束者ですが、これからもよろしくお願いします──レオン」
私がそう名前を呼ぶと、レオン様は心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべたのであった。
【作者からのお願い】
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
これでこの作品は本編は完結となります。
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