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22・魔法解禁となりました

 あの一件があってから。


 またレオン様に怒られたくないので、部屋でおとなしく過ごしていると……突然お呼びがかかった。

「また怒られるのか」と思い、戦々恐々としながら執務室に向かうと。



「魔法を解禁する」



 と開口一番、レオン様がそう口にした。


「へ……?」

「どうした、嫌か?」


 私は慌てて首を左右に振って、否定の言葉を紡ぐ。


「そ、そんなことはありません! ああ……ようやくレオン様のお力になれる日がきたのですね!」

「別に君の魔法を役立たせて欲しいわけではないが……」


 レオン様が疲れたように息を吐く。


「俺も反省してな。心配──という言葉に逃げて、君のことを束縛しすぎていたかもしれない。先日のゴードンとの一件も、元はといえばそれが原因だった気もするしな」


 ギョロッ。

 レオン様が鋭い眼光を向ける。


 よくこうやって、彼が怖い顔をしてくるのだが、エマに相談すると「元々レオン様はああいう顔なんですよ」と言われた。どうやら怒っているわけではないらしい。

 だけど、だからといって怖いわけではなく、思わず私は身震いしてしまうのであった。


「だから魔法を使ってもらっていい」

「ありがとうございます!」

「しかし! 二つ条件がある。一つ目は治癒魔法以外は使ってはいけないということだ。肝に銘じろ」


 ……ん?

 そもそも私は治癒魔法しか使えないと思うんだけど……。


 あ、でもそのことをレオン様にちゃんと説明していなかったかもしれない。だからレオン様はこんなことを言っているのかな?


「そして二つ目は『一日一回』だけだ。とはいえ、これも様子を見て、徐々に条件を緩和していくつもりだ。どうだ? 守れるか?」

「は、はい。一日一回というのは物足りない気はしますが……頑張ります」


 ぎゅっと握り拳を作る。


 ちょっと過保護すぎる気がするけれど、これもレオン様が私を心配してくれてのことだ。

 約束を破って倒れたら、今度こそレオン様のデコピンが炸裂するかもしれない。


 あれはゴードンさんの固そうな額ですら、しばらく赤く腫れたままになっていた。

 絶対に約束を破らないでおこう。


「それならレオン様。私、騎士団の訓練所にもう一度行きたいです」

「訓練所か? 今日もゴードンが騎士に訓練を施していると思うが……それだけだぞ? 本当にいいのか?」

「はい。もしまた、怪我人が出たら私の治癒魔法がお役に立つかもしれないでしょう? 私、いっぱいみなさんのために働きたいんです!」


 レオン様が優しいから、時々忘れそうになるけれど、この契約結婚では私の存在価値を示し続ける必要がある。

 そうじゃなくても、頑張っている人がいれば、私の方法で応援してあげたい。だからこそのお願いだった。


「まあ君がそうしたいなら許可しよう。それに怪我人を治療出来る者がいれば、騎士団も助かると思うからな。

 しかし俺は書類仕事が山積みで、どうしても行けない。とはいえ、君一人で行かせるわけにはいかないし、男しかいないような場所にエマを連れていくのも不安だな……よし、アレク。行けるか?」

「レオン様の要請とあらば」


 と今までことの成り行きを黙って見守っていた、執事のアレクさんが返事をする。


「よし、じゃあフィーネを騎士団の訓練所まで連れていってくれ」

「承知しました。フィーネ様を必ずお守りしましょう」

「信頼しているぞ」


 そんなやり取りが終わったのち、アレクさんが私の方を振り向く。


「では行きましょうか、フィーネ様。ご支度は大丈夫でしょうか?」

「大丈夫です! 特に持っていくものありませんから」


 というわけで、私はアレクさんと一緒に訓練所まで向かうことになった。




「そういえば、アレクさんも騎士なんですよね?」


 訓練所に着いて。

 私は近くのベンチに腰掛けて、演習の光景を眺めながら、アレクさんに質問をした。


「ええ。忘れそうになりますか?」

「正直……。アレクさんといえば、私にとっては優しい執事ですから。あの時戦場で見たアレクさんも、幻だと思えてしまうくらいに」

「ふふふ、そう思うのも無理はありません。私の場合は、ちょっと特殊な立ち位置でして……騎士でありながら、こういった演習にあまり参加しないのです」

「それは執事の仕事があるから?」

「それ()あります」


 煮え切らない返事だ。


 アレクさんを疑うわけではないけれど……彼が剣を持っているところも見てみたい。

 そう思うのは贅沢だろうか?



 ──しかしその願いは、思いもよらない形で叶えられることになる。



「おおっ? 臆病坊やのアレクじゃねえか」


 私とアレクさんが同時に、声のする方へ顔を向けた。

 するそこには鎧の兜を取って、面倒臭そうに歩く騎士の姿があった。


「あなた、演習は?」

「俺にはそんなの必要ねえんだよ。なにせ、俺は最強だからな? 練習しなくてもいいんだ」


 ニヤニヤと笑う男。

 この方……なんだか嫌い。人をいつも見下しているようなお方。

 実家にいたお父様と同じタイプの人間だ。


「要はサボりということですか」


 敵意を放つ男に、アレクさんは冷静に対応する。


「それはお前も一緒じゃねえか?」

「どういうことですか?」

「とぼけんな。俺は最近騎士団に入ったばっかりだが、聞いてるぜ? 騎士でありながら、演習に参加しない異形の男。しかも公爵様の身の回りの世話もやっていると聞く」

「……まあ演習に参加しないという意味では、あなたと同じかもしれませんね。それは否定しませんよ」

「はっはっは! よく自分の立場をわきまえているじゃねえか。しかし俺とお前とでは決定的な違いがある。そこで……だ」


 男は二本持っていたうちの一本の剣を、アレクさん目掛けて無造作に放り投げた。

 剣はアレクさんの目の前の地面にすとんと刺さった。


「暇だから模擬戦をしようじゃねえか。俺は最強だから演習に参加しない。しかしお前は臆病だから演習に参加しない。その違いを教えてやろう」

「……やめた方がいい」


 これだけ挑発されているというのに。

 アレクさんからは一切の怒りを感じない。

 それどころか、目の前の無礼な男を気遣うような優しさすら感じ取れた。


「あなたと私の違いはそこじゃない。実力の差も分からないようなあなたでは、私の相手にはならないでしょう」

「なにを偉そうなことをぐちゃぐちゃ言ってやがる──」


 開始の合図もないままに、地面を蹴ってアレクさんに襲いかかる。


 危ないっ!


 そう思ったと同時、私は信じられない光景を目にする。



「だから言ったでしょう?」



 いつの間にか、アレクさんが男の後ろに回り込み、彼の喉元に剣を突きつけていたのだ。


「あなたでは私の相手にはならない──と」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 男だらけの場所にフィーネを一人放り込むほうが危険じゃないか?信頼できるとはいえアレクも男だろう。身の回りの世話をするにもこういうとき付き従うのが専属侍女の役目じゃないか?
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