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53.英雄、王都を訪れる【前編】



 新年を迎え、数日経ったある日のこと。


 俺は賢者キャスコとともに、王都を訪れていた。


 キャスコの転移魔法でここまでやってきた。


 目的は第二王子キースに呼び出されたからだ。


「おおー、街の壁きっちり直ってるなぁ」


 つい先日、街を守る結界が破壊され、街にモンスターたちが暴徒と化して入ってきた。


 その際街とそれを守る壁もずいぶんと酷く破壊された。


「……ですね。すっかり元通りです」


 となりにいる白髪の魔導師が、微笑んで言う。


 彼女はキャスコ。

 元勇者パーティで魔術師をしていた。


 魔王を倒した後は宮廷魔導師として働いていたが、ひょんなことから俺の経営する喫茶店でアルバイトをすることになった。


 手足は細く、顔は驚くほど小さい。

 人形と見まちがうほど美しい少女である。


「これもキースがきっちり音頭とって街の復興に尽力したからだろうなぁ。やるなキース。できるイケメンだ」


「……いいえ、ジュードさんが復興を手伝ったおかげですよ」


「いやいや俺ぁたいしたことしてないって。キャスコは大げさだなぁ」


「……そんなことありませんよ。その証拠に、ほら」


 キャスコが指さす。


「そこにいるのは英雄さんに聖女様ではないですかーーー!!!!!!」


 街を守る衛兵が、俺たちに気付いて、笑顔で駆け寄ってくるではないか。


「こんちわ。久しぶり」

「お久しぶりです!!!! 英雄さん!」


「いやぁその英雄さんって呼び方、やめてくれよ。照れるぜ」


 なぜだか知らないが、王都での騒動を経てから、俺は町の人から【英雄さん】と呼ばれることになった。


 別にたいしたことしてないんだが、どういうことなんだろうね。


「いいえ英雄さん! あなたはこの破壊された王都を、無償で復興を手伝ってくださった! しかもモンスターの脅威を救ってくださった! これを英雄と呼ばずなんというのですか!」


 衛兵がキラキラした目を俺に向ける。

 むずがゆいぜ。


「みんなあなたに会いたがってました! ちょっと待っててください!」


「あ、いや俺はキースに……って、行っちゃった。参ったね」


 俺が頭をかいていると、となりでキャスコがクスクスと笑っている。


「……ほら、言ったでしょうジュードさん。みんなあなたに感謝してるんです」


「そうだったのか……ふぅむ、別にたいしたことした気はないんだがなぁ」


 人助けするのも街の復興を手伝うのも、普通のことだと思う。


 だって困っている人がいるんだぜ。

 その人たちを助けられる力が自分にあるんだぞ。


「その人たちのために力を使うのは、普通のことだと思うんだけどなぁ」


「……そろそろジュードさんの普通は、普通じゃないってことを理解した方が良いと思います」


「そうかー?」


「……はい、そーです♡ けど……そんなところが、素敵です♡」


 キャスコは微笑むと、俺の腕にぴったりと体を寄せてくる。


 この子が俺に好意を持っていることは知っている。

 

 俺もまたキャスコとのことが好きだ。

 

 互いに思いが通じ合ってはいるものの、しかしまだ俺は彼女に告白していない。


 もっとロマンチックな場所で、ということで、俺は今度キャスコたちと旅行へ行くことになっているのだが、それはさておき。


「英雄さーん!」「聖女様-!」


 しばらくすると、衛兵たちがわんさと、俺たちめがけて走ってくるではないか。


「え? え? なんでこんなたくさん……?」


「……それだけみんな、あなたに感謝しているということですよ♡ ふふっ、ほこらしいです♡」


 衛兵たちが俺たちを囲む。


「英雄さん! ようこそおいでくださりました!」

「街を守った英雄のあなたを、おれ、すっげー尊敬してるんです!」

「こんな寒いとこじゃなくて詰め所に来てください! お茶出しますよ!!!」


 見やるとみんな若い衛兵ばっかりだった。

 全員がキラキラした目を俺に向けてくる。

 ま、まぶしい……これが若さかー。


「聖女様もお元気ですかー!」

「ああ! 今日も美しい!」

「おれ、聖女様すきなんだ!」

「ばっかおまえ、聖女様は英雄さんの女なんだぜ?」

「そうなのか! くぅ! うらやましい!」


 衛兵にもみくちゃにされていると、詰め所から年配の衛兵が駆け寄ってくる。


「こらー! おまえら! 何仕事をさぼっている!!」

「げぇ!」「しまった!」「さーせん!」


 年配の衛兵に活を入れられ、若い衆が去って行く。


「すまなかったな、英雄さん。うちの若いもんたちが迷惑かけて」


「いやいや迷惑なんて思ってないよ。みんな元気そうで何よりだ」


「それはおまえさんのおかげだよ。あんたが強力なモンスターたちから、おれたち衛兵を守ってくれたおかげだ。本当に感謝してるよ。うちの若い衆はやる気はあるのだがレベルはまだまだでな」


「いんやぁ。みんな俺なんかよりずっと強くなれるさ。今に街を守る立派な兵士になるって」


 年配の衛兵はニカッと笑うと、俺の背中をバシッと叩いた。


「英雄さんがそう言うならそうなんだろうな。ありがとよ。……さて、英雄さん。用事はなんだい?」


「キースに呼ばれてるんだ」


「なるほど王城へ行くわけだな。ということは【風よけ】が必要になるだろう」


「ん? 風よけ? なにそれ」


 年配の衛兵が、若い子たち数名を、俺の元へ連れてくる。


「こいつらがおまえさんを城までつれていってくれる」


「いやいや自分らでいけるぞ。城の場所ならわかるしな。俺のために時間割く必要ないって」


 すると年配の衛兵が、呆れたようにため息をつく。


「おまえさん……さてはかなりの鈍感だな」

「……ええ、そうなんです。この人ちょっと抜けてるんです」


 キャスコと年配の衛兵が、うんうんとうなずく。


 え、なになに? どういうことなの?


「とにかくこいつらはおまえさんにつける。こいつらも自分たちから志願してきたんだ。お咎めはない」


「いやでも悪いって」


「いいからほらいったいった」


 よくわからないけど、どうやら若い衆たちが俺を城まで案内してくれるらしい。


 どうやら俺が王都に詳しくないと思われているみたいだ。


「そりゃそっか。今の俺は勇者パーティのジューダスじゃなくてジュードだもんな」


「……そういうことじゃありませんよ」


「ん? じゃあどういうことなの?」


「……すぐにわかりますよ」


 そんなふうにしながら、俺は若い連中とともに、王都に入った……その瞬間だった。

「みんなぁ! 英雄さんだ! 英雄さんが王都にお見えになったぞおーーーー!」


 入って最初に俺を見た人が、俺に気付いた瞬間、大声で叫んだ。


「なぁにぃ!?」「英雄さんだって!?」「ほんとだわ! 本物よおぉおおお!」


 ドドドッ……! と街の人たちが、大挙して俺たちに向かって走ってくるではないか。


「ありゃりゃ……どうなってるんだこれ……?」


 凄まじい数の街の人たちが、雪崩のように俺たちのとこへ流れ込んでくる。


「おまえら英雄さんと聖女を守るんだ!」

「「「がってんだ!!!」」」


 衛兵たちが壁となり、俺たち囲うようにして立つ。


 あっという間に俺の周りに、人の山ができあがっていた。


 衛兵が守ってくれなかったら、息もできないくらいぎゅうぎゅうになっていたことだろう。


 彼らが守ってくれているおかげで、なんとか立つスペースが確保できている。


 だがそれでも狭い……。


「英雄さーん! こんにちはー!」

「よく来てくれたね! 英雄さん!」

「きゃー! かっこいいー! こっち向いてぇ!」


 みんなが明るい笑顔を、俺とキャスコに向けてくる。


 あまりの多さに俺は圧倒される。


「聖女様ー!」「あの時は傷を治してくれてありがとー!」「もうすっかり元気になりました! 聖女様と英雄さんのおかげです! 本当にありがとう-!」


 キャスコは民衆に対して、微笑みながら手を振る。


 堂々としたもんだ。


「きゃ、キャスコ……これはいったい……?」

「……もう、だから言ったでしょう? この人たちは、全員あなたに感謝している人たちですって」


「い、いやいや。俺こんなにたくさんの人から感謝されることしてないって……」


「……ふぅん。でも街の皆さんはちゃんと感謝しているみたいですよ。このたくさんの人たちを見てわからないのですか?」


 いやまぁ、確かにたくさん……めちゃくちゃたくさんの人がいるけど……。


「え、みんな俺に感謝してるの? いやいやさすがにそれは大げさすぎない?」


「「「いや大げさじゃないですよ!!」」」


 衛兵たちが総ツッコミを入れてくる。

 え、そうなの……?


「みんなどいてくれ!」「英雄さんが通れないだろ!」「英雄さんたちはキース様に呼ばれてるんだ!」


 衛兵たちがガードしてくれる。

 しかし……。


「きゃー♡ 英雄さんサインして~!」

「英雄さん! うちの生まれたばかりの子に是非さわってください!」

「うちも! あなたに触ってもらえればきっとあなたにみたいな傑物になれるはずですので!」


「英雄さん! 買い物でしたら是非うちに来てください! 全品タダでさしあげます!」

「やいてめえ! 自分だけが英雄さんを独占しようとすんな! 英雄さん、うちにも来てくれ! 最高級の料理をもてなすぜ!」


「ばかやろう! 英雄さんはうちにくるんだよ!」

「いやいやおれんところに!」「いや俺が!」「俺が!」


 ……なんだか知らないが、すごいことになってた!


 衛兵たちが俺たちをガードしてくれなかったらどうなってたことか……。


「……ほらね、必要でしたでしょう」

「ああ、そのとおりだったわ。ごめんキャスコ」


「……いえいえ♡ わたしは本当にうれしいです。あなたが、一度は裏切り者とさげすまれたあなたが、街の人に好かれることが……本当にうれしいんです」


 キャスコが目にうっすら涙を浮かべている。

 

 そう言えば勇者パーティのジューダスは、魔王を前におめおめ逃げた裏切り者ってことになってるんだったな。


 あんまり……というか全然気にして無くて、むしろ忘れてたわそれ。


後編は金曜日(11/15)アップ予定。

土曜日にもあげます。土曜日はグスカスサイドの話です。

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[良い点] もう更新は無いと思っていたのでとても嬉しいです
[一言] 再開ありがとうございます!楽しみに待ってました!!
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