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49.英雄、バイト少女たちへの思いを再確認する


 告白の返事をしに、隣国ネログーマへ行くことを決めてから、数日後。


 朝。

 今日も喫茶店ストレイキャットは、あまり客がいなかった。いるのは常連客くらいだ。


 窓ぎわの席に、ジェニファーばあちゃんが座っている。

 俺はばあちゃんの元へ、おかわりのコーヒーを持って行く。


「ジュードちゃん、聞いたよ。またお店休むんだってねぇい」


 ニヨニヨと、楽しそうに笑うばあちゃん。


「あれ、誰から聞いたの?」

「あたちー!」


 ばあちゃんの膝の上に乗っていた、雷獣少女のタイガが、手を上げる。


「タイガ、おまえか」

「そー! あたちなのですっ!」


 タイガはふよふよと飛んで、俺の頭の上に乗っかる。


 ジェニファーばあちゃんはタイガが雷獣であることを知っている。


 知っているが、それでも変わらずに付き合ってくれている。


 魔獣だからと差別も区別もしない、優しいばあちゃんなのだ。


「それでタイガちゃん、誰とどこへ行くのかえ?」

「はいっ! おとーしゃんと、ハルちゃんと、キャスちゃんとあたちの4人です!」


 タイガが指を三本立てて、そう言った、そのときだ。


「タイガちゃん、それじゃ3だに~」


 カウンターの方から、クッキーのお皿を持った、バイト少女・ハルコがやってくる。


「ハルちゃんっ!」


 タイガが今度は、ハルコの頭の上に乗っかる。

 桜髪の少女が、手に持ったクッキーのサラを落とさないよう、体勢を直す。

 ぶるん、と大きな乳房が揺れた。ふぅむ……相変わらずおっきい……。あ、いかんな。つい目がいってしまう。


「ハルちゃん、あたち、なにか間違ってましたか?」


 不安げに、猫耳をぺちょんと垂らすタイガ。

 一方でハルコは、ニコニコと笑いながら言う。


「ううん、間違いじゃないよ。おしかったね。あと一本足りなかっただけだよ♡」


 ハルコはテーブルにクッキーのお皿を置く。そしてタイガをよいしょと抱っこする。

 タイガの指を手に取って、本数を4にする。


「ほう! 1本足りませんでしたか。これは確かにおしい!」

「ねー、おしかっただけだよ。タイガちゃんは間違ってたわけじゃないよー♡」

「そっかぁー!」


 にぱーっと笑うタイガ。

 

 ハルコはほほえむと、タイガのことをきゅっと抱きしめる。タイガもバイト少女を抱きかえす。


「ハルちゃん、ふにふにだから……すきっ!」

「おらもタイガちゃん、ふにふにしてて好きー」


「おそろいですねっ」

「おそろいだねー」


 えへー♡ と笑うタイガとハルコ。


「おっ、やきたてのクッキーだぁ!」


 ハルコが置いた皿を見て、タイガがキラキラとした目を向ける。


「ばーちゃん! クッキーおいしそうですね!」


 タイガが、ばあちゃんに笑顔を向ける。


「こらこらタイガ。これはばあちゃんの分だぞ」

「ああいいんだよぉジュードちゃん。ほらタイガちゃん、お食べ」

「わーい!」


 タイガがぴょいっとハルコから降りる。

 ばあちゃんの膝の上に、再び乗っかる。


「あ、そうだタイガちゃん。それ焼いたばかりだからちょっと熱いよ?」


 ハルコが注意する前に、


「あちちなのー!」


 タイガがクッキーを一口食べて、舌をやけどしてしまった。


 俺は慌ててカウンターへ行き、氷水を持って、ハルコたちの元へ帰る。


「ハルちゃーん……。舌が痛いよぉ~……」


「そうだね、痛いね。けど大丈夫だよ。すぐに冷やせばすぐなおるからね」


 ハルコがタイガを抱っこして、よしよしと慰めていた。


「……ほんと? あたち死なない?」

「死なないよ~。大丈夫! タイガちゃんはいつまでも元気元気だにっ!」


 明るい笑顔を、ハルコがタイガに向ける。タイガはすんすん、と泣いていたが、


「うんっ!」


 と笑顔になる。


「あ、ほらジュードさんが氷持ってきてくれたよ。これでもう大丈夫!」

「そっかー! 大丈夫かー!」


 俺はタイガを抱っこして、コップの氷で、タイガの舌を冷やす。

 ややあって、タイガの舌の痛みが、すぐに引いたようだ。


「ハルちゃんの言ったとーりだったー!」


 にぱーっと、タイガが輝く笑顔を浮かべる。


「そりゃあ良かったねい」

「良かった良かった」


 ばあちゃんと俺がうなずき合う。タイガは笑顔になると、ハルコの胸にジャンプ。


「ハルちゃん好きー!」

「おらもタイガちゃん好きだよ~」


 むぎゅーっと抱き合うタイガとハルコ。

 仲良きことは良いことだ。


「ハッ……! これはそーしそーあいってやつですねっ!」

「うん♡ おらとタイガちゃん、そーしそーあいだに~♡」


 えへ~と笑顔になるハルコ。それを見て、ばあちゃんがにやっと笑って言う。


「おやハルちゃん、じゃあジュードちゃんのことは好きじゃないんかい?」


 するとハルコが顔を真っ赤にする。


「そそそそ、そんなことないですよっ! おら……じゃない、わたしはジュードさんのことっ、だ、だいしゅ……しゅ……き、です………………ぁぅ」


 最後のほう、ハルコは顔を耳の先まで真っ赤にしていた。

 ぼしょぼしょと、消え入りそうに言っていた。


「ハルちゃん顔真っ赤。やかんさんみたい。どーしたの?」

「ど、どうもしてないよっ! あ、あっちであそぼっか!」


 ハルコはタイガを連れて、そそくさと、その場から去る。


「んで、ジュードちゃんは、ハルちゃんとキャスちゃんに、告白の返事をしに行くと」


 ばあちゃんが俺を見て言う。


「タイガはそこまで言ったのか?」

「いんやぁ、言ってないよ。あくまで旅行へ行くって話だけ。後は勘さね。……しかしそうかいそうかい!」


 ばあちゃんが嬉しそうに、目を細めて言う。


「やっとジュードちゃんも、あの子たちの思いに答えてやることにしたのかい」


「ああ。俺も最近になって、ようやく2人のことが好きなんだなって実感が持てるようになってさ」


 きっかけは王都での事件だった。


 女神の結界装置が壊れ、街にモンスターがあふれかえった。


 ハルコたちのいるホテルがモンスターに襲撃されたとき、俺は大いに焦った。


 ハルコたちが無事なのを確認して、ほっとする自分がいた。……そして気付いたんだ。


 俺にとってタイガも、そしてハルコも、かけがえ無い大切な子なんだと。


「仲間としてじゃなくて、ようやく、女の子として、あの子を見てあげるようになったんだね。うんうん、良かったねハルちゃん」


 我が子のことのように、ばあちゃんが離れた場所にいる、ハルコを見てつぶやく。


「それで、ハルちゃんのどこが好きなんだい?」

「そうだなぁ。優しいとこかな」


 ハルコは俺だけじゃなく、誰にも、とても優しい子なのだ。


 後になってタイガから聞いたのだが、ホテルがぶっ壊れたとき、ハルコがまっさきに、タイガの身体に覆い被さったという。


 自分のみよりも、幼い子の身の安全を守ろうとした。どんなときでも、他者に優しい。


 あの子のそんな優しいところに、俺は惚れたのだ。


「ふふん、ハルちゃんの良いとこ、よーくわかってるじゃあないか。当日はちゃんと、あの子に言ってあげるんだよ」


 わかってる、と俺はうなずくのだった。



    ☆



 数時間後の、ランチタイムにて。


 昼時になると、ストレイキャットは忙しくなる。


 ランチを食べに、若い子たちがやってくるからだ。


 昼は料理を作って出しての大忙し。バイトを2人も雇っているのも、この時間のためと言って良い。


「ハルちゃんミートスパゲッティできたよっ」

「はーい! 今行きまーす!」

「すみませーん、注文お願いしまーす!」

「ひ~。今行きます~」


 俺は基本的に厨房にて、料理を作るがかり。ふたりがそのほかの対応だ。


 ランチタイムはじめは、まだいい。


 問題は中盤、飯を食い終わった客が出てくるときに来る。


「すみませーん、お会計お願いします」

「あ、えっと……キャスコー。へるぷみー」


 俺はキャスコを呼ぶ。

 彼女はととと、と小走りでこっちへ来る。

 キャスコが伝票を一目見ただけで、


「……全部で15ゴールドですね」


 と、瞬時に会計を、脳内で計算する。

 客から金を受け取り、すぐさまおつりを計算して、お客に返す。


「……ありがとうございました♡ また来てくださいね♡」


 上品にほほえむキャスコ。

 客はどちらも男だった。

 でれでれしながら、キャスコに手を振って、店を出て行く。


「……ふぅ」

「ごめんな、キャスコ。助かったよ」


 いえ……とキャスコが微笑を浮かべて、首を振る。


「しかしすごいなぁ。頭の中でばばばって計算できるなんてな」

「……そんな、たいしたことありませんよ」


 俺は料理を作り終える。

 キャスコとハルコが、料理を出す。そして客が会計をしにくると、キャスコがまた即座に計算して、客におつりを返す。


 しばらく戦場のような忙しさが続く。


 ややあって、13時を過ぎたあたりから、徐々に忙しさが解消されていく。


 ランチタイムを終え、店の看板を【CLOSE】にする。

 俺たちの昼休憩の時間だ。


「「ふぅ~……」」


 バイト少女たちが、小さく吐息を吐く。


「おつかれ、2人とも。はい、これまかない」


 カウンターに座るバイト少女たちに、俺はまかないの料理を出す。

 今日はナポリタンだ。


「タイガ~。飯だぞ~」


 俺は二階に向かって声を張る。

 タイガはランチタイムの間、お昼寝をしていた。


 俺が呼ぶと、眠たげなタイガが、二階からフヨフヨ飛びながら、やってくる。


「ふぁあ…………むにゅーい」


 タイガは半眼のまま、カウンターの前に座るハルコのもとへいく。

 そして正面から、ハルコの身体に抱きつく。


「タイガちゃん、おはよ~。お昼ご飯だよ。一緒に食べようね♡」

「うぅ~……ん。いまあたち、ちょっとおねむな気分なの……」


 タイガはしょぼしょぼと目をこすりながら、ハルコのふくよかなおっぱいに、顔を埋める。


 ハルコはほほえみながら、タイガの頭を、よしよしと撫でる。


「眠いんだねタイガちゃん。でもね、ジュードさんがお昼ご飯作ってくれたよ。とってもおいしいナポリタンだよ~」


「ううーん……。眠いから……ハルちゃん、食べさせて?」


 んあっ、とタイガが小さなお口を、大きく開ける。


「うんいいよ♡ はい、あーん♡」


 ハルコがフォークでパスタを巻き取る。

 タイガの口に、フォークを近づけた。


「あーんっ♡」


 タイガがパクッ、とパスタを食べる。

 もぐもぐ……ごくん。


「おいしー?」

「おいしー!」


 タイガがパァッ、と顔を輝かせる。

 俺を見やると、ぐっ……! と親指を立てる。


「おとーしゃんっ、今日のお料理も……とってもべりぐー!」


 太陽のように明るい笑みを浮かべるタイガ。


「べりぐーでしたか。そりゃ良かった」


 作ったかいがあるというもんだ。

 その後ハルコたちが、和やかにランチを取る。


 俺はその間、台所にたまっている洗い物を処理する。

 ランチタイム中は、洗えない。そんな暇ないからな。


 こうして後から洗うのである。


「……ジュードさん」


 俺がお皿を洗っていると、キャスコがパタパタと小走りでやってくる。


「どうした、キャスコ?」


 俺は見下ろしながら言う。

 俺とキャスコでは、身長差がかなりあった。こうしてみるとほんとちっちゃくてかわいいな、この子。


 キャスコは俺を見上げながら、微笑んで言う。


「……お食事いただきました。こっちは任せて、ジュードさんもお昼を食べちゃってください」


 小さな見た目で、お姉さんのように、大人びたことを言うキャスコ。


「いや、大丈夫だよ。ゆっくり休んでくれって」

「……だめですよ。もう、ジュードさんだってお腹ペコペコなんでしょう?」


 苦笑するキャスコ。

 言われてみれば腹減っているような……と思っていたら。


 ぐー……。


 と腹が鳴りました。そうですか、お腹すいてますか、俺よ。


「……ランチタイムから動きっぱなしなのですから、お腹がすいて当然です」

「そうだなぁ。意識したら、余計に腹減ってきたよ」


 でしょう? とキャスコがふんわりと笑う。


「……お皿は任せてくださいな」

「本当にいいのか?」

「……ええ、もちろん♡」


 キャスコがそう言ってくれるので、俺はお言葉に甘えることにした。


 自分の分のナポリタンを、お皿につぐ。

 皿を持って、ハルコたちの隣に座る。


「あ、フォーク忘れた」

「……ジュードさん」


 どうぞ、とキャスコがすかさず、フォークとスプーンを渡してくる。


「さんきゅー。ありがとな」

「……もう、ジュードさんってば。どうやってお昼ご飯たべるつもりだったんですか♡」

「いやほんとそれなー」


 ニコニコ笑いながらキャスコが言う。

 彼女の美しい笑みを見ていると、こっちっも心が癒やされる。


 ハルコやタイガとはまた別種の、癒やしのオーラを、キャスコは発してるように思えた。


「おとーしゃんっ。しゃんとしないと駄目ですよっ」


 タイガが俺を見ながら、指を立てて言う。

「そうだなぁ。ちょっとぼんやりしすぎてたな。しゃんとしますね」


 ランチタイムを乗り切って、気が抜けていたのは確かだ。

 俺はタイガの顔を見やる。


 口の周りにべったりと、ナポリタンのソースがついていた。


「えっと布巾どこだ?」

「ええっと……確かこの辺にあったような……」


 俺とハルコが、布巾を探していると……。

 すっ……。


 とキャスコが、カウンター越しに、手を伸ばしてくる。


「……タイガちゃん。お口の周りにソースがべったりですよ。ほら、お口こっちに向けてください」


「おっと! ほんとですかなっ! キャスちゃんっ、んー!」


 タイガが目をつむって、キャスコに顔を近づける。

 キャスコは優しい手つきで、タイガの口元を拭う。


「……はい、綺麗になりましたよ♡」

「ありがとキャスちゃんー!」


 にぱーっと笑ってタイガが礼を言う。


「ハルちゃん、キャスちゃんはとても優しいですなっ」


「うんっ♡ そうだよね~♡ キャスちゃんは優しーお姉さんだに~♡」

「だにー!」


 笑い合うハルコとタイガ。

 キャスコは淡く微笑むと、


「……ほら、ハルちゃんも。お口汚れてますよー」


 言われてみると、ハルコの口に、確かにちょっとだけだが、ソースがついていた。


「えへへ♡ キャスちゃん。んー♡」


 さっきタイガがそうしたように、ハルコも目を閉じて、キャスコに顔を近づける。


「……もう。ハルちゃん。子供じゃないんですから」


 そう言いながら、キャスコがちょんちょん、とハルコの口元を拭いていた。


「えへへ~♡ キャスちゃんありがとうっ! やっぱり優しくっておら、キャスちゃん大好き~♡」

「あたちもー! しゅきー!」


 2人がキャスコに笑顔を向ける。

 キャスコは上品に微笑むと、ありがとうと答える。


 この間、彼女は基本、手を動かしていた。

 器用な子なのだ、キャスコは。


 ややって、俺が食事を取り終える。


「キャスコ。さんきゅーな。代わるぞ……って、もう終わってら」


 あれだけあった使用済みのお皿が、すっかり、きれいに片付いていた。


「……ジュードさん。空いたお皿かしてください」

「や、これくら自分で……」

「……いいんです。任せてください。ジュードさん、お皿洗うの大雑把なんですもの」


 苦笑しながら、キャスコが俺から、あいた皿を受けとる。


「大雑把、かなぁ?」

「……そうです。たまに洗剤が残ってるときありますよ。しっかり水洗いしないと」


 キャスコがテキパキと皿を洗い、拭いて、元の場所へ戻す。

 その流れるような手つきに、俺たちは見惚れてしまう。


「さっすがキャスちゃんっ! てきぱきしてますねっ!」


 タイガがキャスコを褒める。

 賢者さまは微笑むと、タイガの金髪を撫でる。


「おとーしゃんも、キャスちゃんを見習って、てきぱきできるようになりましょうねっ!」


 無邪気に笑いながら、タイガが俺を見て言う。


「おっけ。精進します。タイガ先生。キャスコ先生」


 俺が答えると、ふたりがクスクスと笑う。

 食後3人は、お散歩に出かけていった。


 俺は無くなったコーヒー豆の補充をしようかなと思って、気付いた。


「……もう補充されてら」


 コーヒー豆だけじゃない。

 お茶っ葉やお茶請けの材料まで、ランチタイムで無くなった分が、すべて元通り鳴っているではないか


「キャスコ、いつの間に……」


 できる女子だなと、改めて俺は思う。そしてこうも思った。


「しっかりしてるあの子がいないと、俺はダメダメだなぁ」


 俺はカウンターに座って、独りごちる。


 キャスコは、すごくしっかりしてる。


 金勘定だけじゃない。視野を広く持っており、テキパキと動く。監督役としてとても優れた人材だ。


 頭の回転も速く、一度教えたことはすぐに覚えるし、足りないと思ったことにして、自分で考え、動く頭を持ってる。


 しっかりしているし、頭も良い。気遣いの人だ。

 抜けてる俺を、彼女はいつも支えてくれる。


「……あのときも、キャスコがいなかったら、どうなってたことやら」


 王都での事件の時。


 ハルコたちが止まっているホテルが、モンスターの襲撃に遭った。


 そのとき、彼女は俺を励ましてくれた。


 ホテルに到着し、気を失っているハルコたちを見て、俺は軽くパニックになっていた。


 正気に戻してくれたのは、キャスコだった。

 彼女だって、友達が死んでるかもと、焦っていたはずだろうに。


「強い子になったよな。……あの小さくていつも泣いてた女の子が、成長したな」


 俺がキャスコと、初めて会ったのは、7歳の時。


 彼女はいつも、勇者グスカスにいじめられて泣いていた。


 そのたび俺が仲裁に入ってたっけ……。アレが遠い日の出来事に思える。


「もう、みんな子供じゃないんだなよなぁ」


 キャスコは立派な、大人の女性になっていた。

 人を支えられるほどに、心が成長していた。


「……感慨深いぜ」


 そんな立派に成長した大人の彼女が、はっきりと、俺に言ったのだ。

 好きです、付き合ってくれと。


「…………」


 俺はあのしっかりとした女性の彼氏として、ふさわしいだろうか。

 いや、たぶんふさわしくないだろう。


 もっとあの子に釣り合う男はごまんといるはずだ。

 それでも俺を選んでくれた彼女。

 俺も……誠意を持って、その思いに答えるべきだ。


 優しくて強い、彼女。

 その心の強さに、俺は惚れた。


 惚れたというか、なんだろうな。上手く言葉に表せないけど、ずっとそばにいて欲しいと、強く思ったのだ。


「……なんて言えば良いだろうか。俺をこれからも支えてくれ、とかか?」


 デート当日までに、上手いセリフを考えておかねばな。


 ……まあ、とにもかくにも。

 俺は今日、バイト少女たちへの思いを再確認した。


 いよいよ、次の休みには、ネログーマへとデートへ行く。

 プランもいちおう、練ってある。


 何事もなく、上手くいくと良いな、と思ったのだった。


次回グスカス側になります。


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