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30.英雄、ゴブリンの巣を吹っ飛ばす



 キャスコたちから告白を受けた、数日後。

 俺はキャスコとともに、街の外にやってきていた。


「おおー、空飛んでるよ。何度見てもおまえの飛行魔法はすごいな」


 俺は現在、キャスコの操るホウキにまたがり、彼女とともに空を飛んでいる。


 眼下にはノォーエツ近隣の、深い森が広がっていた。


「……ジュードさん。落ちたら大変ですっ。なのでもっときゅっとしてくださいっ!」


 俺の前に座るキャスコが、顔をこっちに向けて、真剣な表情で言う。


「こうか?」


 俺はキャスコの、細い腰に手を回す。お腹はぷにっとして柔らかい。そして髪の毛からは、柑橘系の甘い匂いがした。


「あんっ♡」

「す、すまん……強すぎたか?」

「……いいえっ、もっと強くお願いします!」


 さてなんでキャスコと空を飛んでいるかというと。彼女の魔力を消費させるためだ。


 賢者キャスコは、その身に膨大な魔力を秘めている。これは放置していると、魔物をおびき寄せる羽目になる。

 

 ゆえに定期的に、魔力を消費させる必要があるのだ。で、今回は近くの森まで行って、魔法を打って帰るというミッション。


 前回のように、転移スキルを使う選択肢もある。だが転移スキルは使用回数に制限がある(1日に1回)


 確かに転移は魔力を消費するのに、効率が良い。だが上述したとおり一日に一度しか使えない。なので休日にしか転移が使えない。


 今日は平日。なのでこうして、人気の無い場所へ行き、魔法を使って、魔力を消費する次第だ。


「……この辺の森なら、人気が無いみたいです」


 キャスコがホウキを止めて言う。


 賢者には【魔力探知】という、魔力を持っている物体を探知できるスキルがある。


 これは、周囲のモンスターの有無を調べるだけじゃなく、周囲に人間がいないかどうかも調べられる。


 なぜなら人間はモンスター同様、魔力を持っているからだ。つまり人間の魔力を感じない=周辺に人間がいないというわけだ。


 ちなみに人間とモンスターでは魔力の質が違う。それを見分けることも可能。


「よし、ここでやるか。下ろしてくれ」


 キャスコはホウキを操り、地上へと降りる。


 ここは、【イワドノ山】という場所だ。以前、俺が吹っ飛ばした、隠しダンジョンのあった【ゴチ】。そこよりもさらに西へ行った場所である。


「……人気の無い場所ですね」


 キャスコが顔を赤らめながら、すすす、と近づいてくる。ぴたっと体を寄せる。ぬくい。そしておっぱいの柔らかな感触。


「……ここなら何されても大丈夫です」


 潤んだ目で、キャスコが言う。この子が俺に好意を寄せてくれていることが判明した。


 何をされても言い、と額面通り受け取って良いことだろう。しかしまだ付き合ってない状態なので、手を出すわけにはいかない。


「キャスコ。真面目にやろうな」

「……はい」


 ぷくっ、と頬を膨らませるキャスコ。


「……手出してくれていいのに」

「そういうのはダメだろ。気持ちは嬉しいけどさ」


 するとキャスコはぱぁっと晴れやかな表情になる。


「……では、魔法を」


 と、そのときだ。


「待った」


 俺の【索敵】スキルに、反応があった。


 害意を持った敵が、こっちに大量にやってくる。


「敵だ。たぶんキャスコの魔力に引き寄せられたんだろう」


 飛行魔法で魔力を消費した。とは言えまだまだキャスコの体には、莫大な量の魔力が蓄えられている。


 魔力エサに引き寄せられた敵がやってきたのだ。


「……私が魔法で殲滅しますか?」

「大丈夫。俺がやるよ」


 この子は戦いを好まない。敵を殺す魔法は極力使わせたくないのだ。


「ここから一番近くに居たやつがこっち来る。その後に大群が来るから、そのときは俺と協力して倒すぞ。いいな?」


 キャスコがうなずく。


 そうこうしていると、近くに居たらしいモンスターが、俺の元へやってくる。


「GIGIGI…………!!!」


 出てきたのは……。


 出てきたのは……。


「なんだ、こいつ?」


 見たことのない、亜人型モンスターだった。緑の肌。とがった耳。つるつるの頭。


 俺は自分の職業、【指導者リーダー】の持つ技能スキルのひとつ。【見抜く目】を発動させる。


 対象のあらゆる情報を見抜くスキルだ。


小鬼ゴブリン……。あー、これがちまたで有名なゴブリンって奴か」


 よく初心者冒険者が苦戦するモンスターだ。双子のキキララたちからよく話を聞く。


「……じゅ、ジュードさん。敵がきますよっ。何をのんきに」


「あー、いや、大丈夫でしょ」


 俺は【インベントリ】から魔剣を取り出す。その間に、ゴブリンがこちらへかけてきた。


「GIGI……!!!」


 手に持っていた棍棒を、俺めがけて振り下ろす。


 がきぃい…………!!!


「あー……。うん、ごめんな」

「GI……!?!?!?」


 棍棒によるダメージを、俺は全く受けていなかった。


 だが別に【反射】スキルを使ったわけじゃない。本当に俺は、何もしてなかった。


「俺の強さはランクでいうとSS……。で、ゴブリン君のランクはDだ。俺の頑丈さバイタリティでは、君の攻撃は通らないんだよ」


 ゴブリンと俺とでは、レベル差が開きすぎていた。だからダメージを食らわないのだ。


「GI……!!!」


 ガンガンガンガンッ……!!!


 ゴブリンが棍棒で、何度もたたいてくる。だがみじんもダメージを受けない俺。


「悪いな。よっと」


 俺は剣を、さやに入った状態で、ゴブリンの脳天めがけて振り下ろす。


 ゴッ……………………!!!!!!


「GI…………!!!」


 ゴブリンはそれだけで、頭蓋骨を粉砕され、魔力結晶ドロップアイテムだけを残し、消滅した。


「ゴブリンってこんな弱かったんだなぁ……」


 初めて戦ったが、あまりの弱さに拍子抜けしてしまった。


「……さすがジュードさんっ!お見事です!」


 背後でキャスコが、目を輝かせて言う。


「どもども。あ、キャスコ。そろそろゴブリンの大群が、俺たちのところに来る。だから【磁力魔法】使って一カ所に集めてくれ」


 キャスコは了承する。精神を集中させ、そして魔法を発動させる。


「【磁力マグネティック・フォース】!!」


 これは対象となる物体を、磁石に変える魔法だ。


 発動するとまず、電磁波が周囲に飛ぶ。そして電磁波を浴びた対象を磁石化。あとは任意でくっつけたり、はなしたりできる。


「GIGI!」「GIGI!」「GIGI!」「GIGI!」「GIGI!」「GIGI!」「GIGI!」「GIGI!」「GIGI!」「GIGI!」「GIGI!」「GIGI!」「GIGI!」


 遠くからゴブリンの声が、大音量で聞こえる。キャスコを残して、俺は声のする方へ行く。


「うーわ、めっちゃいるじゃんか」


 大量のゴブリンが、塊になって、動けないでいた。


「サクッと片付けるかー」


 俺は魔剣を鞘から抜いて、ゴブリンの集団を見やる。


「身体強化は……いらねえか」


 俺は魔力を剣に込めて、軽く剣を、左から右へ振る。


「てい」


 すっっぱぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ………………ん!!!


 魔力が衝撃波となって飛ぶ。それがゴブリンの塊を、一刀両断した。


 ぼしゅうぅうう………………!!!


 ぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱら。


 後にはドロップアイテムである、魔力結晶が残された。


「ふぅむ……弱すぎるな。身体強化スキル1つも使わず、剣で軽く振っただけで全滅とは」 


 キキララたちが、ゴブリンには手こずるーみたいなこと言っていたが。本当なんだろうかとちょっと思った。


 魔力結晶は、まあ別に金に困ってないが、いちおう回収。


 キャスコの元へ帰る。


「……ジュードさん。気になることがあるんです」


 キャスコ曰く、この近くに、ゴブリンのたまり場があるそうだ。


「たまり場?」


「……ゴブリンは巣を作ると聞いたことがあります。たぶんそれかと」


「なるほどなぁー。巣が近かったんだな」


 しかしどうしたもんかね。まあ放置して帰るのは目覚めが悪い。


「よし、サクッと潰すか」


 俺はキャスコの案内の元、ゴブリンの巣の前までやってくる。


 魔力におびき寄せられ、ゴブリンが出てきたが、軽く退治。


「中に人間は?」

「……探知によると何人かいます。おそらく近隣の人間たちをさらったのかと思われます」


 俺はまず、【暗殺者アサシン】のスキル、【隠密】を使用。


 自分を周りから見えなくするスキルだ。使う人間のレベルが高いほど、隠密の精度は向上する。


 俺はゴブリンたちに気付かれないよう、中の人間たちを回収。


 その間キャスコには、回収してきた人間たちを治療したり、元の村へ返したりしてもらう。


 そんなふうに作業すること、数十分。


「これで全員回収したね?」

「……はい。中に人間はいません。あとはゴブリンだけです」


 俺とキャスコとは、巣の上空にいる。


 キャスコの操るホウキに、俺はまたがっていた。


「んじゃ後は巣を潰すだけか」

「……けど、どうやってですか?」


 そういえばキャスコは、俺が新しく手に入れたスキルを、知らないんだったか。


「この間さ、タイガと契約して手に入れたすげえスキルがあるんだよ。それ使う」


 みだりに使うのはよくないが、まあ巣を放置する方が危ないからな。


 それに中の人間はすべて回収したし、周囲に人間の反応もないことは、キャスコの【魔力探知】で確認済みだ。


「キャスコ。魔力借りたいんだけど、頼めるか?」

「……どうぞどうぞ!」


 キャスコから【魔力譲渡】スキルで魔力をもらう。(賢者のスキルの一つ。仲間に魔力を移す)


 俺は右手を、眼下のゴブリン巣に向ける。

 そして発動させる。


 雷獣タイガからコピーしたスキル。


【獣神の豪雷】


 右手にすさまじい量の魔力が集中。そして……。


 ズッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッ………………!!!!!!!!!!!!!!!!


 大音量の雷鳴を響かせ、雷獣の雷が、巣めがけて落ちる。


 雷はゴブリンの巣を、消し飛ばした。


 後には大きな穴ができていた。


「………………」


 キャスコが、ぽかーんとしている。


「キャスコ、どう? ゴブリンはいる?」

「……えっと、大丈夫です。全滅しました」


 雷は巣まるごと、ゴブリンの軍団を消し飛ばしたらしい。


「よしよし。んじゃ帰るか」


 キャスコに土魔法を使ってもらい、穴を埋めた後、俺たちは【ノォーエツ】の街に帰還したのだった。



    ☆



 その後日。


 喫茶・ストレイキャットに、ギルドマスター・ジュリアがやってきた。


「ジュードさん。実はお願いがあってやってきました」


 カウンターに座るジュリアが、俺に言う。

「実は近々、ゴブリン殲滅作戦を行うんです。なので力を貸してください」


「うん、良いよ」


 俺は二つ返事で言う。


「良かった……!」

「どんな作戦なの?」


「【イワドノ山】ってところに、最近新しくゴブリンの巣ができたらしんです」


 おや?


「近隣の村を襲って、人が連れ去られたって情報がありまして。そこへ冒険者のみなさんを送り込んで、救出作戦とともに、ゴブリンを殲滅という作戦になってます」


 おや? おやおや……?


「……ジュードさん。それってこの間のじゃ?」


 給仕していたキャスコが、俺たちの元に来て言う。


「ね、だよね多分」

「?」


 俺は先日、キャスコとゴブリンの巣を吹っ飛ばした話をした。


 ジュリアは大慌てで、冒険者ギルドへ戻る。数時間後。


「ぜえ……はぁ……」

「大丈夫? ほら水でも飲みな」


 俺はジュリアに水を渡す。彼女はごくごくと水を飲んで、からになったグラスを手渡す。


「さ、先ほど現地に赴いて、調査してきました……」


 どうやらジュリア、冒険者の護衛とともに、現地へ赴いたらしい。なんともまあご苦労様だ。


「ジュードさんのおっしゃるとおり……巣が。まるごと消えてました」


 ジュリアが俺を見上げる。


「また……やっちゃったんですか?」 

「いやまあ。やっちゃいまして」


 そういえばジュリアに、もう雷獣の豪雷は使わないと約束してたんだった。


「ごめんな。放置は良くないって思って」

「い、いえそれは別に良いです。結果的に被害ゼロで作戦を、終了できたのですから……」


 その割に、ジュリアはなんだか、疲れたような顔をしていた。


「どしたの?」

「いえ……今回は、大規模な作戦になる予定だったんです。それをお一人で殲滅してしまうとは……」


 ジュリアが戦慄しながら、俺を見やる。そして言う。


「ほんとあの……何者なんですか、あなた?」


 何者って言われても、俺はこう答えるだけだ。


「ただの、隠居したおっさんだよ」


 

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