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149.勇者グスカス



《グスカスSide》


 勇者グスカスは、王城の牢屋の中に居た。


「…………」


 彼の表情は穏やかなものだった。

 もう彼は、かつての最低最悪の王子ではない。


 色々あって、成長して、また勇者となって……人を救うことができた。

 仲間を、大切な人たちを、守ることができた。それで満足だ。もう……十分生きた。


「グスカス」


 やっと、死刑が執行されるのか……。


 いや、待て。

 グスカスは、その声の主に、覚えがあった。


「お、おや……じ……?」


 現国王にして、グスカスの父、グォールだった。

 すっかりやつれてしまってはいるものの、それでも……父が、そこにいる。


「な、なんでここにいんだよ……」


 すると父は、グスカスに頭を下げてきた。


「ありがとう、グスカス。国を救ってくれて、ありがとう」

「!」


 ……父からは、とっくの昔に見放されたはずだった。

 色々やらかして、あきれられ、そして……捨てられたはずだった。


 そんな父が、自分に頭を下げに来てくれた。

 うれしい……いや。


「やめてくれよ、頭なんて、下げないでくれよ!」


 自分は、父に多大なる迷惑をかけた。

 魔王討伐前に逃亡。


 手柄を横取り。

 そしてわがまま放題やり放題して、国の権威を失墜させた……。


「そんな最低の、愚図でカスなおれに、頭なんて下げる必要ねえよ!」

「……グスカス。おまえは、愚図でもカスでも、ないよ」

「親父……」


 父親は、本当に申し訳なさそうな顔をしながら、何度も頭を下げた。


「ごめん、ごめんなぁ……グスカス。おまえが……さみしいことに、気づいてやれなかった……」


 ……そう。

 グスカスはずっと、さみしかった。


 グスカスの母は、グスカスを産んですぐに死んだ。

 キールを含めた他の王子たちは、別の母の腹から生まれた。


 グスカスの母が死んでから、彼は構ってもらえなくなった。

 ずっと、ずっと……。


「アリシア……おまえの母の死が辛かった。おまえを見ていると、アリシアを思い出してしまう。だから……遠ざけた。妻の死から逃げてしまった、その結果、おまえには……随分とさみしい思いをさせてしまった……すまない……」

「おや……じ……」


 ……グスカスの頬を、涙が伝う。

 父から聞かされた真実は……グスカスの心を救ったのだ。


「おれのこと……嫌いになったんじゃあ、なかったの……?」


 ずっとグスカスは、自分が放置されているのは、父がグスカスを嫌いになったからだと思っていた。

 でも違ったのだと、今判明した。


「当たり前だろう? おまえは……大事な、わしの息子じゃ」


 ……息子だって、ちゃんと認めてもらえた。

 やっと……認めてもらえて、さみしい気持ちが、やっとうまった。


「ぐす……うう……くそぉ……ちくしょおお……なんでだよぉ……」


 グスカスは涙を流しながら言う。


「死ぬ覚悟……できてたのによぉお……死にたくなくなったじゃあねえかよぉ……」


 グスカスは死ぬことで、自分の犯した罪の、償いをしたかった。

 でも父からこうして謝られて、真実を伝えられて……。


 もっと、生きていたい、そう思ってしまったのだ。

 もっと父と話したい、今まで迷惑かけた分、親孝行したいと……。


「すまねえ……すまねえなぁ……親父ぃ……たくさん迷惑かけちまって……ごめんなぁ……」

「いいのだ、わしも……すまなかった……すまない……」


 二人は、長い時間をかけて、ようやく和解できた。

 だが……終わりの時間が近づいてきた。


「……グスカス」

「キール!」


 グスカスの弟、次期国王のキールが、無表情で立っていた。

 それが意味することは一つ。


 死刑の執行が決まったと言うこと……。


「出ろ」

「……………………ああ」


 いやだ、死にたくない。

 そう思いながらも、グスカスは、素直に従った。


 もう前のわがままなクソ王子ではない。

 自分がやったことにたいして、責任を取る必要がある。

 それを理解するほどに……精神的に成長していたのだ。


 ……だから。


    ★


「さっさと出て行け」

「え……?」


 グスカスは、王城の裏門にいた。

 彼は手かせをはずされている。


「ど、どういうことだよ……? おれは……死刑になるんじゃあ……?」

「ああ、おまえは……グスカス=フォン=ゲータ・ニィガは、死んだ、と、公表する」


 ……それは。


「国内にできたダンジョンの災害にまきこまれ、グスカスは死亡したのだ。もう……おまえはグスカスではない。どこへなりとも行けば良い」


 ……それはつまり、自分を……見逃してくれるということ?


「い、いや! おまえ……何言ってんだよ! おれは……許されないことをたくさんしたんだ! 死なないと、許してもらえない……」


 するとキールがグスカスの胸ぐらをつかむ。

 怒りを、抑えながら言う。


「……勘違いするな。ボクも含めて、おまえを誰もまだ許してない」

「なら……」

「だから! これから……一生かけて、罪を償え」

「!」


 キールが胸ぐらを話す。


「ジュードさんに感謝しろ」

「! ジューダスが……?」

「ああ。おまえを生かしてくれと、懇願されたのだ。自分の手柄を全部使って」


 ……グスカスは、その場にうずくまって、涙を流した。

 ジューダス……。


「あんなに……迷惑かけちまったのによぉ……おれを……おれを……ゆるして……う、ううううう、ううううううう!」


 結局、最後まで、ジュードだけが、グスカスを見捨てなかった。

 誰も彼もが、自分に見限るなか……。


 あの、英雄だけが……。


「ボクは一生、おまえを許さない。他の人たちもだ。でもこれ以上おまえに何かを期待しない。……あとは、好きに生きれば良い」

 

 キールはきびすを返して、立ち去っていく。


「父上から伝言だ。……たまには手紙をよこすようにと。……グスカスの名前は使うなよ?


 自分は全てを失ったと思った。

 全ての人から見放されたと思っていた。


 でも……。


 父、弟、そして……師。

 自分には、まだこれだけ、自分を見放してない人たちがいた。


「…………ああ」


 グスカスは、また立ち上がる。

 自分に、まだ期待してくれる人たちのために。


「おれ、これから、世界中を回る。困ってる人を、助けて回ろうと思う。……【裏切り者(ジューダス)】の、十字架を背負って」


 グスカス……否、二代目ジューダスは、キールの背中に向かって、そういった。


 キールの表情はうかがえない。


「ジューダスは、元英雄の名前だ。その名前に恥じない、行いをするんだぞ」

「ああ、わかってる……! じゃあな、キール」


 グスカスもまた、きびすを返して、再出発する。

 その足取りに迷いはなく、その瞳にはかつてのような傲慢さもかけらもなかった。


 師の名前を受け継ぎ、流浪の勇者ジューダスとして……。

 彼は、これから人生をかけて、困ってる人たちを……助けていこうと、そう思ったのだった。

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