グスカスたちはキャスコが魔法の準備をしてる間、ジューダスの足止めをすることにした。

　だが、それがいかに大変な作業かを、身をもって思い知らされることになる。

「は、はやっ！」

「攻撃が、全然当たらないっす！」

　彼には見抜く目がある。

　次にどんな攻撃が来るのか、全部先読みすることができるのだ。

　こちらの攻撃はまったく当たらない。

　向こうは、こっちに会わせてカウンターを叩き込んでくる。

「ぐっ！」「がはっ！」「ぐぁっ！」

　勇者パーティの前衛が一斉にかかっても、ジューダスは余裕でそれをいなしていた。

　彼の流麗な体捌きに、グスカスは舌を巻く……。

　それと同時に……彼は笑っていた。

「はは……やっぱ……すげえや、ジューダスは」

　勇者《じぶん》が嫉妬した相手。

　敵となることで、さらにそのすごさがわかった。

　嫉妬してしまうのも無理はないと、自分で思ってしまう。

　惚れ惚れするほど、ジューダスは強く、そして技の一つ一つが洗練されてて、美しい。

　グスカスは剣を手に立ち上がり、斬りかかる。

　全てを読まれてしまうのなら、手数で勝負しようとする。

　だがそれすら見抜かれていたようで、一瞬で距離を詰められる。

　手に闘気を集め、ゼロ距離から、鳩尾めがけて掌底を放ってきた。

「ぐっ！！！！！」

　グスカスはその場に崩れ落ちそうになる……。

　だが、持ちこたえた。

「！？　なんで！？」

　オキシーが驚いている。

　グスカスは自分の腹に、あらかじめ魔力を貯めてガードしていたのだ。

「あんたなら……そう来ると思ったぜええ！」

　ジューダスの弱点。

　それは、常に相手の弱点が見えてしまうこと。

　グスカスは接近されるよう、わざと攻撃を誘ったのだ。

　あえて、自分の弱点をサラしておく。

　そうすることで、ジューダスは弱点をついてくる。

　弱点をあらかじめガードしておけば、防ぐことはさほど難しくはない。

「あんたの敗因は……弱点が見えてしまうこと、そして！　それを、正確についてくることだよ！」

　思えばいつだって、ジューダスは自分たちの弱点を指摘し、治そうとしてくれていた。

　指導者《リーダー》として、教え子たちを、より高い段階へと導くため。

　でも……。

「もう……いいんだ、ジューダス。あんたの指導は、もういらない」

　がきぃん！　とキャスコの魔法が発動し、ジューダスの体が拘束される。

　グスカスは聖なる剣を構えて、力を貯める。

　彼の持つ剣が、まるで太陽のように強く輝きだす。

「今までありがとう、ジューダス。おれの……師匠。今まで導いてくれたこと、本当に感謝するよ」

　今までのことが思い起こされる。

　今までたくさん、失敗した。苦い思いをした。苦しんだ。

　……でも、最後に自分は救われた。

　この、底抜けに優しい指導者に。

「あんたにおれは救われた。だから！　今度は……おれがあんたを救う！」

　グスカスは、ジューダスから授かった技を使う。

　魔王を倒す、破邪の力を。

「陽光聖天衝《ようこうせいてんしょう》ぉ！」

　聖なる力を刃に宿し、グスカスは剣を振るった。

　ズバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン！

　黄金の力の奔流が、ジューダスをつつみこむ。

　それは邪悪を祓う聖なる力。

　ジューダスの体は一切傷つけることなく、彼に憑いた悪いものだけを滅する……。

　やがて、光が収まると、五体満足のジューダスがそこに居た。

「「「ジュードさん！」」

　女子たちがジューダスに近寄っていく。

　彼はゆっくりと目を覚ます。

　女子たち全員が安堵し、そして涙を流すなか……。

　ジューダスは、グスカスを見て、笑った。

「あんがとな、グスカス。届いたぜ、おまえの……熱い思い」

　どうやらグスカスが、全てを終わらせたことを、見抜いていたらしい。

「それも見抜く目の力？」

「いんや……」

　すっ、とジューダスが手を伸ばしてくる。

「仲間への、信頼さ」

「っ！」

　……仲間。信頼。

　どれも、今までのグスカスにはなかったもの。

　そして、心から欲しかった物だ。

　……ああ、そうか。

　グスカスは最後の最後で、ようやく、最後の間違いに気づいた。

　グスカスは、勇者になりたいのではなかった。

　自分は、誰かに認められたかったんだ。

　母親は死んだ。

　兄妹は違う母親の子だ。誰ひとりとして、自分に期待してくれなかった。

　自分を、見て欲しかった。

　認めて欲しかったのだ。

「グスカス……おまえさぁ、ほんとすげえよ」

　……欲しいものは、最初から、ここにあったのだと……。

　グスカスは、やっと気づいたのだった。