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15.英雄、隠しボスを一撃で倒してしまう



 ハルコと雷獣少女タイガと本契約を結んだ、翌日。


 午前中。


 俺の店に、冒険者ギルドのギルドマスター、ジュリアがやってきた。


「すみませんジュードさんすみません、あなたしかできないお願いがあって、やってきましたっ!」


 子供と見まがうほどの容姿。めがねをかけたその女性は、カウンターにたつ俺に向かって言う。


「とりあえず話聞くから、座ったら?」

「は、はいっ!」


 ジュリアがカウンター席に座ろうとして、

「う、ううーん……うーん……!」


 イスに座れずに、苦労していた。カウンターのイスは背が高い。


 小柄なジュリアでは、届かないみたいだった。


 俺は娘の使っている、子供用のイスを用意する。


「すみません、ご配慮感謝します、すみません……」

「いえいえ。それでどうしたの?」

「はい実は……」


 ジュリアは眼鏡をかけ直して、俺をまっすぐに見て言う。



「ジュードさんに、ダンジョンの隠し部屋を、調査しにいってもらいたいのです」



 ふぅむ……隠し部屋ねえ。と、言われても冒険者だった経験のない俺には、よくわからなかった。


 ジュリアもそれを承知しているのか、説明を始める。


「ここノォーエツ近くにあるダンジョンの、第1階層に、最近隠し通路が発見されたんです」


 ジュリア曰く。


 地下迷宮ダンジョンは縦にも横にも広い。


 だから未踏領域が結構あって、未発見の部屋なんかも、結構見つかっている。らしい。


 そして隠れてる部屋のボスというのは、たいてい、とんでもなく強いというのが定説らしい。


 隠れている、というよりは、大昔誰かが【封印した】。だから強い……みたいな理屈らしい。


 真偽は定かでないらしいけど。


「それで通路の先に、明らかに危険なオーラの漂う部屋が発見されたんです」


「なるほど……そこへ行って調べてこいってこと?」


 こくり、とジュリアがうなずく。


「もちろん隠しボスがいる可能性もあり、危険な仕事です。なのでジュードさんには、討伐じゃなくて調査をお願いしたいんです」


「具体的に言うと?」


「部屋に入ってもらい、何もなければそのまま帰ってきてください。ボスがいたら、【見抜く目】を使っていただき、ボスの強さを測ってきてください」


「それだけでいいの?」


「ええ、うちの冒険者たちで対処可能なら彼らに任せます。無理なら通路を封鎖して立ち入りを禁止しますので」 


「俺に倒してこいって言わないんだな」


「ジュードさんの規格外の強さは承知してます。ですがやはり未知の強敵に、いどんでこいとはいえません。人命第一です」


 なるほど。優しいギルドマスターみたいだ、この子。


「それにボスモンスターは部屋から自力で出ることができません。自力で外には出られないのです。なら無理に倒さなくて良いと思います」


「ふぅむ……そうだなぁ。別に倒す必要性ないわけだしな」


 野外の敵と違って、部屋からでれないのだ。それこそ封印指定し、誰も立ち入らせないというのがベターな気がする。


「討伐じゃなくて調査目的だけなら、他の強い奴らに任せても良いんじゃないか?」


「いいえ。部屋に入ったら出られない、みたいな罠などもあるかと思います。それにひっかかってしまい、準備もままならぬうちから戦闘が始まったら」


「なるほど……死ぬ可能性もあるな。だから罠を【見抜く目】を持っている俺にしか頼めない、ってわけね」


 こくりとうなずくジュリア。


「すみません、本業のお邪魔をしないようにはしているのですが、今回はどうしても、あなたに行ってもらうほかなくて……」


 ああ、そうだったんだ。


 冒険者になったのに、ほとんど依頼が来ないのは、ジュリアが配慮してくれていたのだろう。


 ほんと、優しいやつだなぁ、この子。


「気にしないで。よし、俺が行ってくるよ」


 俺がうなずくと、ジュリアは表情を輝かせて「本当ですかっー!」と言う。


「ああ。サクッと行って調べてくるよ。でも別に倒してきてもかまわないんだろ?」


「い、いえ……普通に調査だけで。あ、でも危険があると判断した場合は、通路の封鎖だけお願いしても良いですか?」


「封鎖ね。魔法とかで塞げば良いかな?」


 こくりとうなずくジュリア。


 かくして、ギルドマスターの命令を受けて、隠し部屋の調査へと向かうのだった。



    ☆



 ノォーエツから西へ少し行ったところにある、【ゴチ】という寒村の近くに、くだんのダンジョンがあった。


 ダンジョン入り口には、ノォーエツ冒険者ギルドの職員が立っていた。


 今日はダンジョンの出入りを禁止しているらしい。


 まあ隠しボスに挑もうという無謀なやつがきたら困るからな。 


 俺は【高速移動】スキルを使って、目当ての通路へと向かう。


 スキルで強化された足では、ものの数分もしないうちに、目当ての部屋の前までやってこれた。


 さておき。


「ふぅむ……ここか。やばそうな匂いがぷんぷんするぜ」


 でかい門だ。悪魔やらなんやらの彫刻が施されている。


 俺はさっそく、【見抜く目】を発動。


「どうやら罠は張られてないみたいだな」


 あとはこの部屋に入って、中の調査をすませるだけだ。


「今の装備と状態なら……SS級くらいなら単独でいけるか。それ以上はちょっとムズいかなぁ」


 まあ今回は調査目的だ。それに中にボスがいないことも全然あり得る……いやまてよ。


「というか中に入る必要なくね? 中にボスが居るかどうか、門越しに【見抜け】ば良いんだし」


 そうだ、そうしよう。


「んじゃさっそく…………………………って、いるじゃないかーやだーもー」


 続いて中に居るモンスターの情報を見抜く。


『SS+級モンスター・阿弥陀丸。胴体が蜘蛛の落ち武者型モンスター。性格は非常に獰猛。侵入者を決して逃さない』


「うわー、これは駄目だわ。単独では無理無理」


 いちおうモンスターの姿もドア越しに【見抜いた】けど、やばい。


 腰から下が巨大な蜘蛛。で、上半身が落ち武者。


 八本の足は巨大な剣になっており、上半身も6対の腕が生えていて、それぞれに妖刀(即死属性つき)が握られていた。


「はいこれ封印決定ね。むりむり。危なすぎて挑みたくありませんよ」


 キャリバーたち勇者パーティと協力すれば、倒せるかもしれない。


 だが即死属性の刀を相手は持っている。危なすぎて、仲間たちに協力を要請できない。


「封印がベター。さて、ちゃっちゃと通路を封鎖するか」


 俺はボス部屋の前から、少し下がる。


「魔法で通路の天井を崩すかー」


 俺はボス部屋手前の通路を見ながら、つぶやく。


「魔法かー……。通路結構広いから、威力が高い魔法が良いな」


 ここ、隠し通路ってわりに、縦に長い。巨人でも通るのを想定しているのだろうか。


「まさか扉を開けたら、中のあの化け蜘蛛武者がでてこれるようになってた……なんてね。ま、ありえないよねー。ボスは外に出れないんだもんねー」


 そんな与太話はさておき。


 俺は【ステェタスの窓】を開き、使用できる【魔法スキル】一覧表を表示。


「んじゃ威力の大きい魔法使うかー……。どれがいいかな……うん?」


 その中に一つ、見覚えない魔法スキルがあった。


「なんだこれ……? 【獣神の豪雷】? こんなスキル持ってたっけ?」


 と、そこで俺は思い出す。


「ああ、タイガの持っていたスキルか」


 俺には【相手の強さを向上させる代わりに、能力を6割コピーする】という能力アビリティを持っている。


 前回、俺は雷獣の少女、タイガと本契約を結び、彼女の能力を上げた。


「昨日キスしたときコピーしてたのか」


 スキルの種類を見やると、魔法スキルみたいだった。


「試し打ちもかねて、これ使ってみるか」


 俺は右手を前に出す。


 隠しボスの部屋の、通路。その天井めがけて、俺は【獣神の豪雷】を発動させた。



 ごごごごごごごごごごごごごご……………………!!!



「なんだ……? 地震か?」


 床……いや、ダンジョンの通路全体が、激しく揺れている。


「いったい何が……」


 と、そのときである。



 ズッガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッッッッ!!!!!!!!!


「………………」


 言葉を、失った。


 俺はとっさに【動体視力強化】のスキルを使ったので、何が起きたのか理解できた。


【獣神の豪雷】を使った瞬間、俺の右手から超極太の雷が発せられた。


 あまりに太すぎて、光線かと思った。


 その巨大な雷は、天井どころか、俺の目の前の通路丸々を、吹っ飛ばした。


 雷は、一直線に飛んでいった。


 そしてボス部屋の扉だけじゃなくて、向こうにいたモンスターすらも、消し飛ばした。


 そしてそれだけじゃ飽き足らず……。


「て、天井が消えてる……」


 なんと地下ダンジョンの天井さえも、吹っ飛ばしていたのである。


「ここが1階層で良かった……」


 まだここが浅い場所で良かった。地下深くだったら、被害は甚大だったろう……。


 俺はボス部屋、中にいたボス、そしてダンジョンの天井を、まとめて吹っ飛ばしてしまったわけだ。


「とんでもねえスキルだな、この【獣神の豪雷】ってやつは」


 というかこれをタイガも持っているってことだよね。絶対に使わせないように、厳命しないと。


 最悪俺の持っている、【スキル封印シール】スキルを使う必要がある……というか、うん、使っておこう。


 まあ、何はともあれだ。


 いちおう依頼は達成した、のだが……。


「これどう報告しよう……」


 まあ素直に報告するほかないな。


 俺はダンジョンを出て、ノォーエツへと帰還。


 その後ギルマスのジュリアとともに、【ゴチ】へと再び帰ってきた。



「………………ナンデスカ、これ?」

「す、すまん……。まさかここまでのスキルとはおもわなくて……」


 ダンジョン入り口から、離れた場所に、大きな穴ができている。


 さいわいゴチは寒村地帯。人が住み着いてない場所で良かった。


「…………」

「あの……ジュリア?」


 現場を見て震えるジュリア。

 ややあって、


「ど……」

「ど?」


 彼女は、力一杯、叫んだ。



「どうしてこうなったぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」



 その後俺の【修復】スキル(【鍛治師】からコピーしたスキル。ものを治す)を使って、ダンジョンを修復。土魔法を使って穴を塞いだ。


【獣神の豪雷】による被害は、ボスだけだったので、お咎めなしだった。俺は二度と使わないことを約束した。


 ともあれ、こうして俺は、隠しボスを部屋ごと(ダンジョンごと)吹っ飛ばしたものの、依頼を達成したのだった。

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