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14.英雄、バイト少女にキスをせがまれる




 キキララの知り合い、新人冒険者たちを強化した翌日の出来事だ。


 平日の午前中、喫茶店ストレイキャットにて。


 週の真ん中の朝ということで、客数は少ない。


 お向かいさんのジェニファーばあちゃんを含めて、老婆が2,3人ほど。


 店主の俺も、バイトのハルコも、暇そうにしていた。


 俺はカウンターでぼけっと。


 ハルコはジェニファーばあちゃんと雑談している。


「それでねおばあちゃん、聞いて欲しいんだに~……」

「どうしたのハルコちゃん?」

「実は~……」


 ハルコがぼしょぼしょ、とジェニファーばあちゃんに耳打ちしている。


「……ふむふむ、ジュードちゃんが他の女の子と」

「……うん」


 ちらちら、とばあちゃんとハルコが、俺をチラ見してきた。


 その一方で、娘の雷獣少女・タイガが、カウンターの前に座ってお絵かきしている


 猫耳と猫尻尾が実にかわいらしい。


 やがて絵を描き終えると、


「おとーしゃん、絵できた~」

「お、見せてごらん?」

「あいっ♪」


 タイガが画用紙に、女の子の絵を描いていた。ニコニコと笑っていて、そしておっぱいがでかい。


「ハルちゃん?」

「そうっ! はるちゃんっ!」


「なんでハルちゃん?」

「あたちはるちゃん、おとーしゃんとおなじくらいだぁいすきだからっ♪」


「そっかー。しかしうまいなぁタイガは。将来は絵描きさんだな」


 するとタイガは、


「ううんっ! あたちしょうらいは、おとーしゃんのお嫁しゃんになるー!」


 笑顔で、両手を挙げて言う。


「おーそりゃ嬉しいな。ありがとなータイガ」

「うんー! えへへ~♪ おとーしゃんだぁいすきっ♡」


 と娘とふれあっている一方で、


「……ほれほれはるちゃん、あんなふうに素直に気持ちを伝えるべきだよ」


「……え、ええ。む、むりだに~……」


「……なにぼやぼやしてると、取られちまうよ? ジュードちゃんはただでさえ、この町の人気者なんだからねぇ」


「う~~~………………そうだけどぉ……」


「まったくこの子は。いいかげん勇気だしなさいっ。手遅れになっていいのかい?」


「………………うんっ! わかった!」


 ハルコが力強くうなずく。


「はるちゃんどうしたんだろ~?」

「ねー、どうしたんだろうね、ハルちゃん」


 俺が娘と話していると、


「じゅ、ジュードさんっ!」


 ずんずんずん、とバイト少女が、俺に近づいてくるではないか。


「んー? どうしたの、ハルちゃん」

「………………」


 ハルコは顔を、湯気がでそうなほど真っ赤にしている。「あの……その……」と何度も口ごもる。


 ややあって、


「じゅ、ジュードさんっ!」

「うん」

「ジュードさんっ!」

「うん」


「お、おらに……き、キス、してくれませんかっ!!!」


 ……ん?


「あ゛あ゛ぁあああああああ!!! ちちちちち、ちがうんですぅうううううううううう!!!!」


 ハルコが顔を真っ赤にして、首をぶんぶんぶん! と首を振る。


「……お、おらってば焦って先走ってしまってなんてことをっ! おらのばかー!」


 はわわ、と小声で何かを叫ぶハルコ。


 しかしキスかー……。


「いいよー」

「やってしまった……おらもう終わりだに………………って、えぇえええええええええ!? い、いいんですかーーー!!」


 ハルコが、目玉が飛び出すんじゃないかというほど、大きく目をむいて言う。


「うん、いいよー」

「……はわわわわ! お、おばーちゃんやったよ! おら、やったよー!」


 とっても幸せそうな笑みを浮かべて、ハルコがジェニファーばあちゃんに手を振る。ばあちゃんは親指をぐっ、と立てていた。


「しかし知らなかったなぁー」


 俺はハルコを見て言う。



「ハルちゃんも強くなりたいんだねー」



 と。


「…………………………いま、なんと?」


 ハルコが表情を凍らせて、首をかしげる。

「え、だってハルちゃんも指導者リーダーの能力で、能力アップしたいってことでしょ?」


 キスして、ってそういうことでしょ?


 たぶん昨日の、キキララや他の新人冒険者たちを見たのだろう。


 ハルちゃんもうらやましくなったのではないだろうか。


 ハルちゃんも彼女たちと同い年っぽいし。

 キスして楽に強くなれるなら、なら自分も強くなりたいと思ったのだろう。


「…………………………」

「ジュードちゃん、ないわー」


 蒼白のハルコ。ジェニファーばあちゃんは苦笑しながら、首を振るっている。


「え、なになに? 違うの?」


 ハルコがハッ……! と正気に戻ると、


「そそそそ、そうです! おら強くなりたいだにっ! だからキスしてくれませんかー!」


 ハルコは半泣きで俺に言う。なぜ泣いているのだろうか。


 そしてなぜジェニファーばあちゃんは「ハルコちゃん……めげちゃだめだよ。相手は鈍感だから」とエールを送ってるの。なんなの?


 それはさておき。


「んじゃささっとキスしようか?」


「あ、はい……あの、その……できれば人気のないところがいいかなぁー……と」


 ハルコが顔を真っ赤にして、目を泳がせて言う。


「別に良いけど」と俺が言おうとした矢先だ。


「おー、ジュードちゃん。アタシら今日は帰るわ!」


 ジェニファーばあちゃんをはじめとした、ストレイキャット店内にいた老婆たちが、立ち上がる。


「え、もう帰るの? いつもはダラダラとここにいるじゃん」

「急用ができたんさねっ!」


 そうそう、と残りのおばあちゃまたちもうなずく。


「まあいいけど」


 おばあちゃんたちの会計を済ませる。


「がんばるんだよ、ハルコちゃん!」「しっかりね!」「がんばって!」


 とおばあちゃんたちは口々に、ハルコを励ますと(なんで?)、店を出て行った。


 あとには俺とハルコ、そしてタイガのみが残される。


「お客さん誰も居ないしここでいい?」

「は、はひ……」


 タイガは居るけど子供だし、大丈夫だろう。


 俺はカウンターを出て、ハルコの元へ行く。彼女は俺を、潤んだ目で見上げてくる。


「あの……おら、こ、こーゆーの初めて……だから……その……や、やさしくして、ください……」


「あ、うん。わかった」


 まあ【指導者リーダー】の職業って結構珍しいからな(全く居ないわけじゃない)。


 キスでパワーアップなんて、初めてだろうし、そりゃ緊張するか。本当に大丈夫なんだろうかーって。


 俺はハルコの細い肩を抱く。ぴくんっ、とハルコが体をこわばらせる。


 ふくよかなおっぱいが、荒い呼吸にあわせて上下する。ふわりと花のような甘い香りが鼻孔をついた。


「ん……」


 ハルコが目を閉じて、俺を見上げてくる。俺は彼女の肩を抱き寄せて、彼女の唇にキスをする。


『ハルコ・サクラノと【本契約】を結びました。これより彼女の能力を、常時三倍状態に。また農家の技量スキルを6割コピーしました』


 脳内にアナウンスが流れる。


 これで無事、ハルコと契約を結べた。


 俺は顔を離す。


「…………」


 ハルコが顔を、耳の先まで真っ赤にさせた状態で、その場にぺたり、としゃがみ込む。


「大丈夫?」

「は、ひ…………」


 ハルコがその場にしゃがみこんだまま、半泣きで、しかも顔を真っ赤にしている。


「本当に大丈夫? 体調でも悪いの?」


「ほんと……だいじょうぶ、です。おら……すごく……しあわせ……です」


 ぽぉー……っと夢見心地の表情で、ハルコがつぶやく。何度も何度も、自分の唇を触って、「えへへ……♡」と笑っていた。


 ややあって、


「あの……ジュードさん」


 ハルコが立ち上がると、ぺこっと頭を下げる。


「わがまま聞いていただき、ありがとうございましたっ!」

 

 がばっ! と元気よく、ハルコが頭を下げる。


「こっちこそ、ごめんね。俺みたいなおっさんとキスなんて。嫌だったよね?」


 いくら強くなるためだからって、見ず知らずのおっさんとキスするなんて、若い女の子にはつらいだろうしな。


「まさか! 嫌なわけないです!」


 ハルコが柳眉を逆立てて言う。


「むしろご褒美でした!」「え?」「なんでもないです空耳です!!」「あ、そう」


 まあ嫌がってないみたいで、良かった良かった。


 かくしてバイト少女・ハルコを強化した……のだが。


「おとーしゃん!」


 俺たちの姿を見ていた、タイガが、


「あたちも、おとーしゃんとキスしたいー!」


 と言ってきた。


「いやぁ……それは……危ないんじゃないか?」


 なにせタイガは、S級モンスターの雷獣だ。現段階で超強い。その上で三倍の強さを手に入れたら……。


 と思って渋っていると、「ぴーーーーーーーー!」とタイガが泣いてしまった。


 俺は了承し、タイガにキスをした。結果、【指導者】の能力アップにより、タイガはS級モンスターからランクアップして、SS級になったのだった。

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