107.勇者グスカス
怖じ気づいたグスカスは、怪我人を連れて戻ろうとする。
だが……。
「なっ!? 来た道がふさがってやがる……!」
さっきまであったはずの通路が、壁によって塞がれていた。
グスカスは一旦怪我人をおろして、壁を調べる。
ボタンのようなたぐいはなく、完全に通路が塞がれてしまってる。
「……しまった……ダンジョンは生きてるって、ジューダスもいってた……」
ダンジョンの内部構造は、刻一刻と変化してるらしい。
特にランクの高いダンジョンは、頻繁に内部の作りが変動してるとのこと。
来た道が使えなくなっているのも当然と言えた。
「ちくしょう……どうすりゃいいんだ……」
こんな短時間で通路が変形したとなると、相当ランクの高いダンジョンだ。
こんなところに長くとどまっているわけにはいかない。
かといって、救援に期待して動かないのも悪手……。
「……先に進んでくれ」
怪我人がうめくようにつぶやく。
「ぼくを……おいて……」
「…………」
以前のグスカスなら、怪我人が起きる前に彼を置いて、逃げ去っていっただろう。
だが今は、ちがう。
「馬鹿が。黙ってろ」
グスカスは怪我人を背負って、ダンジョンの奥へと進む。
戻れない以上、前に進むしかないのだ。
「お、おいてってください……」
「うるせえ! おまえは黙ってろ!」
置いてけるわけがなかった。
自分と同じように弱い人間を。
職業の補正が無い状態で、高ランクダンジョンをうろつくなんて自殺行為に等しい。
……それでも、今の彼には、怪我人を置いて先へ進むという選択ができなかった。




