惨劇・第一次フェルト・ヘルン・ハレ攻防戦編・遮断
万朶の桜か襟の色
花は吉野に嵐吹く
大和男子と生まれては
散兵線の華と散れ
歩兵の本領・一番歌詞
大陸歴438年実りの月三日・フェルト・ヘルン・ハレ周辺
完全な失敗に終わった第一次総攻撃によって甚大な損害を受けたヴァイスブルク男爵領国軍とリステバルス王国軍は士気を大きく低下させながらも陣営を構築して、夕刻頃にフェルト・ヘルン・ハレに対する包囲網を概成させるとフェルト・ヘルン・ハレからの逆襲に備えながら監視を始め、それとほほ同時にリステバルス王国軍の陣営から伝令が後詰のツェントラル同盟軍に向けて派遣された。
派遣された2名の伝令は得体の知れない強固な要塞から離れられる事に内心で安堵しながら茜色に染まる木々の合間を暫く進んだ後に小休止の為に木陰に入り、革袋に入れた水で喉を湿した後にフェルト・ヘルン・ハレから降り注ぐ魔法射撃と弩砲の弾雨を思い出して顔をしかめさながら言葉を交わす。
「……全く、上に気に入られたい団長に連れられた森の中で見た事も無い要塞から滅多打ちにされるなんて貧乏籤も良い所だな」
「……全くだ、魔法や弩砲が雨の様に降り注ぐ中突撃なんて貧乏籤以外の何物でも無いぜ」
2人がそう言葉を交わしながら周囲を見渡すとツェントラル同盟軍の陣営に向かう経路上に複数の人影が現れ、それを確認した2人は反射的に身体を固くさせつつその人影に目を凝らした。
近付く人影は徐々にその姿をはっきりとさせて行き、分隊規模のイエナ伯国軍の軍装を纏った騎乗騎士の姿となり、友軍の姿を目にした2人は緊張を解き安堵の表情を浮かべて木陰から出ると、近付いてくる一団に向けて大きく手を振りゆっくりと近付きながら一団に声をかけた。
「……イエナ伯国軍の皆様、リステバルス王国軍の伝令です、ツェントラル同盟軍への援軍要請に派遣され移動中です」
伝令の言葉を受けた騎乗騎士達は駒を止めると馬から降り隊長とおぼしき騎士が2人を手招きし、それを確認した2人が小走りに駆け寄ると厳しい顔付きで口を開く。
「……貴軍の戦闘音は此方でも確認された、我々は攻撃の進捗状況を確認する為の伝令として派遣されている途中だったのだが、状況はどうなっているのだ?」
「……は、はいっ、我軍は敵の砦に対する攻撃を実施しましたが敵の防備は予想外に高く第一次総攻撃は失敗に終わりました、戦力を再編し第二次総攻撃の実施を目指しましたが敵の砦の魔法弾射撃を浴び中止せざるを得ませんでした、現在我軍は敵の砦への包囲態勢を構築しつつ我々がツェントラル同盟軍の皆様への増援要請の為の伝令として移動中でした」
騎士の問いかけを受けた伝令の1人が猛烈なフェルト・ヘルン・ハレの防御火力を思い出して顔をしかめながら、攻撃失敗とそれに伴うツェントラル同盟への援軍要請出発に至った経緯を説明し、騎士はその説明に頷きながら何気無い動作で腰に挿した剣の柄を軽く指先で叩いた。
騎士の背後に控えていた騎士達はその動作を確認すると、周囲を警戒する様に見廻しながらゆっくりとした動きで説明を続ける伝令達を取り囲む様に散開し、説明を聞いていた騎士はそれを確認した後に説明を終えた伝令達を見ながら更に問いかける。
「……敵の拠点の状態は分かったが周囲の状況はどうなっている?我々は未確認だが周辺を大型モンスターが徘徊していたとの話もあったのだが?」
「水濠内にグロスポイズンサーペントがいましたがその他の大型モンスターは確認され」
騎士の問いを受けた伝令の1人が返答していると、その言葉を遮る様に周囲の木々の合間から下生えを踏みしだく音が漏れ聞こえ始め、それを聞いた伝令達が弾かれた様に周囲を見渡すと木々の合間から3体のブラッディマンティスが姿を現し伝令達を複眼で見据えながら両手の鎌を大きく掲げ威嚇する様に羽根を左右に広げた。
「……な、なんでグロスポイズンサーペントの他にブラッディマンティスもいるんだよ、この辺ではこんなモンスターは居ないん筈だろうが」
「……お、おい、様子が可怪しくないか?」
伝令が蒼白な表情で威嚇姿勢のブラッディマンティスを見ながら呟いいていると、もう1人の伝令が震え声を上げ、それを聞いた伝令は訝しげな表情になりながらブラッディマンティスの様子を窺ったが直ぐに同僚の感じた違和感の正体に気付き既に血の気が引いていた顔色を更に蒼白にはさせてしまう。
「……成程、やはり情報は正しかった様だな」
騎士は威嚇姿勢を取ったブラッディマンティスに無防備に背中を向けたまま佇みながら悠然とした口調で呟き、その様子を目にした伝令達が恐怖に顔面を蒼白にさせながら他の騎士達の様子を窺うと他の騎士達もブラッディマンティスに背中を向けた状態で伝令達を静かに見詰めていた。
「……な、なんで、ブラッディマンティスが背後にいるのに」
異様な光景を目の当たりにした伝令達は青褪めた表情で呟きながら後退りしようとしたが、既に周囲は騎士達によって取り囲まれてしまっていた上に更に木々の合間から数体のジンベルヴォルフまでもが出現して逃げ道を完全に閉ざしてしまい、それに気付いた伝令達が顔色を土気色に変えながらへたり込んでしまうと、騎士達を黒い焔が包み込み一拍の間を置いた後に爆ぜて騎士達を軍装を整えたボーンナイトへと変化させてしまう。
「……ア、アンデッド、そ、それもボーンナイトだと」
「……な、何なんだよ、この森は、一体何なんだよおぉぉぉぉっ!!」
伝令達が己を取り囲むボーンナイトと、その背後で威嚇姿勢を取り続けるブラッディマンティスの姿に恐怖と絶望に満ちた表情で悲鳴の様な声を張り上げると、それを合図とした様にボーンナイトの一部が躍動して伝令達に斬りかかり、茜色に染まる木々の合間に伝令達のあげた短い断末魔の絶叫が吸い込まれていった。
……アイリス様二御報告セヨ、敵部隊連絡線ノ遮断二成功セリ各隊ハ速ヤカニ展開シ敵輜重、伝令ヲ発見シタナラバ即座二殲滅セヨ……
伝令達を血祭りに上げたボーンナイト隊の指揮官はダンジョンで戦局の推移を見守っているアイリスに対する報告と連絡線遮断の実施を行い、その指示に従う様にヴァイスブルク男爵領国軍に擬態したブランデンブルク大隊のボーンナイト隊とブラッディマンティス隊が周辺に展開しフェルト・ヘルン・ハレ攻略部隊と後詰のツェントラル同盟軍部隊の唯一の連絡線を完全に遮断してしまった。
ダンジョン・マスタールーム
ボーンナイト中隊から齎されたフェルト・ヘルン・ハレ攻略部隊とツェントラル同盟軍部隊の連絡線遮断の報告は、出撃していふブランデンブルク大隊長のスコルツニィーによってマスタールームで戦局を見守っているアイリスとミリアリアに伝えられ、アイリスはヴァイスブルク男爵領国軍の第一次総攻撃の完全な失敗と連絡線遮断成功をもってフェルト・ヘルン・ハレの解囲作戦の実行を決意した。
「……敵の総攻撃は失敗し、唯一の連絡線もブランデンブルク大隊のボーンナイト中隊によって遮断する事に成功、ならば今度はこちらの番ね、フェルト・ヘルン・ハレ解囲作戦コンラートを発動するわ」
「……ああ、マリーカ様とアイリーン様から作戦参加者のリストを預かっている、確認してくれ」
アイリスの言葉を受けたミリアリアはコンラートに参加するヴァイスブルク佰国亡命政権軍とリステバルス皇国亡命政権軍、そして女戦士隊の参加リストを手渡し、それを確認したアイリスは侍女とマリーカ、アイリーンを除いた全員が参加リストに名を連ねているのを確認して、魔画像に映るスコルツニィーに声をかける。
「……スコルツニィー、我が盟友はブランデンブルク大隊の護衛に全幅の信頼を置いてくれたわ、ダンジョンに残るのは我が盟友の首魁と一部の侍女のみとなるわ、この意味、分かるわね?」
……無論デゴザイマス、我等ブランデンブルク大隊ヘノ信頼ソレハ即チ、盟友ノ皆様ノアイリス様ヘノ御信任ノ証、我等ブランデンブルク大隊、盟友ノ皆様ヲ必ズヤ守護シキッテミセマス……
アイリスの言葉を受けたスコルツニィーは恭しく一礼した後に返答し、アイリスはその返答に満足気に頷いた後に立ち上がり、同じく立ち上がったミリアリアに向けて楽しげに告げる。
「……それじゃあ、行きましょう、ミリア、私達の拠点、フェルト・ヘルン・ハレを救援する為に」
「……ああ、そうだな、行こうアイリス、私達の拠点を敵の攻囲から救援する為に」
アイリスに声をかけられたミリアリアは頷きながら返答した後に頬を仄かな桜色に染め、それに気付いたアイリスは嬉しそうに頬を緩めながらミリアリア二もたれかかり、その腕に抱かれながら作戦参加者の待つブリーフィングルームへと移動していった。
完全な失敗に終わった第一次総攻撃の結果を受けリステバルス王国軍が派遣した伝令はその途上でイエナ佰国軍のパトロール隊と遭遇したが、その正体はブランデンブルク大隊のボーンナイト中隊のボーンナイト達の擬態した姿であり、容易く伝令達を屠ったボーンナイト中隊はフェルト・ヘルン・ハレ攻略部隊とツェントラル同盟軍軍の連絡線を遮断する事に成功した。
連絡線遮断の報告をスコルツニィーから受けたアイリスはフェルト・ヘルン・ハレ攻略部隊に対する反撃と解囲を目的とした解囲作戦コンラートの発動を決意し、ミリアリアの腕に抱かれながら作戦の準備を開始した……




